海辺の町

 わたしの名前はミキ。高校に入るのをきっかけに、パパの実家がある、海辺のこの町に引っ越してきた。


 これといった見どころのないごく普通の町だけど、大きくもなく小さくもなく、必要なものはだいたい揃ってるから住むのにはちょうどいい。そしてなにより海がきれい。唯一の観光スポットである竜ヶ島からは、季節によっては、水平線から上がってくる朝日、そして沈む夕日まで眺めることができて、カメラマンもよく訪れる。

 夏になると町中は海水浴の人たちであふれ、まるで都会の真ん中にいるようになるけれど、梅雨の終わりの今の季節はまだ人も少なく、のんびりした空気が流れている。


 この町には、おばあちゃんがずっとひとりで住んでいた。でも最近は体調を崩すことが増えてきて、離れて暮らしているとやっぱり心配だから、ママと相談して一緒に住むことになった。


 パパはというと、わたしが小さい頃にいなくなって、ほとんど記憶がない。ママと別れたわけでも、死んでしまったわけでもなく、“いなくなって”そうだ。どうしていなくなったのか、どこに行ったのか、ママは『子供がそんなこと聞くものじゃない』『仕方がなかったのよ』としか教えてくれない。いつ帰ってくるのか聞いても、『どうかしらね』と言うばかり。でも、パパのことを悪く言うわけでもなく、別に恨んでいるわけでもなさそうだから、それがとても不思議。飼っていた猫がある日突然いなくなってしまった、ちょうどそんな感じ。そしてパパの話をしている時、おばあちゃんは隣でただ笑っているだけ。なにかふたりだけの秘密があるんだろうけど、わたしには何も教えてくれない。


 そんなことで、わたしは少し仲間はずれにされているようで多少の不満はあるものの、女三人で楽しく暮らしはじめたんだけど、新しい生活に慣れてきたちょうどひと月前、おばあちゃんが急に体調を崩して入院してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る