チャネラーちゃんにお任せあれ!

ハカドルサボル

第1話 チャネラー

 深海理人(ふかみ・りひと)は引きこもりをしている。


 安アパートの角部屋でひっそりと死んだように息をし、誰にも悟られずのうのうと自堕落に生きている。高校は停学。むしろ自分から進んで不登校になり、もう自分が2年生なのか3年生なのか分からない。そもそも今は何曜日だろうか、と朝から晩まで煩悩と雑念と思念が入り混じった空想を広げている。


 こじんまりとした一室を外界とつなぐのは唯一郵便屋さん。彼は親の仕送りという名の段ボールを週に一度持ってくる。古びた段ボールの中には食料と本、中でも自己啓発書が多数含まれている。親は親で高校生の不登校ヒッキーwを心配しているようで、【不登校だった僕が1年で脱出し年収1億円稼げちゃった、ぐへへ(^3^)-☆】と引きこもり中心の本を送ってくる。


「南無南無」


 理人にそれ系の本は通用しない。いつものように本棚の隅っこのゴミ箱スペースに本を閉じ込める。


「そもそも何で引きこもりが1年で脱出できて次いで年収1億円とか、詐欺おつ」


 世の中不条理ばかり。引きこもりの彼は人生の成功を期待していない。ただ、部屋の中に引きこもって己の研究成果をネットに書き込み、自己満オナニーできていればただただ満足だった。


 白米を炊き、保存できる魚肉ソーセージを焼き、水をがぶ飲みする。引きこもりはやせ細っている印象が強いかもしれないが、そんなことはない。理人は炭水化物ばかり摂取するので高校生の平均体重を10キロほどオーバーしていた。腹が山をつくりオーガ体型を維持している。というか絶望している。


 自分は将来デブになって、糖尿病と肥満と脳出血で死ぬんだ、とガクガク震えている。


 自宅入院患者の糖尿病の罹患率がなんと多いことだろうか。高校生ヒッキーはネットでブートキャンプを見ながら、ダンスしている。幸い、この部屋は1階。もし2階で飛び跳ねたり、スキップしたりしようものなら階下から北斗百裂拳の苦情が来る。


「自己啓発書では自己肯定感が大事なのにな」


 行動すればすべてが変わる。行動すればすべてが、行動すれ……。


 そう。行動あるのみなのだ。


 理人が引きこもり中に踏破した自己啓発書のほとんどは行動を重きに置いている。本を読めば知恵がつき、知恵がつけば、人なるもの試してみたいと行動する。理人は1000冊の本を読み、結果、変われずにいた。いくら知識を付けても体が言うことを聞かない。


 完全なる精神病。もし、自称するならば、引きこもり鬱とでも名付けようか。


 出よう出ようと思っても脳が死んでいた。外に出るくらいなら一日中、寝る。理人は陰陽の闇の部分を受け持っている。


 日の当たらない生活は肌を白くするが、果たして理人はドラキュラごとく真っ白に染まるのだろうか。不安と後悔の波を押し寄せながらご飯を飛べ終えると、


 ピンポーン。


 チャイムが鳴る。


 食器を簡単に片づけ、郵便屋のお兄さんだと、たかをくくり、ドアを開けるとすると、理人の目の前にとんでもない光景が、目に飛び込んでくる。


「チャネリングしました」


 数年ぶりの女性との対話だった。目の前の少女は高校生の制服を身に着けていた。

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