第39話 ノエル傭兵団

ヘーゼルは、俺たちを連れて、アマレートのいる自警団詰め所まで移動した。

そこで、ミスティの護衛について、詳しい話をしてもらうことになった。


アマレートは、椅子に腰かけていて、こちらの様子に気づくと、

「座ってくれ」と椅子に座るよう勧めた。

俺たちは、各々、着席する。


「……来てくれたか。

 ノエル。それに、シャルロット、ステラ、クリム。

 君たちを呼んだのは、理由がある」


「まず、聞いてほしい話がある。

 ミスティ公女のことだ。

 公女は――シュクレア国から亡命してきた貴族だ」


シュクレア!?


「シュクレア国……。

 この国の隣国であり、魔法使いの多い国ですね。

 つい最近、帝国軍の攻撃により、陥落したと」


クリムは、シュクレア国のことを知っているようだ。


「そうだ。

 ミスティ公女は、命からがら、帝国軍の魔の手から逃れたが、

 護衛もつけることができず、山賊に捕まってしまった。

 なんとか救出することはできたが、

 ミスティ公女は、今も帝国に付け狙われている。油断はできない」


アマレートは話を続ける。


「ミスティ公女を、王都まで護送する。

 領主様の館に保護するつもりだったが、ここは国境も近い。

 万一、帝国軍に国境をやぶられたら、危険だ。

 保護を強化するなら、国境から遠く離れた、

 王都まで護送するのが安全だと判断した」


「護送するのはわかりました。

 でも、なぜ私たちなのですか?

 騎士たちだけでも護送できるはず……」


シャロが、当然の疑問を口にした。


「騎士たちは、国境警備を厳命されていて、あまり数を割けない。

 それに、騎士は、男ばかりだ。

 女性であるミスティ公女の周辺の世話をする侍女が欲しい。

 護送は長期間に及ぶのだからね」


「アマレートさんは……公女の護衛をしないのですか」


「私は、国境警備の指揮に戻らなければならない。

 ついていくことは、できない。

 聞く話によると、そこの娘……ステラとか言ったな?

 公女と仲がいいそうだな?」


ステラは無言でうなずいた。


「ミスティ公女は、今、親もきょうだいも友人も、いない。

 すべてシュクレア侵攻で失った。

 公女は孤独だ。ステラ。ぜひ君に支えてもらいたい。

 それに、ミスティ公女は――私には、まだ心を開いてくれない」


親も、きょうだいも、友人も、すべて失う。

血のつながり、友情も、すべて喪失した苦しみは、いかほどのものだろうか?

俺は、シュクレア侵攻の重みをずしりと感じた。


「シャルロット。

 君にも、ぜひ、公女の護衛をしてもらいたい

 山賊との戦闘で、君が活躍していたことは、十分聞いている。

 ステラと一緒に、公女を支えてやってはくれないか?」


「待ってください! 私には、村の生活が……。

 それにステラはまだ子供。とても無理です」


シャロは、あまり乗り気ではない様子だった。

村に溶け込んだ生活をしているシャロにとっては、

公女の護送というのは、まるでできない仕事だった。


「姉貴。僕は行くよ。兄貴もいるから平気だよ。ね?」


ステラは強気だ。


「ステラ! 公女の護衛というのはとても大変な任務なのよ!」


シャロは、ステラを説得しようとする。

だが、ステラはあまり聞く耳をもたない。


「僕も、一度、王都に出てみたいんだよね。

 村の生活は、僕はあまり好きじゃない……」


「……何を、言っているの。

 頭が痛くなってきた……もうっ」


シャロの表情がだんだん暗くなっていく。

家から急に、俺とステラとクリムがいなくなれば、

シャロはひとりぼっちになってしまう。

不安なのは、当たり前かもしれない。


「王都までの護送は、早くて数か月ほどで終わる。

 シャルロット。あまり、気落ちする必要はない。

 数か月、村を離れるだけだ。

 もちろん、多額の報酬は支払うつもりだ。

 悪くはない話だ。

 村の外の世界がどうなっているか、

 シャルロットにも見てもらいたい」


「……考えさせてください」


「そうか。では、ノエル。クリム。

 君たちの任務は重要だ。

 ノエル。君には、リーダーをやってもらいたい」


「俺がリーダー? どうしてまた……」


「公女の護送であると、大々的に知られるのはまずい。

 今も、帝国軍が、ミスティ公女を狙っているからだ。

 公女の護送であることを隠して、

 君たちには、旅の傭兵団のふりをしてもらいたい。

 傭兵団のリーダーといえば、やはり元傭兵である、ノエルが適任であると考える」


「……俺はリーダーの器ではない。重荷だ」


「何も、リーダーにすべて重荷を背負わせるつもりはない。

 私もいろいろ考えた。ノエルの補佐役を用意している。

 クリム。それが君だ」


「私がノエルさんの補佐ですか?」


「そうだ。クリムは、見習い軍師だったな?

 山賊との戦いでは、なかなかの腕前だったと見込んでいる。

 その経験を活かして、公女護送の際は、軍師役として、

 ノエルに知恵を貸してもらいたい」


「なるほど、そういうことですね」


「ほかに、私の信頼する騎士たちを何名か用意する。

 『ノエル傭兵団』として、公女の護送をよろしく頼む」


「自分の名前が傭兵団につけられるのは少し恥ずかしいな……」


俺は、「ノエル傭兵団」という名前にダサさと恥ずかしさを感じたので、

ある傭兵団名を考え、アマレートに提案した。


「『絶対魔剣(負けん)傭兵団』でどうでしょう」


秒で却下された。

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