勇者と魔王の二重生活

リュート

第1話 終わりの朝、始まりの朝

ああ……体中が痛い……。


朱里あかりが泣いてるのが見える。だけど、それもどんどんぼやけていった。


思い出すのはつい一瞬前の出来事。

青信号に突っ込んでくるトラック。それに気づくのが遅れた朱里。

そしてその朱里を突き飛ばし、代わりにトラックに轢かれた俺。


せっかく朱里と恋人同士になれたのに、ここで終わりか……。

まあでも、朱里を守れたなら……いい……かな……。


*****


――…真さん。


なんだよ、うるさいな。もう起きる力なんて無いよ……。


――悠真ゆうまさん、起きてください。


起きれたら苦労しないんだよ……。トラックに轢かれてそんなホイホイ起き上がれるわけが――


「勇者悠真!!早く起きてください!!」


「うおっ!?」


耳元で大声を出されて反射的に飛び起きる


……起きれた。え?トラックに轢かれたのに起きれたぞ?


「ここは……?」


今、俺は間違いなく人生で一番混乱している。

目の前に宇宙が広がっていて混乱しない奴のほうがおかしいだろう。


立ち上がって周りを見てみるも……あるのは遠くに輝く星だけ。

足元を見ても足場はなく、やはり遠くに星が見えるだけ。


星以外なにもない。いや正確には俺を呼んでいたやつが目の前にいるか。


俺を呼ぶ声の主は俺のすぐ目の前で――浮かんでいる。

背中から純白の翼を生やし、整った顔に困惑したような、だけどどこが安心したような表情を浮かべて俺を見つめている。


引き込まれるような白い髪、それに加えてモデルのように美しい体形。

きっと街を歩けば視線を一人占めするであろう。背中から翼が生えてるんだからなおさらだ。


「誰だお前……。いやそれより、なんで俺、無事なんだ……?」


トラックに轢かれて間違いなく死んだと思った。

死ぬような目に遭ったのはあれが初めてだ。もちろん勘違いだった可能性もあるけど……それにしたって重体ではあるはずだ。


なのにピンピンしている。テレビで見るような呼吸維持装置も点滴もない。

……そんなもの、病院のベッドの上どころか宇宙で寝ていたんだから無くて当たり前だが。


「ようやく起きましたね、悠真さん。いろいろと聞きたいことはあると思いますが、まず一番大事なことをお伝えします」


俺の眼を見ながら、目の前のなにかはそう言った。

何を言われるか分からない。なのに……心臓が強く脈打つ。

まるでそれ以上聞くなとでも言いたげだ。


「斉藤悠真さん。残念ながら、あなたは死にました」


――これが、俺・斉藤さいとう悠真ゆうまと、リースフィアとの出会いだった。

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