第5話 スキル「アークストライク」の威力で驚かれた
2度目の12万円当選から、また約1か月が経過した。
俺はもう、「ポイントトランザクション」は退会してしまっていた。
なぜなら、俺は危うく自分が「くじ引きチャンス!」2回連続高額当選者だとバレそうになるところだったからだ。
2度目の当選から数日経って、また成り行きで某同僚と話す機会があったのだが……彼は話の途中で「なんか2回連続で『くじ引きチャンス!』で12万円当てた奴がいるらしい」などと言い出した。
聞けば、「くじ引きチャンス!」の高額当選者はユーザー名共々サイト内で紹介されてたんだとか。
俺がユーザー名を本名とかけ離れたものにしてたから良かったものの、ともすれば俺がその連続最高額当選者だと同僚にばれていたかもしれなかったのだ。
それを聞いて、俺は怖くなって退会したというわけだ。
同僚にはバレなかったが……サイトがそんなシステムになってるとなると、マスコミが俺のことを嗅ぎつけて連続当選のことで取材しにくるリスクとかもありそうだと思ったからな。
俺は跡形もなく、サイトから消え去った方がいいと判断したのだ。
……それはさておき。
1か月くらい前から、地球上にはモンスターが現れるようになった。
山奥から街中まで世界中の至るところで、かつて見たこともない謎の生物が次々と湧き出てくるようになったのだ。
スキルガチャが出たかと思えば、今度はモンスター……全く、なんでこんな急に世界がファンタジーみたくなってしまったのか、不思議なものである。
モンスター出現から2〜3日は、世界中で大混乱が起こった。
たまたま入った定食屋のテレビのニュースを見る限りその話題で持ちきりっぽかったし、勤め先だって2日ほど臨時休業となった。
だが……その騒ぎは、長くは続かなかった。
4〜5日もすれば人々はモンスターの出現についてバカ騒ぎはしなくなり、生活は次第に日常へと戻っていったのだ。
というのも。
出現したモンスター、大して強くなかったのである。
正確に言えば、モンスターには弱い個体から災害級の個体まで様々な種類がいるのだが……どういうわけか、「人の多い場所には強いモンスターは出現せず、人のいない場所でのみ強いモンスターが湧く」といった感じになっているのだ。
都市部ではPTAのおばちゃんでも倒せるようなモンスターしか出現しないのに対し、日本アルプスや海底みたいな場所では強力なモンスターが出現する。
そんな状況ゆえに、人々はモンスターを「インフルエンザとか台風みたいなレベルの脅威が1個増えた程度の話だよな」と認識するようになっていったのである。
もちろん、例外も存在しはするが……どうやらそういうのは、ガチャで強力な攻撃スキルを引けた人々が討伐することでどうにかなっているらしい。
ちなみに俺も、この1ヶ月で何度かモンスターに遭遇したが……俺が引いたスキルの中にはいくつか攻撃スキルがあったため、それをブッ放つことで何とか事なきを得られた。
もっとも、不良が捨ててったと思われる鉄パイプでモンスターを殴ってみたらそれだけで倒せた時もあったので、「スキルガチャ引いてて助かった!」と思うには至らなかったのだが……。
まあそんなこんなで、俺は今日も普通に会社勤めしていて、もうすぐ終業時間で帰ろうとしているところである。
終業のチャイムが鳴ると、俺は鞄に荷物を詰めてオフィスを出た。
普段なら、社内のトイレで「透明化」と「実体消去」を発動し、「極・低燃費高速飛行」で壁をすり抜けて一直線に家に帰るのだが……今日は週に一度の買い物の日。
スーパーはオフィスの向かいにあるので、距離も短いので歩いて行こうとしているのだ。
オフィスビルを出た俺は、そのまま駐車場を通り過ぎようとした。
だが……俺はそこで、ちょっとイレギュラーな事態に遭遇してしまった。
駐車場のど真ん中で、ライオンとサソリを合わせたようなモンスターが立ち止まっていたのである。
「鑑定・極」というスキルを発動すると、そのモンスターはマンティコアという奴だと分かった。
マンティコアは尻尾を逆立て、シャーッと威嚇するような鳴き声をあげた。
「な……何でこんなとこにマンティコアが!」
「誰か……攻撃スキルを使える奴はいないのか!」
「つ、使えるけど……俺のファイアじゃああいつには……」
駐車場には他にも、車に乗ろうとしていた同僚が3人ほどいて……その人たちは口々に、そんなことを言っていた。
どうやら3人とも、マンティコアの出現に動揺してしまってるみたいだな。
もしかして、これが彼らにとって初めてのモンスターとの対峙なのだろうか。
実際戦ってみれば、モンスターなどどうってことはないのだが……もしそうだとしたら、怖くなっててもしょうがないよな。
俺だって初戦闘の時は、後ずさりながらステータスウィンドウの中から使えそうなスキルを必死で探してたし。
ここは、経験者である俺がサクッと仕留めてあげた方が良さそうだな。
俺はそう判断した。
それを見たら、彼らだって「モンスターなんて怖くない」と思えるようになるだろうからな。
「アークストライク」
俺はそう詠唱し、初めてモンスターと対峙した時に使ったスキルを発動した。
直後、上空から稲妻が走り、マンティコアに直撃した。
轟音とともに、マンティコアは叫び声をあげる間も無く消滅し……そこには「ドロップ素材」と呼ばれる、倒されたモンスターが残していく素材だけが残った。
うん、大したことはなかったな。
これで3人も、モンスターに過剰に怯えなくていいと分かったことだろう。
そう思い、俺はドロップ素材を拾いながら3人の方を見た。
だが……
「「「な、何だ今の一撃は!!!」」」
なぜか3人には、口をあんぐりと開けてそう叫ばれてしまった。
「え……普通に雷撃を放っただけですけど……」
「「「今のが『普通の雷撃』な訳があるかぁーっ!!」」」
説明しようとしても、口を揃えてそう返されてしまう始末である。
……おかしいな。どうしてこうなった?
俺としては、モンスター討伐のお手本を見せようと思っただけなのだが。
不思議に思いつつ、俺は駐車場を離れてスーパーに向かうことにした。
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