第3話 どうやら、少し怒ってるようです。

 奏太と別れ、一人暮らしをしているマンションの自室に辿り着くと、一直線に寝室に花蓮は向かった。

 女の子らしいレイアウトの部屋ではあるが、物は乱雑しておらず綺麗に整理整頓された部屋。

 花蓮はベッドに飛び込んだ。


 「もーーー!バカ!バカバカバカ!何で憶えていないんですか!奏太のおバカ!!!」


 少しどころではなく、めっちゃ怒ってた。

 学校で見せる聖女様の面影がない花蓮は、クッションに顔をうずめながら、足をバダバダとさせ叫んだ。


 「高校入学して、奏太がいることを知って嬉しかったのに、そのうえ同じクラスで本当に嬉しかったのに。どうして私のことを憶えていないのですか!まったくもってひどいです!」

 

 次にはポカポカとクッションを殴りつけ始めた。


 「確かに昔と感じは違うかもしれませんが、声は一緒じゃないですか!もう許しません!」


 ムスッと鼻息荒くする花蓮は、ひとしきり暴れた。慈悲深い聖女様の姿はそこにはなかった。


 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」


 しばらくして、落ち着きを取り戻した花蓮は今日のことを思い出し、身悶えた。


 「でも、今日はかっこよかったので、許してあげます」


 特に、他校の男子生徒に絡まれている時の記憶に、花蓮は思いを馳せた。


 「なんですかなんですか。『彼女に興味がある』とか『彼女に気安く触れるな』とか……かっこよすぎますよ」


 花蓮はベッドに仰向けになり、クッションを抱き上げた。


 「まるであの時みたいで……」


 恋する乙女は、遠い過去をさらに思った。


 「早く、奏太に会いたい」

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