バナナのシレン

ひるこ

徒然なるままに……

 我輩は風来坊である。


──と言っても、今さら清水の次郎長に憧れたとかそういうことじゃない。ニンテンドーDSの『風来のシレン4』を今さらプレイしていたのである。


 船旅の途中で嵐に巻き込まれ、一体どこなのかも分からない南の島『カヒタン島』に打ち上げられたシレンとコッパ。いろいろあって牢屋に閉じ込められてしまった親切な女の子を助ける為に、島の奥に眠るという大秘宝を探す旅をはじめる──というのが、今回のプロローグである。


 そんなわけで。

 我輩もまた、かつて発売された頃の他のシレン達がそうしたように、女の子を助ける為に不思議のダンジョンに潜ってはアイテム拾って歩く生活を続けている。


 しかし、冒険は遅々として進まない。


 まだ10階にようやく到達したばかりだ。しかも、ちょっと歩いてすぐに脱出の巻物で逃げ出したのである。

 それにはやむにやまれぬ事情があった。

 その時、我輩の『一つ目殺し改』がようやく+6になったばかりだったのである。

 ご存知の通り、不思議のダンジョンは一度やられると基本的に持ち物は全部なくなってしまう。そんなペナルティがあるのに、なんの保険も無く不用意にダンジョンをうろつくのはいささか危険が大きすぎるだろう。もし強力な新種モンスターに鉢合わせしてボコボコにされ万が一この名刀を喪うようなことになれば、その時はアイテムだけでなく風来人としての熱意まで喪失してしまうかもしれない。

 牢屋で我輩のことを信じて待ってくれている女の子の為にも、それだけはなんとしても避けねばならないのだ。

 だがこれでは冒険が終わる頃には、女の子は待たされ過ぎて退屈してしまうだろう。狭い牢屋の中だ、運動不足にだってなるかもしれない。


 そもそも風来のシレンと呼ばれたりしている我輩だが、今のところぜんぜん風来していない感は否めない。

 すくなくとも我輩には風来している感覚はない。バナナを食べながら道端のアイテムを拾って、近場の危険スポットの入り口辺りまで肝試しに行ってるようなもんだ。

「風来人だなんだ言って、あなたぜんぜん風来してないじゃないですか!」なんて野党から突っ込まれたら「あのぅ、そのぅ」と我輩は言葉に窮することだろう。


 この大きな問題を前に、いったい風来人としての我輩のどこに原因があるのかと考えてみたのだが、どうやらそれは食生活に原因があるのではないかという結論に至った。

 今作『風来のシレン4』では、おにぎりがダンジョン内のメイン食料とはなっていないのである。

 そのおにぎりに代わって、メインの食料となったのが『バナナ』なのだ。

 物語の舞台がトロピカルな南国であることを考えればまったく無理のない話ではある。

 想像してもらいたい。

 もしロシアに旅行に行って、そこで奈良漬けを出されたらきっと心底たまげるだろう。

 それと同じことだ。

 その土地の風土にあった食べ物がメインに据えられるということは決しておかしいことじゃない。我輩も別にそこに異論はない。

 問題は、我輩がバナナ嫌いということなのだ。

 1本くらいなら食べられないこともないのだが続けて2本や3本といくと、もう気持ち悪くなってしまうのである。喉がイガイガしてくるのだ。


 広大なダンジョンを練り歩いたりモンスターを相手に大立ち回りを繰り広げたりしていたら、そりゃもうお腹がぺこぺこになる。

 そんな我輩がなにか食べ物はないかと思って道具袋を漁ったら、出てくるのが『バナナ』なのだ。

 バナナは嫌いなのに、だ。

 場合によってはドラゴン草とか弟切草もあるかもしれないが、さすがにバナナが嫌いだからという理由でそれらを口にするのは憚られる。

 我輩は仕方なくバナナをお腹におさめて冒険を続けるわけだ。喉をイガイガさせながら。

 これでは勝てる相手にも、喉のイガイガが気になって不覚をとってしまう危険がある。

 だが、バナナがもたらす弊害はそれだけではない。

 バナナには『青いバナナ、黄色いバナナ、完熟バナナ、腐ったバナナ』という4段階のランクが設けられている。我輩が村から冒険に出発した時、バナナは『青いバナナ』となっている。これが持ち歩いている内に黄色くなり次には完熟となっていくわけである。青いバナナより黄色いバナナが、黄色いバナナより完熟バナナの方が得られる満腹度が大きい。だから青いバナナをなるべく食べずに持ち続けて熟成を待ったりするわけなのだが、問題は完熟の次の段階である。

『腐ったバナナ』

……もう名前からしてダメダメな状態である。実際、デメリットもある。こうなるともうよっぽどでない限り食べようなどとは思わないだろう。

 しかし、問題はそんなデータ状のデメリットだけにとどまらない。

 腐ったバナナというくらいだ、きっともうデロデロのベロベロになってしまっているだろう。

 それが我輩の道具袋の中に、真空切りの巻物などといった重要アイテムと一緒にいれられてしまっているのである。

「しまった!」と気づいて慌てて腐ったバナナを取り出しても、もう中の巻物なんかはバナナから出た汁とかで汚れきっているに違いない。


 モンスターハウスで怪物達に囲まれて真空切りの巻物を読もうとしたら、バナナ汁のシミで読めなくなってしまっていた。

 そんな事態になったら、死んでも死にきれるものではない。


「バナナは駄目だ。やっぱり糧食はおにぎりに限る」と、我輩は本拠地であるボロンガ村に帰るたび村人達に声を大にしているのだが、今のところおにぎりが道具屋の定番商品化する気配はないようだ。

 それどころか冒険に出る度に、道具袋の中に『青いバナナ』が入れてある。


 我輩が入れるわけではない。

 我輩はバナナが嫌いなのだ。

 きっと、おせっかいやきな村人の仕業だろう。


 せめてバナナを加工する技術を村人に教えねばなるまいか。



◇◇◇◇

お読みいただき、ありがとうございました。


これエッセイじゃないよなぁ?(全否定


なんで今さらDSのゲームの話なんかするんだと言われたら、私が今さらプレイしてるからです( ´・∀・`)


文体は私が大好きな作家さんを意識して書いてみました。

今もVジ◯ンプで書いてらっしゃるはずなので、ぜひ一度読んでいただきたいです! 単行本も出てます!(ダイマ

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バナナのシレン ひるこ @hiruko001

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