第4章〜次の依頼者って…

第21話 AIに囲まれた世界〜新しい依頼者

『ただいま帰りました。』

『お疲れ様。久しぶりに疲れたでしょ?冷蔵庫にアイスクリームがあるから食べなぁ?』

『あぁ、米山さん、ありがとうございます。』

『机に今日、16時に初回面接をするクライアントの資料があるから目を通しておいてなぁ。』

『はい。何なに…名前は正岡 悠仁(58)さん。

最終学歴が旅行の専門学校ねぇ。その後はなるほど…コロナショクで就職氷河期でフリーター生活かぁ…ギャンブル依存症で昼間はパチンコで夜はビジネスホテルのフロントでバイト生活で、台風でアパートが流されて避難所生活を経て仮設住宅暮らしかぁ…大変そうだなぁ。』

『正岡ですが…ここに来れば生活が安定すると言われてきたのですが…米山さん、いらっしゃいますか?』

『米山から、お話を受けております。16時に初回面接の予定が入っております。こちらにどうぞ?』

『はい。』

『私は、レンタル雇用推進社会福祉主事三村美香と申します。宜しくお願い致します。』

『はぁ、ところで、これからの生活にかなり不安があるのでどうにかならないですか?頼る人もいなくて孤独な日々を送ってまして…貯金もないので辛いのですが…お金を借りたいのですが…』

『なるほど…重い案件だと感じていたけど…そんな時はバイスティックの7つの原則ねぇ。①個別化②意図的な感情の表出③統御された情緒関与④受容⑤非審的態度⑥自己決定⑦秘密保持だったなぁ。まずは、正岡さんのこれまでの経緯を教えて頂けますか?』

『はぁ?何でそんな事を伝える必要があるんだよぉ?米山さんから伝わっているだろぉ?それよりもお金を借りたいだけど…』

『もちろんお気持ちは解りますが、現状を知る必要があります。現状を知った中で優先順位を付けて正岡さんの生活を安定したいと考えております。1人1人、優先すべき解決すべき内容も悩みも違います。その為、1人の人間として、接していきますのでご理解下さい。』

『なるほどねぇ。私も少し、先走りました。すいません。大人げないと思われたと思いますが…』

『そんな事はないですよぉ。正岡さんの気持ちになればあたりまえの事です。』

『では、話せる内容でかまわないのでお伝え頂けますか?』

『はい。』

『名前と年齢ですが…正岡悠仁さん、58歳で間違いないですか?』

『はい。』

『今は仮設住宅で暮らしており、バイト先のビジネスホテルで働いている。正社員になりたいのですか?』

『そうだけど…今のところは正社員にはなれない事は解っているんだぁ。パチンコ好きで自分でもしょうがないなぁ…って感じているけど、今の生活を豊かにしたいというかぁ…同じ世代でも生まれた時期でこんなにも違うのかぁ?ってストレス発散しちまうんだぁ。でぇ、パチンコで負けると自暴自棄で飲めないアルコールを飲んでバイトを休んでシフトに穴を開けるようになった。馬鹿だなぁ…って思うけど…』

『なるほど。もしも、今の生活を取り戻して家庭を持てて、幸せになれたらどうしますか?』

『そりゃ、玄関明けたら女房と子供がいて、家があって、正社員で働けたら最高だよぉ。理想な生活だなぁ。』

『なるほど。ところで、正岡さんの最終学歴は?』

『聞くかなぁ…そこ。トラベルオーシャンビュー専門学校だなぁ。親には高い学費を援助してもらったけど…本当は大学受験していたけど…浪人生活はさせられない…って言われてなげやりで決めたけど…ねぇ。』

『えぇ?そうなんですか?本当にやりたかった事は何ですか?』

『本当は建築を学びたくてねぇ。サクラダファミリアみたいな作品を作ってみたかったんだぁ。自分が死んでも作りかけの作品を残して自分の名前を残すって気持ちが良いだろうなぁ〜ってねぇ。でもねぇ、建築家としては自分の家を建築して、家族を幸せにしたいなぁってねぇ?』

『なるほどねぇ。もしかして、旅行が好きなんではないですか?』

『えぇ?どうしてですか?』

『先程、サクラダファミリアみたいな作品と言っておりましたがその建築物が出るのはかなり勉強したか?もしくは旅行が好きなのかと…』

『実はそうなんだぁ。旅行ももちろん大好きですが色々な建築物をみたりしながら観光地で働けたら最高だなぁ…って思うよぉ。休みの日は家族で温泉にでも行けたら幸せだなぁ。』

『そうなんですねぇ?出来ますよぉ。』

『そんな事が出来たらやりたいですか?』

『もちろんだよぉ。こんなおっさんでもまだまだやれると思っているしとにかく明るい正岡に清き一票だなぁ?』

『はい、ありがとうございます。これで、面接は終了です。レンタル雇用申請書に記入ありがとうございます。あぁ、もしも宜しければ、お金とはゆきませんが、お弁当がありますので持って帰りますか…』

『いえいえ、それはいきませんよぉ。1円でも頂く訳にはいきません。その中にはたくさんの汗が入っております。特に、災害により、仮設住宅に暮らしている私にはたくさんの仲間がおりますから…』

『ですよねぇ。良かったです。正岡さんは素敵な人で良かったです。私も、負けないように頑張らなきゃねぇ?レンタル案件がきたらご連絡致しますねぇ。』

『はい、宜しくお願い致します。』


『お疲れ様。初回面接はどうだった?』

『どうも、こうもではないですよぉ。もうクタクタですよぉ。』

『あのなぁ。良いかぁ?初回面接でクタクタになるぐらい話をしてくれて、なおかつレンタル申請書を書いてくれたのは、三村さんを信じているからだからなぁ。感謝しなきゃ。』

『そうですか?』

『そりゃそうだぞぉ。俺なんてなぁ。1時間以上も口を開かず、一方的に話をするだけの時もあるし、世間話をするだけの時もあるさぁ。いきなり泣き始める事や怒り出してしまう時もあれば、次から来なくなるクライアントなどさまざまだぁ。』

『そうなんですねぇ?』

『そりゃ、三村さんみたいな笑顔があれば自分の事を話たくなるけどなぁ。とはいえ、この業界はブスが多くて融通が聞かない真面目な専門家が多い事。とにかく、油断せずに誠心誠意だぞぉ。初回面接のリサーチ登録は来週までに提出だから宜しくなぁ。』

『はい、少し残業して帰ります。』

『おい、おい、無理はするなよぉ。良かったら、一杯つきあえよぉ。お腹も空いているだろう?』

『そうですが、大丈夫ですか?車通勤ですよねぇ?』

『大丈夫だぁ。車は置いていくから。旨い焼き肉、ごちそうしてやるよぉ。』

『ありがとうございます。』

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