第17話 AIに囲まれた世界〜児童福祉施設にて
『黒澤さん、黒澤さん、こんにちは?ハァ、ハァ、ハァ…。』
『あらぁ、三村さん、走ってきて、どうしたのぉ?いつも、元気でうれしいわぁ。』
『実は、実は、ハァ、ハァ…レンタル申請が通りました。なおかつ、黒澤さんを児童福祉施設の施設長として、働いて欲しいと言われまして…』
『えぇ、私なんて、高齢のおばあちゃんですよぉ。あり得ないわぁ。』
『私も、ビックリしたんですけど…『社会福祉法人自然の森…天空の園』って知ってますか?』
『えぇ?そこは、私が育った施設よぉ。私みたいな人が施設長って…』
『行きましょう!一緒にいけば経緯は解るはずよぉ。』
『こんにちは、事前にお話ししておりましたが、黒澤さんをお連れ致しました。』
『初めまして、社会福祉法人 自然の森 児童福祉施設天空の園 施設長代理の佐藤 米司(85)です。お久しぶりです。百合ちゃん。』
『えぇ、もしかして、ヨネちゃん?』
『覚えてくれてたんですか?うれしいです。』
『えぇ、もしかして、お知り合いですか?』
『私とヨネちゃんは、この施設で育ったのぉ。私が5歳の冬にこの施設に入ったのぉ。最初、私は自分の殻に閉じこもっていたのぉ。誰とも口を聞かずに返事すらしなかったわぁ。食事も食べないし、せいぜい、シャワーを借りる時だけに、『借ります。』を言えたぐらいで職員とも話さなかった。それが3年ぐらい続いた時に、ヨネちゃん(5歳)がやってきたわぁ。最初から、『お母さん、お母さん!』と泣いていたわぁ。声をかけると職員からは離れなくてねぇ?でも、流石に職員も忙しいから『いい加減にしなさい。』と言ってしまったら、その日を境に自分の殻に閉じこもってしまったわぁ。でもねぇ、近くには私がいたから、『おねいちゃんも辛い?』と声をかけてくれたのがきっかけで少しづつ話せるようになったわぁ。』
『へぇ、そんな事があったんですか?』
『私も、当時は年上のおねいちゃんとは知らずに、僕が守る!『正義のヒーロー』のように小さな身体でも百合ちゃんに対しては必死でした。何故か守らなければならない小さな花のように感じてました。当時は好きとか嫌いとかの恋愛対象ではなくて、自分に取って命の次に大事な物だったのかも知れません。その後は、大事な物には感情があり、徐々に私の方が身長も学力もかなわなくなりましてねぇ。百合さんが18歳で施設を出てからそれっきりでした。まさか、こんなかたちで出逢うとは思いませんでした。』
『当時は、本当にありがとうねぇ?あの時の思い出がなければ生きてはいなかったわぁ。辛い時や苦しい時にヨネちゃんが私の中で助けてくれたんです。何とお礼を言って良いかぁ…』
『そうだったんですねぇ?ところで、なぜ?そんなに素敵な思い出が詰まった場所を忘れてしまったのですか?』
『それは、若年性認知症になったのが原因ですよぉ。病気になる前はいつか、立派になった姿を見せたいと思っておりました。でも、あぁ、ごめんなさい。私ったら、涙なんて流して…』
『いいんですよぉ。昔のように、泣けばよいのですよぉ。』
『ありがとう。ヨネちゃん。』
『では、私は戻りますので、ゆっくりとして行って下さいねぇ?』
『ただいま。』
『あぁ、おかえり、レンタル契約書はもらって来たかい?』
『実は…だったんですよぉ。』
『えぇ!そんな事があるんだぁ?それは、ビックリだなぁ。それは、空気を読んで帰って来たのは正解だなぁ。しばらくしてから、落ち着いたら行くと良いよぉ。』
『ところで、米山さんは、あの世はあると思いますか?』
『ブホォ。突然、何を言い出すんだよぉ。お茶を吹き出してしまったよぉ。』
『あぁ、すいませんでした。』
『そうだなぁ。間違いなくあると思うなぁ。でもなぁ、俺が考えるあの世ってさぁ…案外、この世よりも悲惨じゃないかなぁ?』
『えぇ、どうしてですか?あの世に行って、来世でも幸せになりたいって聞きますよねぇ?』
『あのなぁ、冷静に考えてみると解るけど、年間で交通事故で亡くなる人が約6000人、自殺者においては約3万人、それだけでも3万6000人は亡くなっているよなぁ。それに加え、病気や不慮の事故で亡くなる数はその倍近くいるよなぁ?』
『そうですねぇ。そうなると年間10万人近くも亡くなる計算になりますねぇ?』
『まぁ、天国と地獄が仮にあってもその半分の5万人は増えるよなぁ。それに、150年程で現世に戻るにしても…人口密度はこの世の10倍以上ではないかなぁ?』
『そうですねぇ。』
『たぶん、国があって、政府があって、税金があったり、この世とあんまり変わらないというよりも、悲惨な光景が目に浮かばないかぁ?』
『確かに、そう考えるのが普通かも知れませんねぇそれに、この世でやり残した事があったら、あの世で成し遂げたいと思うのが、人間の心理ならなおさら、あの世では生きずらいと思うなぁ。きっと、あの世にも、受験勉強や満員電車や会社なども存在するだろうし、マスメディアだってあるだろうし、生活困窮者も存在するだろうなぁ。でも、現世に戻る時間は短くはない。』
『そうかもなぁ。前世の記憶があった人の話を聞いた事があるけど、前世で100年前に二人は出逢っていた話は聞くけど、5年前とか20年前に出逢っていた話は聞かないからそうかもなぁ。』
『だろう?だから、まんざら間違いとは言えないよなぁ。』
『そうだねぇ?そうそう、自殺した人は地縛霊になってその場所に浮遊するって言うけどどう思う?』
『そうだなぁ。間違いないと思うなぁ。たいていは、心霊スポットや自殺の名所に写真におさまるからそうだと思うなぁ。』
『ですよねぇ?』
『あぁ、そうそう、地縛霊になると300年とか1000年とも言われるぐらい抜け出せないループを繰り返すらしいぞぉ?知っていたかい?流石に寂しくなるわなぁ?』
『えぇ、そう何ですか?』
『そりゃ、自分の命を自ら経つのだから、そうなるのではないかなぁ。』
『そうだけど…そんな気持ちになるご時世に問題があるような…』
『そうかも知れないけど、やはり、だめ何だよぉ。どんな理由にせよ、自殺はねぇ。』
『ですねぇ?あれ、何でそんな話になったんでしたけぇ?』
『あぁ、そういえば…あぁ、そう、そう、あの世がある?の話だよぉ。』
『でしたねぇ?』
『では、レンタル契約書を忘れずに来週までには取りに行ってなぁ?』
『はい、解りました。』
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