第77話 裏口警備隊との交戦

一方、ノエルたちは危機に陥っていた。


ザルツの案内で裏口にたどりついた……のはいいが、

裏口の警備も想像以上に強固なものだった。


重装歩兵が前列に数名。鎧と盾で攻撃を防ぐ。

そのうしろから弓歩兵が数名。矢を放つ。


指揮をとるのは兵長サバラーン。

サバラーン自身もまた、重たい鎧を身にまとい、巨人のごとく立ちふさがる。


「ひとりも逃がすな! ミスティ王女以外は死んでも構わん!」


サバラーンは、大声で警備兵たちに指示を出す。


「前列に重装歩兵、後列に弓兵……。

 普通に強い隊列を組んでいますね」


リンツは深刻そうな顔をした。


実際、この隊列は強い。


重装歩兵を倒そうとすれば、弓兵の矢に狙われ、

弓兵を倒そうとすれば、前列の重装歩兵を突破できない。

完璧な布陣だった。


「リンツ! ロシェ! 後方の弓兵を狙え!」


ノエルは、自軍の二人の弓兵に指示を出す。


「ノエルさん。無茶です。

 我々が矢を撃っても、前列の重装歩兵に阻まれます」


「だがこのままでは……負けてしまう」


こうしている間にも、重装歩兵たちは「ズシ、ズシ」と重たい足音を立てながら

こちらへ迫ってくる。


「ここは後退し、狭い通路に入り、1体ずつ相手にするべきです。

 この広い場所では不利です」


「わかった。うしろに下がっ……」


ノエルたちが後ろに下がろうとしたところだった。


「うわっ! うしろからも敵が……!」


後方にいる誰かが悲鳴をあげた。


「なにっ!? なんだ、あいつらは!」


後方を振り向けば、黒づくめの姿をし、手に刃物をにぎった不審者たちが現れ、

こちらに襲い掛かってくるのが見えた。

あきらかに警備兵ではない。


ノエルたちは知らなかったが、

彼らは、パヴェールと手を組んだ帝国諜報部隊の人間たちだった。

ブラジェの指揮のもと、警備兵たちと協力し、ノエルたちを追い詰める。


「くそっ! 素早い奴らだ! 攻撃が当たらん!」


剣騎士ヘーゼルは、後方の不審者たちに剣をふるうが、攻撃が当たらない。

すばやい身のこなしで、次々とかわされる。


「挟まれちゃったか。こいつは……やばいかもね」


槍騎士ザッハは、苦笑いを浮かべながら、敵に槍を突き出す。

その槍先も、むなしく空を切るだけだ。


「……囲まれました。全力で戦わねば、血路は開けないでしょう」


リンツは策を言わなかった。

いや、正確には「全力出すしかない」という策を言った。


ノエルは覚悟を決め、目の前の重装歩兵をにらみつけた。


「ザルツ! リッター! 俺に続け! 前方の敵を突破する!」


ノエルは、斧騎士リッターと重装槍歩兵ザルツに指示を出した。


宝刀を振り回し、先頭を走るノエル。

そのうしろから、大きな斧を構えたリッターと、重い鎧に身を包んだザルツが続き、

決死の覚悟で突撃をするのだった。


勝ち目は半分。運がよければ重装歩兵を突破でき、血路を開くことができる。

運が悪ければ、矢に刺されておしまいだ。


「そこをどけ!」


ノエルの鬼気迫る顔に、気圧されたのか、重装歩兵たちは歩みを止めた。

その隙をノエルは見逃さない。

柱のように分厚い宝刀を、分厚い兜に叩き込んだ。全力で。


「うおおおおおおお!!!」


にぶい音。脳が揺れるほどの衝撃。

兜とその中身の形が激しく変わり、重装歩兵のひとりがその場に倒れる。

大音響を立てながら。


ノエルも無事ではなかった。矢が2~3本かすめ、体のあちこちが負傷した。


それでもノエルは死の恐怖を忘れ、目の前の重装歩兵を倒すことに集中した。

敵の胸板をくだき、胴体をへこませ、頭をつぶした。


気がつけば、目の前の重装歩兵で、動ける者は3人程度にまで減っていた。

その残りの3人も、怖気づいたのか、じりじりと後退している。


「ぐっ……体が……」


ノエルはその場に膝をつく。鉛のように体が重い。

全力を出した結果、思ったよりも体へのダメージは大きかった。

致命傷は受けていないが、体のあちこちが痛く、動きにくい。


動けなくなったノエルを見て勝機を得たりと、敵の重装歩兵が寄ってくる。

このままノエルはやられてしまうのか。


だが、そうはならなかった。

ノエルの前に、ザルツとリッターが現れ、かばうように

重装歩兵の前に立ちはだかる。


「ノエル。あとは俺たちがやる」

「そこで休んでろ」


ノエルは二人の後ろ姿を見送ったあと、後方の戦闘の様子が気になり、目をやった。


「かなり、やられているな……」


何人か倒れている。敵も味方も。

かなり壮絶な相打ち合戦になっているようだった。

みんなが心配だ。でも加勢しにいく気力もない。


「ノエルさん! こちらへ!」


クリムが俺の手を引っ張り、うしろへと引かしてくれる。

クリムは軍師であり戦うことはできないので、デニスやミスティと一緒に後方待機が多い。


「ああ、すまない……。被害状況はわかるか」


「後方の敵の半数は倒しましたが、まだ親玉が残っています。

 ヘーゼルさん、ザッハさんが負傷し、

 ミスティさんが治療をしようとしています。

 シャロさん、リンツさん、ロシェさんが戦っています」


「そうか。俺も早く復帰せんと……」


「とにかく今は休んでください。

 傭兵団のリーダーであるノエルさんが何かあれば大変です」


「ああ、わかっている。わかっているが早くなんとかしないと

 俺たちは全滅してしまう……」


敵は強い。このままでは全滅だ。ノエルは気が気でなかった。


そのときだった。突然誰かが叫びだした。


「火事だー!!!」

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