第16話 囚われの少女

話は数時間前にさかのぼる。


ステラは、自警団の会議の場から怒って出ていったあと、

自宅に戻り、自室や倉庫から、袋や短剣、食糧などを担ぎ出していた。


「これで準備OKだな!

 よーし、きょうは家に帰らないんだからな。

 兄貴たちを驚かせてやる」


ステラは、肩に袋を引き下げ、腰には短剣を帯びた。

遠出するときは、いつもこういう恰好をしている。


ステラは、窓の外をじっと見た。

山々がそびえたっている。

ステラの目的は、山賊の根城。

あの山のどこかに、それがある。


根城のたしかな場所を見つけ、

あわよくば、お宝も奪ってみせる。

「あいつら」を見返してやる。

ステラの欲望(?)は膨れ上がるばかりだった。


少女の膨れ上がった欲望は、高くて深い山々へ足を向けさせた。


クリムの書いた地図を記憶から呼び起こし、

方角を決め、道なき道を歩き、

無数の木をかいくぐり、茂みをかきわけ、

そろそろ疲れて後悔しだすころに、

建物らしき影がようやく見えてきた。


山城だ。ステラは目を輝かせた。

荒々しい岩石のようなその城は、

まぎれもなく山城だった。


ステラが生まれるよりもずっと昔から、こういう山城は存在したという。

昔々、この土地一体で、戦争があった。諸侯たちの戦争。

土地を争い、覇権を統一せんと、あちこちで争う。

そんな諸侯たちの戦争で、攻めにくい場所――つまり「山」に「城」が築かれた。

多くは、戦争後に破壊されたが、

一部は残り、山賊の根城に利用されているという。


ステラは歓喜したが、すぐに落ち着いた。

見つかったらまずい。あの山城にはすでに山賊がいるはず。

捕まったらどうなるかわからない。

ステラは、慎重に近寄っていく。ばれたときの言い訳も考えながら……。


でも、忍び寄るのは慣れっこだ。

自宅や、自宅周辺で、盗みやイタズラ行為を何度もやっていたせいで、

身体に染みついていた。

今回も楽勝で、簡単だった。

山城の周囲には、あまり人はいなかった。


一応山賊らしき人はいたのだが、寝ていたり、

仲間と話していたり、何やら土木作業をしていたりして、

あまり警戒しているような様子は見当たらない。


気になったところと言えば、

女性や子供、老人もいくらかいることだ。

山賊といえば、男だらけのはずだ。

この人たちはいったいなんだろう?

そこらへんの村からさらってきたのだろうか。

ステラは、不思議がったが、理由を推測はできなかった。


城の内部に入るのも簡単だった。

女性や子供がいるような山城であるから、

ステラも、それと同じような雰囲気でふるまえば、

ある程度、門番の目を欺くことは可能だった。


金品は一体どこにあるのかな?

ステラは、城の内部を探り、どこに金品があるのか調べまわった。

どこかの倉庫に、大事にしまわれているはずだ。


きょろきょろ。


ステラは、ひときわ目立つ、厳重そうな扉を発見した。

自分の体よりずっと大きいし、扉の鍵も尋常ではない。

まるで、鎧を身にまとった騎士のような厳重さである。

ここまで厳重に閉じられているドアの向こうには、

どんな金銀財宝があるのだろう?

ステラは大変興味をもった。


開錠すべく、鍵に指を伸ばす。

扉の鍵の開錠には時間がかかるものと思われた。

だが、ステラの手にかかれば、鍵は溶けてしまうほどに、やわかった。

重たい扉を少しずつ開けていく。

外からの光が、扉の奥に潜む闇を溶かしていった。


闇の向こうには、どのような金銀財宝があるのだろうか。

ステラは、宝石のような瞳を、らんらんと輝かせた。


そして、とうとう見つける。価値のある財宝を。


「わぁ……綺麗……」


ステラは、発見した。宝石よりも美しい少女を。

そして、自分が女性であることを忘れるほど、見とれてしまった。


少女と目があう。ステラは見とれて何も発さない。沈黙が続く。


「……?」


ステラの目の前の少女は、状況を理解できず、軽く首をかしげた。


「あ、ごめんね。勝手に開けて。

 あまりに綺麗だったものだから、つい」


ステラは、改めて、目の前の少女の姿をじっと見る。

年齢は自分と同じくらいだろうか。

しなやかで気品あふれるその姿は、同じ年齢の少女とは思えないほど

洗練されたものだった。


「お食事を持ってきてくれたのですか?」


少女の第一声はそれだった。

どうやら、山賊の仲間と勘違いされているようだ。

ちょうど食事の時間帯。

ステラのことを、食事係と勘違いしてしまったようだった。

違うので、ステラは首を横に振った。


「お食事じゃないよ。

 金銀財宝を奪いにきたんだよ」


「まぁ……そうなんですか」


少女は、口元に手をあてて、ゆっくりと驚いた。


「ここに金銀財宝は、無いですよ」


「あるよ」


「どこにですか? ここは私しかいませんよ」


「そこにあるじゃん」


「?」


「君のことだよ……」


ステラは、少女を、「金銀財宝」として指さした。うっとりとした目をしながら。


「私は、人間なので、金銀財宝ではありません」


「うーん。ロマンが通じない子だなぁ。

 君が、金銀財宝のように、美しいってことだよ。

 僕はステラ。君のお名前はなんていうの?」


「ミスティと申します」


「わぁ、かわいい名前だね。

 僕、かわいいものには目がないんだ。

 ……きょうは、金銀財宝を奪いに来たんだけど、

 ミスティさえ持ち帰れば、僕はもう何もいらないかもしれない」


街角で女性を口説く男性のような素振りで、

ステラは、ミスティの手をぎゅっとにぎる。


突然手をにぎられたので、ミスティはびくっとしたが、

ステラのやわらかな手の感触を感じ、にぎり返した。


「ステラさん、金銀財宝なら、他にもありますよ。

 でも山賊さんたちが、しっかり監視してるので、

 なかなか奪えないと思います」


「えー。嫌だな、それ。

 でも、僕の手にかかれば、簡単さ。

 これでも、農村のトリックスターと呼ばれているんだ」


※呼ばれていません。

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