第83話 空からの刺客

「ええい、パヴェールはまだ現れないのか!」


協力者であるパヴェールが来ない。

ブラジェはしびれを切らし、怒鳴り始める。


「はっ。どうやら重装歩兵部隊が主力のためか、

 移動に手間取っているようです。

 いかがしましょうか」


部下の報告に、ブラジェはしばらく考えこむ。


パヴェールが来るのは、かなり遅くなりそうであり、

作戦を変更する必要があると判断した。


「本来ならパヴェールと挟み撃ちにするつもりだったが……。

 パヴェールが遅れるとすれば、話は別だ。

 このままでは絶好の機会を逃してしまう」


「我々だけで襲撃するのですか」


「ノエル傭兵団の半分は、パヴェールたちとの戦いで負傷しているという。

 つまり戦力は半分だ。我々だけでも勝機はある。

 しくじらなければの話だが、な」


「どのように襲撃しますか」


「空を見よ」


ブラジェは天空を指さした。


「空……ですか?」


部下は何もわかっていない様子だ。


「ああ、空だ。空には我々の味方がいる。

 お前も見たことがあるな?

 空を駆ける兵士の姿を」


「まさか空の戦力を使うのですか」


「そうだ。

 橋の上だけが戦場ではない。それを思い知らせてやる」


ブラジェはにやりと笑みを浮かべた。


「お前たちは橋の上に陣取り、ノエルたちの進行を止めろ。

 だが積極的に攻めていくな。

 空の戦力が来るまでは、じっと待っているんだ」


「はっ!」


部下は、そう言うと、橋の上のほうへと走っていた。


一方、ノエルたちは、橋の上で止まらざるを得なかった。

ブラジェたちの配下の兵が、橋の上を陣取っているからだ。


「橋の上に、あんなに敵が……。

 これでは進むことができないな。

 あいつらから襲ってくる気配はないが、

 かと言って後ろに退けば……」


「後方からの敵の餌食になりますね。

 まだ来てないみたいですけど」


「クリム。どうすればいい」


「ノエルさんとザルツさんで前線に出て、

 敵兵を威嚇しながらじりじり進むしかないですね。

 なるべくすみやかに」


「進むしかないってことか……わかった」


ノエルは、重装歩兵であるザルツを呼び、

一緒に武器を構えて、前方の敵へじりじりと近づいていった。


前方には、槍歩兵や剣歩兵たちが多数いて、

ノエルたちの足止めをしようとしていた。


「何のつもりかわからないが、ここを通してもらおう」


ノエルが、前方の敵兵に向かって警告する。


「そうはいかん。

 我々を倒してから通るのだな」


通す、通さない、としばらく押し問答をしていたが、

ザルツが突撃したのを皮切りに、戦闘が始まった。


そのときだった。

クリムは、頭上に黒い影が飛んでいることに気づく。

頭上の黒い影が何者か、クリムはすぐに察知した。


最初は鳥かと思ったが、鳥にしてはずいぶんと大きな影だった。

まるで巨大な鳥のような――。


「ノエルさん! ザルツさん! 空から来ます!」


飛行兵。「天空騎兵」とも呼ばれる種類の兵種だ。


大きな鳥に乗り、空を駆け、鳥のカギ爪で、相手を切り刻む。

危険な敵だ。


「空!? なんだ!?」


戦闘に夢中だったノエルとザルツは気づくのが少し遅れた。


シュッ!


風を切る音とともに、ノエルは橋の柵にたたきつけられた。

大きな衝撃に、体がしびれる。


ノエルは、鳥のカギ爪を、ぎりぎり紙一重で回避していたが、

天空騎兵の羽の風圧に足もとをすくわれ、柵に激突した。

(ザルツは体重が重く、鎧に包まれていたので、ダメージは無かった)


「なにっ! 空を飛んでいるだと!?」


ノエルは空を見上げた。4羽ほどの巨鳥が空を舞っている。


「天空騎兵です! 空からの攻撃に気をつけてください!」


「なんだって! くそっ……。

 あんな高いところにいる奴に、攻撃は届かない!」


ノエルは宝刀(剣)しかもっていない。

弓か魔法でないかぎりは、空にいる鳥を撃ち落とすことはできない。


「このままではまずいですね。

 そうだ。後方にいるロシェさんとリコッテさんを呼び戻します」


そんなことをすれば、後方の警戒の目はゆるむ。

だが今はそう言っていられないほど、切迫した状況だった。

空からの攻撃がくる。だが反撃できる武器がない。


反撃できるのは、弓か魔法だけ――。

弓歩兵のロシェか、魔導士のリコッテにしかできない。


クリムは大急ぎで、後方のロシェとリコッテを呼び戻しにいく。


「今だ! 天空騎兵と連携して、三方向から襲いかかれ!」


橋の上の敵兵たちは、防御態勢を止め、ノエルとザルツに突撃していく。

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