第75話 人身売買

「もうそんなにいっぱい盗んだの?」


ステラは、ヨークとルトの大きな袋を見て言った。


「ああ。ここの警備は大したことがない」


「ちょっとちょうだい」


ステラは手を差し出す。


「やなこった」「いやだよ」


双子は同時に声を出す。


「ケチ。じゃあ、僕、別の部屋から盗んでくるから」


ステラは、ヨークとルトの横をさっと走り抜けると、別の部屋に侵入していった。


「あ、おい! 待てよ!」


ヨークとルトはステラのあとを追いかける。

探している密約書状を持っているのは、ステラの兄だ。

ステラを見失うわけにはいかなかった。


その後、ステラとヨークとルトは、館内の金品を荒らしまわる。

その中で、金品ではないが、たいへんな物を見つけることになってしまった。


「うわぁ……書類がいっぱい。金目のものは無さそう」


ステラはキャビネットを開けてガッカリした。

書類だらけ。金目のものなし。

閉めて、その場を立ち去ろうとした。


ヨークとルトは口をはさんでくる。


「知らねーのか? 書類もかなりカネになるんだぜ」


「どういうこと?」


「書類に変な契約が書かれてあったり、

 驚愕の真実が書かれてあったりすると、

 素晴らしい情報ネタになって、

 それを売りさばくことができるんだぜ」


「な、なんだってー!?」


「まあ、こんな書類の山から情報ネタを見つけるのは骨が折れるけどな」


「探してみるよ!」


カサカサカサカサと書類の山をかきわける。


「おいおい、書類の山さがすのもいいけど、

 そろそろお前の兄貴に会わせてくれよ……。

 早くあの密約書状を取り戻さないと」


「待ってってば! もう少し……あっ。

 なんだこれ」


書類の山から気になるタイトルのものを見つけた。


「人形売買報告書」


人形?

そんなもの、わざわざ売って報告するほどの内容だろうか。

ステラはそこが引っかかった。

読み進める。


「〇月〇日:身長160センチの女の人形が1体売れた。

 〇月〇日:身長150センチの女の人形が1体売れた。

 以下同じような内容がえんえんと続く」


「身長160センチの人形……? ずいぶん人形にしては大きすぎない?」


「それは人形じゃないよ」


「どういうこと?」


ステラは少しだけ、嫌な予感がしていた。


「人間だよ」


「!」


「『人間が1人売れた』と書いてしまうと、

 バレたときに言い訳できないから、『人形』と書いてあるのさ。

 苦しい言い訳だけど……」


「人身売買って禁止されているんじゃないの?」


「そんなのいくらでも違反できるさ。

 とくに力を持っている大商人はね」


「そんな……」


「こんなに貧富の差が広がっているんだ。

 人身売買が横行するのも無理ないさ」


ステラはこれ以上、言葉を発する気になれず、黙り込む。


「とりあえず、この『人形売買報告書』もカネになるよ。

 豪商パヴェールの人身売買の証拠をつかんだ!

 って売り込めばね」


ヨークは、「人形売買報告書」をつかもうとする。


「待って。もう少しそれを僕に見せて。

 最後の一行をまだ読んでいないんだ」


「こんなの見てもあまりおもしろくないと思うけど……。

 で、最後の一行になんて書いてあるんだ?」


「えっと……。

 『在庫1体あり。地下牢に保管。〇月〇日に売る予定』と書いてあるね。

 まだ売られていない『人形』がいるみたい」


「在庫か。嫌な書き方だな。

 ……待てよ。ということは、

 これから売られる人が地下牢にいるってことか」


「人身売買はひどいね。助けてあげようかな」


「おいおい何いってるんだ。無茶だよ。

 警備兵もいるはずなのに」


「こっちは3人いるから大丈夫だよ」


「いやいやお前……俺たちも戦うのかよ!」


「あれぇ?

 密約書状……返してもらいたくないの?」


ステラは悪人のような笑みを浮かべる。

ヨークとルトは弱りだす。


「ぐっ……弱みにつけこみやがって。

 わかった、わかったよ。行けばいいんだろ!」

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