第25話 不審者の死

私クリムは、今、宿屋の前にいます。

別に宿屋に泊まろうってわけじゃーありません。

ここに、不審者がいるので、自警団の皆さんと一緒に、見張っているのです。


私は軍師(?)が本業なのですが、

別に軍師だけやってるわけじゃないので、

村の自警団の皆さんと協力していろいろ作業してたりもします。


「フレッドさん、この宿屋ですね?

 不審な旅人がいるというのは」


「そうだぜ。

 まあ、あんまり人を疑うってのは好きじゃねーが、

 状況が状況だからしょうがないな」


自警団のフレッドさんは、あまり人を疑うのが好きではないようです。


「……あ、出てましたよ。あの人ですね」


あ、宿屋から、例の旅人さんが出てきました。

周辺をうかがい、きょろきょろしています。

ますます怪しいですね。


ついていきましょう。こっそりと。


あっ。


宿屋から少し離れた木の下で。

旅人さんは何か、紙に書いています。

ささっと書き終えました。


木には、見たことない鳥が止まっています。

あんな鳥、村にいましたっけ。

野鳥ではなさそうです。


あっ。

旅人さんは、口笛を鳴らします。

鳥さんが木の枝から降りてきます。

まさか……。


鳥さんの足元に、紙をくくりつけています。

あやしい。

何を書いて、どうしようというのでしょう。


これは、おさえたほうがいいでしょう。


「フレッドさん、あの旅人を尋問しましょう」


私とフレッドさんは、旅人に近づきます。


ですが、旅人もずいぶんと勘が良く、私たちの気配に気づいたようです。

目を丸くします。後ずさり、逃げ腰になります。


「ちょっといいですか、話をさせてください」

「ちっ!」


私の話も聞かず、旅人さんは逃げ始めます。

追いかけましょう!


「フレッドさん! 矢を! 矢を放ってください」


「人に? 鳥に?」


「両方です!」


フレッドさんは、一瞬、困ったような顔をしましたが、

矢をまず旅人さんの足もとに放ち、足止めします。

次、鳥のほうに矢を放ちました。鳥は、地面に落ちました。


旅人を尋問します。


「なぜ逃げたのですか」


「いきなり矢を放つとは物騒な奴らだ。

 俺が不審者でなかったらどうするつもりだ」


「不審だからこうして捕まえているのですよ。

 この村に来た目的はなんですか?

 さっき鳥にくくりつけてた紙には何と書いたのですか」


「……」


旅人は黙ったままです。


「フレッドさん。

 鳥にくくりつけられてた紙の中身を読んでいただけますか」


「ああ。ちょっと待ってくれ……。

 今から読むよ」


フレッドさんは、紙に書いてある内容を読み上げます。


『ターゲットの捕捉に失敗した。指示を待つ』

『ターゲットの近くに、魔剣使いや妙な盗賊がいる』


これは……!

ミスティさんを明らかに狙っているではないですか。

これはとっつかまえないといけないですね。


私は、不審な旅人を捕獲しようとしました。

が、甘くはありませんでした。


不審な旅人は、胸元から短剣を取り出すと、私につきつけます。

武器を隠し持っていましたか……。


「俺はそんな紙は知らない。

 旅しに来ただけなのに、さんざんな扱いだ。

 これ以上危害を加えるつもりなら、正当防衛をするぞ」


しらを切ります。さらに、正当防衛と言い張ります。

私も負けてはいません。


「今更なにを言っているのですか。

 今すぐ自警団の皆さんを呼んで捕まえますからね!」


「だから、やってないって言ってるだろ!

 こうなったら、俺の仲間を呼んで、逆にお前らをやっつけてやる」


不審な旅人さんは、小さな笛を取り出し、大きく吹きました。

しまった。周囲に仲間がいるのでしょうか。


「な、なんですか!? この人たちは……」


周囲を見回すと、ぞろぞろと、危険な目が光っています。

そして、あきらかに不審そうな人たちが姿を現します。

どこに潜んでいたのでしょうか……。気づきませんでした。


「まずいことになりましたね……」


自警団の人たちが駆けつけるにはもう少し時間がかかりそうです。

私とフレッドさんは不利な状況になりました。

こうなったら、あの手を使うしかありません。


「逃げましょう!」


軍師の計略のひとつに、「逃げる」という行為があります。

文字通りの意味です。

勝てない戦いはしない。してしまったら逃げる。

負けて命を失えば、軍師を続けることはできません。


もちろん、ただ闇雲に逃げているわけではありません。

自警団の詰め所に向かって逃げます。

何人か救助には来てくれるはず……。


そんなことを考えながら逃げてたら、路傍の石に引っかかり、

転んでしまいました。うぇ。


「クリム!」


フレッドさんが振り向いて、こけた私を見下ろします。

敵の足音は近づいてきます。

追いつかれるのも時間の問題でしょう。

このままでは……。


突然、矢が飛んできました。

私に、ではありません。


「ぐおっ!?」


苦痛の悲鳴があがったあと、近づいてきた敵の足音が止みました。


「クリム! フレッド!」


ハンナさんです。

助かった。うしろには、他の自警団の人たちもたくさんいます。

勝ったようなものです。


しかし、敵もひるんではいません。

かなりやる気のようです。


敵は6人。手に持っているのは短剣。顔はよく見えません。

しかし、武器を隠し持っているかもしれません。

あの手の暗殺者然とした奴らは、何かを隠し持っているのが通説です。

あまり接近すると危険な気がします……。


遠くから矢で攻撃したほうがいいでしょう。


「矢を射てください!」


間髪いれず、フレッドさんとハンナさんが矢を射ます。

敵に刺さってはいないようですが、少しだけひるみました。

が、やはり戦意は失っていないのか、こちらに向かってきます。

足止めするには、矢が足りません……。


いちかばちか、近接戦をするしかないようです。

自警団の皆さんは、各々の武器を構え、交戦状態に入りました。

しかし、自警団の持っている武器は重く、敵の動きについていけません。

このままじゃ、いつか死人が出てしまいます。


「クリム! みんな!」


援軍が来ました。

シャロさんです……!

槍を振り回して、頼もしそうです。


「危ない!」


シャロさんの近くにいた一人が、シャロさんに迫ります。

私は思わず叫びます。


シャロさんはあっさり槍で防ぐと、すぐに反撃に出て、

敵の一人を倒しました。


これで私たちは勢いづき、敵をひとり、またひとりと、倒していき、

壊滅させることができました。


「これで……敵は全滅ですね。皆さんの勝利です」


その後、私は、倒れている敵を起こします。事情聴取です。

いったい何者なのか、どういう理由で私たちを襲ったのか、紙に書いた内容は何なのか……。

訊きたいことは山ほどあります。


しかし、誰一人として口を割りません。

これは困りました。

とりあえず、村の簡易牢屋に放り込みましょう。


明日また尋問します。


……。


明日を迎えたその日、牢屋には誰一人として、人がいませんでした。

彼らはどこに?

捜索したところ、見つかりました。


全員、村はずれの崖の下で息を引き取っていました。

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