第78話 火に包まれた館

「くっ……なんて強さなの。でもここでやられるわけには!」


シャロは、後方側の敵のリーダー・ブラジェに対して善戦していたが、

自慢の槍も、その素早さについていけず、あと一歩のところでとどめをさせないでいた。


「どこにいるの! 出てきなさい!」


シャロは、闇に紛れて消えたブラジェを探そうとする。

槍をつきつけ、にらみをきかせる。


「……」


ブラジェは音もなく忍び寄りそして――

シャロを切り裂いた。


「うああああっ」


シャロは負傷し、その場に倒れた。

支える手を失った槍が、地面にころんころんと転がっていく。


「まだ死んではいないか。ならば、とどめを!」


ブラジェは、シャロにとどめを刺そうとしたそのとき――。


「火事だー!!!」


大声で誰かが叫んだ。


そのとき、その場にいるほぼ全員が、何かを焼く煙のような匂いを感じた。


戦闘が止まる。


「火事? いったいどこで……」


誰もが思った。

煙の匂いはだんだん強くなる。

あきらかに燃え広がっている様子だった。


脳天気な声が聞こえてきた。


「もう、燃やしすぎだよー! リコッテ!」


「止めないで、ステア。

 このくらいやらないと気が済まないわ。

 どんどん燃やしていくから」


そう言いながら、リコッテは、目の前の部屋に、炎魔法をぶつけた。

木製のドアは勢いよく燃えていく。


ステラとリコッテの姿が現れる。

そのうしろから、あきれた顔をしながら、ヨークとルトもついてくる。


兵長サバラーンは放火するリコッテの姿を見て、怒鳴りつける。


「放火犯はお前か! うぬぬ。配下の兵に対する横暴だけでなく

 館まで燃やすとは! おい女よ! もう許しはせんぞ!」


「横暴? どっちが横暴なのよ。

 私を地下牢に閉じこめて、売ろうとしていたくせに!」


「なんだとっ! その口、だまらせてくれる!

 ゆけ! 者ども!」


サバラーンは、配下の警備兵に命令を出した。


「忙しいので無理です! はああっ! この!」


しかし、配下の警備兵たちは、ザルツやリッターと戦っているせいで

命令を聞くことができなかった。


「おのれ! 使えない兵士どもめ。

 もういい! こうなったら俺みずから戦ってくれるわ!」


サバラーンは、大きな斧を構えて、巨人のように動き出した。


「俺のこの斧は、鋼鉄をも打ち砕く。

 お前のような乙女の柔肌なら、ひとたまりもないぞ。

 そのきれいな肌が傷つく前に降伏しろ!」


サバラーンは威張ったように言う。

だがリコッテは平然としていた。


「肌、肌、うるさい。

 セクハラしてる暇があったら……自分の命の心配をしたらどう?

 燃やすわよ!」


リコッテは、右の手のひらに、炎球を発動させた。

燃えさかる炎球は、リコッテの手のひらを明るく照らしている。


「言っとくけど、いくら鎧なんてつけてても、

 炎の魔法に焼かれたら無事では済まないわよ。わかってるわよね」


リコッテは警告する。


「え? そうなの?」


「知らなかったんかい! そんなんでよく兵長やってたな!」


「ま、待て! 炎は卑怯だぞ!」


「もう遅い! 燃えろ!」


リコッテは手のひらの上の炎球を、ボールを投げるかのように飛ばした。

それは一直線にサバラーンのほうに向かっていく。


「うがあああああああああああ」


サバラーンは炎に包まれ、崩れていった。

この様子ではもう戦うこともできないだろう。


サバラーンが倒れた様子を見て、

残った警備兵たちは怖気づき、逃げていった。

結果として、裏口は完全にがら空きとなった。


「裏口が開いた! みんな! 

 負傷者を回収して一気に裏口から逃げるんだ!」


ノエルは裏口ががら空きになったところを見て、命令を出した。


「リコッテ。もういいから逃げよう!」


ステラは、まだ燃やそうとするリコッテを止めて、裏口から逃そうとする。


「まだ足りないわ……。

 でも、もうそろそろいいかしらね。

 これくらいにしときましょ」


リコッテはまだ燃やしたりないようだったが、

ステラの制止により、放火行動を止めた。


あとの話に聞いたところ、パヴェールの館は全焼したらしい。

リコッテの放火のせいで……。




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