第8話 モンスター退治に参加するとお金をもらえるらしい――②

「なあ君。北野君と言ったか……。君が使っているシールドバッシュだが……なぜ、『モンスターの動きを停止させる』効果が毎回確実に発動しているんだ?」


俺はそう聞かれたが……正直、俺にはその質問の意図が分からなかった。


「え……シールドバッシュって、そういう効果なんじゃないんですか?」


そもそも俺は、普段シールドバッシュは傘や洗濯物の乾燥のためにしか使わない。

付与スキルの説明を見るに、シールドバッシュは防御用の付与効果らしかったので、今回この傘を持参したが……実戦でシールドバッシュを唱えるのは、これが初めてなのだ。

だから今日使った感触から、「シールドバッシュってこういうもんなのか」と思っていたのだが……


「んなわけないだろう! 確かにシールドバッシュには、『ごくまれに敵の動きを停止させる』という効果もあるが……あくまでごくまれに・・・・・だ! 毎回発動だなんて聞いたことがない!」


リーダーさんには、そう力説されてしまった。


……え、そうなの?


「俺も一度、シールドバッシュ付きの防具を扱わせてもらった事がある。『掃魔集会』のリーダーは警察が定期的に開催するリーダー研修に参加しなければならないからな、その時に、シールドバッシュが付与されたライオットシールドを持たせてもらったんだ。そして、演習の時に何度かシールドバッシュを使ってみたが……『動きを停止させる』など、1度も発動しなかったんだぞ。それが本来の確率だ」


不思議に思っていると、リーダーは更にそう続けた。


「そ、そうなんですか……」


それ不良品だったのでは、と喉まで出かかったが、俺はその言葉を飲み込んだ。

警察の備品にケチ付けるような発言は、控えた方が良さそうだからな。


「まあありがたい事に変わりはないからな、引き続き前衛を務めてもらえると助かるのだが。……だがお前ら、北野君の停止能力に頼るあまり油断するんじゃないぞ。いつ不発が来るとも分からんからな!」


リーダーはそう言って、他の参加者の気を引き締めさせた。


よく分からないが……まあ、俺は俺の役目をしっかり果たしてればそれでいいか。

俺はそうとだけ思っておく事にした。





それから、約4時間が経過した。


間に1時間昼食休憩を挟んだ以外は、俺たちはずっとモンスター討伐に専念していたが……ついぞ一度も、「シールドバッシュ」発動時に敵の動きを止められなかったことはなかった。



このまま、今日一日何事もなく順調に終わりそうだな。

そんなことを考えつつ、俺はみんなの動きについていっていたのだが……そんな矢先、事態は急変した。


「……まずい! このまま進むと大変なことになる。みんな撤退だ!」


探知系スキルを使いルート指示をしていた人が、急に血相を変えてそう叫んだのだ。


「な……何が見つかったんだ?」


リーダーがその人に、詳しいことを尋ねる。

するとその人から帰ってきた答えは、こんなものだった。


「凶悪な魔物の反応……おそらくシャドウオーガと思われる反応があった!」


すると……今日集まったメンバーたちが、急に騒然となった。


「し、シャドウオーガだと!? それ何かの間違いなんじゃねえのか?」

「なんか今、国家指定超災害級のモンスターの名前が聞こえたような……俺の聞き間違いか?」

「俺たち、皆殺しにされちまう!」


半ばパニック状態に陥ってしまうメンバーたち。

その様子を見て、俺もちょっと不安になった。


一応、俺も探知系スキル「第6のイーグルアイ」を発動してみたんだが……その探知反応には、そんな脅威となりそうな魔物の反応が無かったんだよな。

近くに図体だけデカい鬼みたいな反応はあったけど、まさかそれのことじゃないだろうし。


なんで俺には探知できなかったかというと……おそらく俺の探知能力が低すぎて、ナビ役の人ほどの範囲を探知することができなかったからなんだろう。

ということは、そのヤバそうな魔物は、俺の探知範囲外に存在するという事になる。

把握できない脅威が近くにいるかもという状況は、なかなか怖いものだな。



などと考えていると……状況を見かねたリーダーが口を開いた。


「みんな落ち着け! シャドウオーガは確かに危険だが……奴はまだ、こちらに気づいていない! 今のうちに奴を刺激しないように退散すれば、向こうだって俺たちを襲いには来ないはずだ。後のことは国のモンスター退治機関に任せればいい、とにかく逃げるぞ!」


その声を聞いて、メンバーたちは一気に静まり返った。

このリーダー、かなりみんなに信頼されてるんだな。

流石のカリスマ性だ。


「それで……シャドウオーガはどっちだ?」


「あっち!」


ナビ役の人が指した方向とは正反対の方向に向かって、俺たちは走って逃げだした。




……なんとか、このまま逃げ切れそうだ。

誰もがそう思いかけた時のことだった。


不意に、目の前に巨大な闇の壁が出現し……俺たちの行く手を阻んだ。


「うわぁぁ! びっくりした!」

「な、何が起きたんだ!」


不測の事態に動揺するメンバーたち。

一瞬、誰もが戸惑ったが……その中の一人が真後ろから迫り来るものに気づき、震える声でこう言った。


「あ……あれ……」


見ると……そこには、黒いもやがもうもうと立ち昇るこん棒を手にした筋骨隆々の黒い鬼が立っていた。



……あんまし強そうじゃないな。

あれはさっき探知した図体だけデカい鬼の方か?


確かに、本気で逃げたい時に行く手を阻まれたのはイラっとするが……だからって、この世の終わりみたいに思う必要はどこにも無いような。


などと考えていると……平林さんが、俺に向かってこう叫んだ。


「北野君、一昨日使ったあの雷出して! 相手は闇属性だから、雷属性攻撃のダメージは抜群のはずよ!」


……え、そうなんだ。

属性相性なんてあるのか、それは初耳だな。


「お前、シールドバッシュだけでなく雷魔法も使えるのか……。 それは心強い。何でもいい、有効そうな攻撃を放って見てくれ!」


リーダーからも、続けてそう頼まれた。


「では。アークストライク」


俺がそう唱えると、また前の時と同じように上空から稲妻が走り──黒鬼に直撃した。

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