第79話 分離

ノエルたちは裏口から館の外へ出た。多くの負傷者を連れながら。


敵に囲まれ、容赦ない攻撃を受けた結果、

多くの負傷者を出す事態となった。

負傷者が多すぎて、ミスティの治療も間に合わない。


ノエル傭兵団は半壊状態だ。

ノエルは、自分の判断ミスを悔やんだ。


「こんなにケガ人が出てしまうなんて……俺はどうすればよかったんだ」


「ノエルさん! 今は悔やんでいる場合ではありません。

 すみやかに館から遠ざかりましょう。

 敵の援軍が来るかもしれません」


「そうだな。わかったよ、クリム」


「ザッハさん、ヘーゼルさん、シャロさんは負傷し、

 馬車の中で治療を受けています。リッターさんも負傷しています。

 ザルツさんは、さすがに鋼鉄の鎧のおかげで無事みたいです」


「そうか。リンツやロシェは?」


「ふたりともご無事です。

 おふたりは物陰から矢を放ってたので、敵の攻撃を受けにくかったのです。

 後方の敵の多くは、リンツさんやロシェさんのご活躍のおかげで

 追い払われています」


「そうか、それはよかった……。

 あとはステラたちだが」


「僕たちは無事だよ!」


横からステラたちが割って入ってくる。


「……なんだ、そのうしろの子どもたちは」


ノエルの目には、ステラのうしろにいる、双子盗賊の姿が映っていた。


「子供じゃないってば!」「そうだよ!」


ヨークとルトは抗議するが、ノエルの目から見れば、低身長で童顔であったため、子供にしか見えなかった(実際、子供に近い年齢なのだが)


「ちょっとワケがあってね。僕たちの傭兵団に加入したいんだってさ」


「は? そんなこといつ言った! 俺たちは密約書状を返してもらいにだな……」


「密約書状? ああ、ステラが持ってきた、あの書状か……」


「そうだよ。俺たちはそれを返してもらいに来たんだ」


「何に使うつもりだ」


「詳しくは言えないけど、

 この密約書状でパヴェールを告発して、逮捕してもらうように、

 領主に届けにいこうとしてるんだよ」


「そんな危険な仕事をするつもりだったのか。

 なおさら渡すことはできないな。

 密約書状を運ぶなんて、道中、何者かに襲われる可能性だってあるのに」


「なんでだよ! 返してくれって! それがないと俺たちは……」


ヨークとルトは悲しそうな顔をした。


「なぜその危険な仕事をしないといけない?」


「俺たちは、もともと義賊団に所属していたけど、嫌気がさして辞めた。

 だから今ある人のもとで働いている。

 たしかに危険だけど、俺たちみたいな孤児がやっていくには

 そうするしかないんだ……」


「……」


ノエルは無言になった。しばらく考えこむ。

そして口を開く。


「わかった。この密約書状を領主に持っていけ」


「本当!?」


「ただし条件がある。

 お目付け役としてリンツやステラも同行させる」


「ええー!?」「そんな!」


「俺たちもパヴェールの悪行を見過ごすことはできない。

 罠にはめられ、負傷者も出た。

 賠償金を請求したいくらいだ。

 それに、お前たちは孤児だと言っていたが、いくあてはあるのか?」


「それは……」


ヨークとルトは、帝国諜報員のブラジェをたよりに仕事をしていたが、

そのブラジェも行方をくらましてしまった。

そもそもブラジェに拠点を提供していたパヴェールの館が燃え尽きた時点で

雇い主を喪失したようなものだった。


「それなら、うちの傭兵団に来てくれても構わない。

 偵察や斥候のメンバーが足りていないからな……」


「ふ、ふん。考えておいてやる……」


まんざらでも無さそうな様子だった。


「よし。リンツ、ステラ。ヨーク、ルト。

 領主に密約書状を届けてほしい。

 パヴェールの館は焼けてしまい、豪商パヴェールは行方知らずだ。

 だが生きている可能性はある。

 その可能性があるなら逮捕し、しかるべき罪をつぐなわせるべきだ」


「わかりました。

 ところで、ノエルさん。われわれとの合流はどの場所でいたしましょうか」


リンツがたずねる。


「これからクキ川を越えて、バーム市内へ到着する予定だ。

 クキ川を越えたあたりで合流しよう」


「了解しました。

 この付近は、パヴェールや帝国諜報部隊の生き残りがうろついているはずです。

 お気をつけください。負傷者が多いなかで襲われれば、

 かなり危険なことになるはずです」


「わかっている。リンツも気をつけて」


こうして、一時的だが、ノエルは、リンツたちと分かれて行動することになった。

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