第3話 ヒエログリフとアヌビスさん
クラスでの変な注目を避けるため急いで西方を連れて教室を出たせいで、持ってきていた弁当を置いてきてしまった。
まあ、今日こいつを誘ったのは俺だし、一緒に食堂メニューを注文するか。
「で、西方。何食べるんだ?」
「アヌビス」
「ん?」
「我はアヌビスだ。いちいち仮の名で呼ぶでない。ソロマスターよ」
「わ。わかったよ。てか、ソロマスターって何? 俺の事!?」
「お主の仮の名だ。どうだ、仮の名で呼ばれるのは心が痛むであろう?」
「ぐ……痛み方が全然違う気がするが、仕方ない。わかったよ、アヌビス」
くそ、なんでクラスで唯一ボッチだったやつがよりによってこんな変人なんだ。
ホントにこいつとこのまま一緒にいて大丈夫なのか?
俺の心配をよそに、西方改め自称神のアヌビスは、ナイフのようなものでガリガリと何かを削り始めた。
「お、おい、何やって……うわ、お前、何削ってんだよ!」
「何とは面妖なことを訊く。ヒエログリフを彫っているのだ。注文の際必要だろう」
「必要だろう、じゃねーよ! 普通に食券買えよ! そこまでしてキャラ作らなくていーから!」
しかもアヌビスが彫っている石の板、ガタガタでとても見づらいが、カタカナで「カレー」と書かれている。どこがヒエログリフだ。
「うぬ? なんと、日出づる国ではこのような行為は無用とな? なるほど、忘れないよう記録しておこう。
アヌビスは続けて石板に文字を彫ろうとしている。
「あー、もうそれいいから。てかこれくらい覚えろよ!どんだけ鳥頭なんだよ!」
「鳥ではない、イヌだ」
「は?」
「我はイヌの化身と呼ばれている」
「あーもう、わかったわかった。俺らのせいで後ろに列ができちゃってる。早く食券買うぞ!」
アヌビスが散らかした石の破片をささっとかたずけ、自販機で「カレー 中」の食券を二枚買った。
結果的に俺がこいつにおごってやる形になってしまったが致し方がない。この調子では券売機でもひと悶着やりかねない。
俺はアヌビスの腕を引き、受取口への足早に向かった。
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