第7話 モンスター退治に参加するとお金をもらえるらしい――①


「北野君」


次の日の昼休み。

俺の一個上の先輩、平林夏音さんが珍しく俺に話しかけてきた。


「明日さ、一緒に『掃魔集会』に行かない?」


そして……俺は、なんか訳の分からないものに誘われてしまった。


「掃魔……集会? 何ですか、それは?」


「毎週末開かれる、郊外で湧いた強めのモンスターを市街地に入られる前に始末するためのモンスター討伐の自治活動のことよ。討伐したモンスターのドロップ素材は換金して、利益をみんなで山分けできるの」


聞くと、平林さんは集会の詳細と参加するメリットを教えてくれた。


「この前、北野君と吉田君の会話をちょろっと小耳に挟んじゃったんだけど……北野君、副収入欲しさにポイントサイト始めたんでしょ? 『掃魔集会』ならポイントサイトの比じゃないくらいには稼げるし、北野君に合ってると思うんだけど……どう?」


そして平林さんは、そう続けた。



……なるほど。

それは参加してみる価値があるかもしれないな。


件の同僚──吉田から教えてもらった「ポイントトランザクション」はもう退会してしまったし、別の副収入源が欲しいと思っていたところでもあるしな。



この会社では副業自由……というかむしろ推奨されてるし、平林さんはおそらくモンスター討伐に有用なスキルを引けたから、その「掃魔集会」とやらに参加しているのだろう。


そして、同じく副業を探してる人間にそれをオススメするというのも、自然なことではある。


だが……


「僕が行って、足手まといになりませんかね?」


そういう集会には、腕に覚えがある人ばかりが集まっているはずだ。

都市部から離れて、強力なモンスターを討伐しにいったりもするんだろう。

だとしたら、せいぜい鉄パイプで殴り殺せる程度の魔物としか対峙したことがない俺なんかが参加したら、みんなの足を引っ張ってしまうのではないだろうか。


そう心配し、俺はそう質問してみた。


しかし。


「いや……昨日のあの雷撃を放てるなら、むしろ主役級だと思うよ? というか、あれ見てたから誘おうと思ったんだけど……」


平林さんには、不思議そうな表情でそう言われてしまった。


平林さんも、あの時見てたのか……。

なんでみんな、アレを凄いものみたいに言うのかは分からないが……おそらく、初参加となる俺が不安を感じないよう気配りしてくれてるんだろうな。


「そう……なんですかね? まあじゃあ、明日はそれ参加してみますね」


返事したとほぼ同時に、昼休みの終了が知らされた。

そして俺は、再び職務に戻った。





次の日。

俺は集合時間10分前に、「掃魔集会」の会場に到着した。


今日は自分から積極的にモンスターを狩りに行くわけだし……一応出発前に、自分のステータスを確認しておくか。

そう思い、俺は「ステータスオープン」を唱えた。


─────────────────────────────────

北野 悠人

Lv.5

HP 250/250

MP 5000/5000

EXP 1504/3200


●スキル

<アクティブ>

【★6】名人級付与術

【★6】第6のイーグルアイ

【★6】透明化

【★6】極・低燃費高速飛行

【★6】実体消去

【★6】名人級錬金術

【★6】四属性魔法

【★6】四属性特殊魔法

【★6】アークストライク

【★6】化身の一撃

【★6】ディスラプター

【★6】鑑定・極

【★6】エクサグラビティ

【★6】固定ダメージ

【★6】カオスストライク

【★6】聖隕石

【★6】大狂乱

【★6】ショックウェーブ

【★6】アイテムボックス


<パッシブ>

【★7】乱数調整

【★6】異邦耐性

【★6】寝る子は育つ

【★6】神癒の寵愛

【★6】身体神の加護

【★6】全環境適応

【★6】融合魔法の素質

【★6】魔法神の加護

【★6】ど根性カウンター

【★6】アーティファクト装備枠追加(×2)


─────────────────────────────────


主に「寝る子は育つ」の影響で、今の俺のレベルは5になっている。

HPもMPも満タン。体調はバッチリだ。

これは、心おきなく一日頑張れそうだな。


そんなことを考えていると……平林さんが俺を見つけて、話しかけに来てくれた。


「北野君おはよう。ところで……なんでこんな晴れてるのに、傘なんて持ってきてるの?」


そして……俺の持ち物に関して、そうツッコまれてしまった。


「えーとこれはですね……モンスターと戦う時、役に立つかなと思って持ってきたんです」


「どういうこと? モンスターは猪とは違って、傘バーンってやったくらいじゃ怯んでくれないよ?」


質問に答えると、より不思議に思われてしまった。

なので、俺はこの傘を防具にするに至った経緯を説明することにした。


「この傘はですね……『シールドバッシュ』という効果を付与してあるんですよ」


「え、北野君ってあの攻撃スキルだけじゃなくて付与もできるんだ……。でも傘にシールドバッシュ? 何で?」


「何回か付与スキルの実験をしてたらですね、『シールドバッシュ』には撥水効果もあるって分かったんですよ。なんで、雨の日に傘使った後即効乾かせるよう、傘にシールドバッシュを付与したんです」


同じ理由で、俺は家のタオル類全てにシールドバッシュを付与してある。

洗濯したあと、干す必要も乾燥機にかける必要もなくなるからな。


だが……形状的に防具としては適さない気がしたので、今回は傘だけ持ってきた。


「な……なんという才能の無駄遣い……」


平林さんは俺の説明を聞くと、絶句してしまった。



……あれ。

そんなおかしな使い方だったか?



俺が首をかしげていると……平林さんは、友人と思われる女性に話しかけられ、そっちで会話しだした。


「あ、夏音ちゃんおはよう! 良かったね、お姉ちゃんの18thシングル、オリコン1位取れて」


……そういえば平林さんって、確か姉がアイドルやってるんだったっけな。

なんかすっかり忘れてたけど。


などと思っていると、今回のリーダーらしき人が前に出て全体挨拶を始めたので……俺はそちらに耳を傾けることにした。





全体挨拶の後はまず隊列決めが行われ……シールドバッシュ付きの傘を持っていた俺は、前衛を務めることになった。


それから俺たちは、実際に魔物を掃討すべく、探知系スキル持ちの指示に従って動いていった。

俺も一応「第6のイーグルアイ」はこまめに発動していたが……初参加ということもあり、特に通るルートに関して口出ししたりはしなかった。



討伐は順調に進み、1時間もしないうちに5体ものモンスターを討伐することに成功した。

だが……5体目のモンスターを討伐したところで。

俺はリーダーに、こんな質問をされてしまった。


「なあ君。北野君と言ったか……。君が使っているシールドバッシュだが……なぜ、『モンスターの動きを停止させる』効果が毎回確実に発動しているんだ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る