第43話 伝家の宝刀

起きたら、ベッドの上だった。

たしか俺は、ミスティの魔法を受けて意識を失ったはず。

どうやってここまで戻ったか、記憶にない。


だがとてもすがすがしい。寝起きがいい。

今なら、なんでもできそうな気がする。

やはり、ミスティの魔法は最高だ……。


今なら。

今なら……魔剣を抜けるのではないだろうか。

過去のトラウマのせいで、抜けなくなった魔剣。

俺は今、とてつもない万能感にあふれている。

よし、魔剣を抜いてみよう。

俺は、魔剣を持つと、中庭に出た。

広くて安全な場所で剣は抜いたほうがいいだろう。


魔剣の鞘と柄に触れる。

ぐっ。

ぐぐっ……。

ぐぐぐぐぐ……。

ぐぐぐぐぐ ぐぐぐぐぐ ぐぐぐぐぐ……。


はぁはぁ……。抜けない。

くそっ。なんでだ……。

ミスティの魔法の効果を受けてもなお、俺は魔剣を抜けないのか。


あれ? そういえば俺……。

武器が無い。抜けない魔剣しかもっていない。


なんてことだ。

傭兵団長ともあろうものが、武器を使えない。

こいつは参った……。


町に出て、武器を購入するか?

うーん……。

でも予算のほうは大丈夫だろうか。

俺はあまり傭兵団のお金のことは詳しくない。

クリムあたりにでも相談するか。

傭兵団の会計係が必要かもしれないな……。


俺は、悩みながら、館の正門前まで来る。

そこで、ある人とすれちがった。


アマレートだ。


「こんな朝早くから、いったいどうしたのだ、ノエル」


「いや、町に……武器を見に行こうかと思って」


「武器の準備は済ませていなかったのか?」


俺は、事情をアマレートに説明した。


「そうか……。魔剣はまだ抜けないのだな。

 代替武器を用意する必要があると。

 そうだな……」


アマレートは少しだけ両腕を組んで何か考え事をする。

何を考えているのだろう。


「ついてこい。見せたいものがある。少し遠いが……」


そういわれて、アマレートについていく。

アマレートの邸宅だろうか。大きな館が見えてくる。

そして、俺は邸宅敷地内に入り、何やら倉庫のような場所にたどりつく。


「ここは私の家族の邸宅だ。

 そして、この倉庫に、渡したい武器はある。

 ここらへんにあったかな……」


アマレートは、倉庫内を調べてきて、一振りの剣を俺に手渡した。


「これは……」


「我が家に伝わる伝家の宝刀だ」


「そんな大事なものを俺に?」


「私には扱えそうにないからな……」


「どういうことですか」


「その剣を抜いてみればわかる」


俺は、剣の鞘を抜いた。


ん?

あまり刀身がきれいではない。

というか……これ……


「これ、ただの鉄の塊。ナマクラじゃないですか」


「そうだ」


「これが伝家の宝刀?」


「話に聞いたところ、君は、魔剣だけでなく、

 刃物もにぎれなくなったそうだな。

 心の病というのは、恐ろしいものだ。

 だが、この伝家の宝刀は、ナマクラだ。

 人を斬れぬナマクラなら、君にも扱えると思って渡した」


たしかに、俺の心には、この宝刀に対する拒否感がない。

手になじんで、しっくりくる。


「この伝家の宝刀は、我が祖先の、初代当主が使っていたものだ。

 初代当主は、カネが無かった。

 そこに落ちてたナマクラを宝刀と呼び、敵をぶん殴っていたそうだ。

 あくまで伝説なのだが……」


とんでもない当主だ。


「この宝刀は、打撃系の武器だ。

 重い鎧を着た敵に、有効なダメージを与えることができるだろう。

 もし、行軍中に、重い鎧を着た敵に会ったら、これで一発殴ってみてくれ」


「わかった。こんな大事なものを……ありがとう」


「礼を言われるほどではない。

 ぜひ有効に使ってくれ。私には扱えないからな……。

 さて、そろそろ時間だ。

 私も今日から、国境警備のために出発しなければいけない。

 君も、今日から王都へ向けて、ミスティ公女の護送をするのだろう。

 気をつけて行軍してくれ」


「そうだな……。アマレートも気をつけてくれ」


「帝国は、以前よりも力を増している。

 国境警備もいずれ突破されるかもしれない。

 君たちは急いで王都まで進んでくれ」


「そんな、縁起でもない……。

 アマレートがいるなら大丈夫だろう」


「私ひとりではどうにもならんさ。

 国境警備には、オーラン領以外からも騎士団や兵団が派遣されているが、

 いまいち足並みがそろわなくてな……。

 警備の予算も少ない。王は本当に国境のことを考えているのだろうか」


アマレートの表情が沈んでいった。

本当に、あまり状況はよくないのだろう。苦悩が染み出ている。


「アマレート……」


「愚痴を言って済まなかった。

 その宝刀は、私のお守りだと思って、有効に扱ってくれ」


「わかった」


そして、俺はアマレートと別れ、領主の館に戻った。

俺たちは準備を済ませると、ミスティを連れて、領主の館をあとにした。

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