第51話 双子の盗賊

モンドアー伯爵邸は騒乱の炎に包まれた。

倉庫の木箱にまぎれた侵入者たちは、館内を荒らしまわる。

ある者は破壊し、ある者は殺傷を行い、ある者は盗みを働いた。

警備兵は応戦していたが、騒乱が治まるには、まだ時間がかかりそうな様相を見せている。


俺たちとミスティの宿泊している客室施設は、

伯爵私室や、倉庫・宝物庫から離れており、割と安全な場所のようだった。

敵がこちらにやってくる様子はない。不気味なほど静かだった。


「周囲の状況が気になります。

 ノエル殿。

 私とザッハ君は、周囲の様子を偵察してきます。

 ミスティ公女の護衛はお願いします」


「わかった。くれぐれも気をつけてくれ」


リンツは槍騎士ザッハを伴い、客室施設を離れ、偵察へと向かった。


残った俺たちは、ミスティ護衛のための陣営を整えた。

部屋の前には、シャロとリッターが、各自、武器を構えて立っている。

いつか、闇夜にまぎれて、敵が現れるかもしれない。緊張感が漂う。


室内には、不安そうな表情のミスティ公女が座っている。

俺は、室内に敵が押し寄せてきた場合を考え、

アマレートからもらった宝剣を握ったまま、ドアや窓をにらみつけていた。

クリムは、何やら、地図のようなものをずっと見ている。


「クリム。いったい何を見ているんだ」


「伯爵邸の見取り図です。

 図を見れば、どこの部屋に何があるか、だいたいわかります。

 この戦いの作戦を立てたのも、この見取り図があればこそです」


俺は、見取り図を覗き込んだ。

たしかに、話に聞いたとおり、俺たちのいる場所と、

伯爵のいる場所や宝物庫はだいぶ離れている。


「特に義賊団の狙っている場所といえば、ここの宝物庫にあたる部分です。

 警備が厳重なぶん、かなりの金品が存在するともいえます」


「それもそうだな」


「今頃、ステラさんとヘーゼルさんが、宝物庫に向かっているはずです」


「無事だといいが……」


「まあ、ステラさんとヘーゼルさんなら大丈夫でしょう」


いま宝物庫はいったいどのような状況だろうか……。

正直な話、金品より、ステラとヘーゼルのほうが心配だ。

俺は、リンツの提案を呑んだことを少し後悔していた。

無事でいてくれ、ステラ、ヘーゼル。


ノエルたちの心配をよそに、ステラとヘーゼルは宝物庫の前にいた。

宝物庫は警備が厳重で、警備兵だらけであった。

ここまで警備が厳重にも関わらず、すでに宝物庫の内部には侵入者がいた。


宝物庫の内部には、二つの影があった。

その影の正体は、義賊団所属の双子の少年盗賊、「ヨーク」と「ルト」であった。


「警備兵がいっぱいいるよ、ルト」

「そうだね、ヨーク」

「どうする?」

「俺たちの腕力じゃ、警備兵には勝てない」

「そのまま帰るの?」

「帰るわけないよ。スキを見て逃げるんだよ、ルト」

「わかったよ、ヨーク。

 でも、あまりドジるとザムに怒られるよ」

「俺あいつ嫌い。今回の任務だってマジでやる気ないもん」

「ザムがリーダーだから?」

「そうだよ」

「俺もあいつ嫌いだよ」

「そうだよな」

「それに、どうせ金品を奪っても、

 良いものは義賊団の権力者に渡るだけだし、

 盗んでも無駄な気がしてきたよ。

 いっそ義賊団を抜けたほうがいいと思うよ」

「それはいいけど、義賊団辞めたあとどうするよ」

「そうだな……放浪するか」


ヨークとルトは、お互い、困ったように顔を見合わせる。

その顔は、瓜二つと言ってもいいほど、そっくりだった。


ヨークとルトは、貧しい双子の少年である。

両親を失い、孤児院で暮らすも、なじむことができず、脱走。

盗みで生計を立てて暮らしていた。

盗みの腕を買われ、義賊団に所属。手腕を遺憾なく発揮していた。


だが、このところ、義賊団も荒れてしまい、ザムのような粗暴な人間の指示で動くことも増えてきてしまい、嫌気がさしていた。

伯爵邸への侵入や窃盗も、あまり乗り気ではなかったようだ。


「とりあえず、放浪するにもお金がいるから、

 宝物庫の中身をちょろまかそうか」

「そうだね、そうしよう」

「よーし頑張るぞ!」


ヨークとルトは、細腕をまくり上げると、仕事道具を取り出し、手あたり次第に、宝箱を開け始めた。

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