#42 堕ち人会合
昼をとりにギルドに戻ると、ドアの前で抱き合っている男女に気づいた。
背中なので見えないが、あれはキスをしているのではないだろうか。
(おいおい、こんなところじゃなくてもいいだろ。邪魔だな)
仕方がないので、避けて通ろうとした時に男女が離れる。
女性は見たことない人だったが、男はイハルだった。
こいついつの間に。
「あ、地道さん」
イハルも俺に気づき声をかけてきた。ここで声かけるか?すごい気まずい。
「……イハル、彼女?」
イハルは気にしてなさそうだったので、普通に話すと彼は得意げに
「あぁ。今パーティ組んでるイリーナ」
とイリーナさんを紹介してきた。
魔法の名手で上級魔術師らしい。
それでいて格闘術も習得しており、身のこなしが素晴らしいのだとイハルは自慢した。
彼女自慢はうざかったが、なかなかに美人で素直に羨ましい。
「そうか、おめでとう。今から飯?」
最近はまるで話をしていなかった。
せっかくだしダンジョンことを聞いとこうかな?
「いやー、部屋を出るから荷物をとりに」
なんでもそろそろ期限も近いから、彼女の部屋に引っ越すそうだ。
こいつ……
「別に急ぎじゃないんだろ、飯ついでに最近のことを聞かせてくれよ」
噂に聞くところによると、イハルは順調に下に進んでいるらしい。
10Fのボスも間近とのことだった。
俺とは雲泥の違いだ。
これでDP稼ぎまで負けてたら、正気じゃいられなかったことだろう。
「あ~、メンバー待たせてるんだけど、じゃあ飯だけ」
そうして、ギルドの食堂で食事をとることにドアをくぐったところで
「あ、地道さん」
クロモリさんとジーナに出会った。
ちょうど彼女達も、昼食に食堂へ戻ってきていたようだ。ちゃんと昼に戻ることも憶えたんだな。
「地道さん、彼女は?」
イハルが見慣れない日本人女性を見て、俺に聞いてくる。
「3日前にこっちにきたクロモリさん、俺らの後からきた堕ち人だよ」
へぇ~、と気のない声を上げると、
「そういや、ダンジョン探索で夢中で、他の人なんて気にしてなかった。先輩もいるんだよな」
たしかに、1カ月1人程度きているそうなので、それなりな数の先輩堕ち人がいるはずなのだが、まるであったことはない。
「せっかく堕ち人でそろったわけだし、全員で一緒に食事でもどう?」
と、俺はイハルを紹介するつもりで、クロモリさん達にも声をかける。
「いいですよ」
彼女は同意してくれたが、イハルは警戒しているようだった。
俺の後ろに隠れるようについてきた。
イハルと一緒に潜れるようになればと思ったのだが、予想以上に人見知りのようだ。
5人で食堂に向かい、席に座ると、それぞれ改めて自己紹介をした。
その際にイハルの彼女のイリーナは、ジーナが名乗ると驚き、
「ジーナ?もしかしてジーナ・バンドール?」
と確認していた。
どうやら結構な有名人らしい。身のこなしからできる人だなぁと思ってたんだ。
ジーナは照れるとイリーナに同意し、その後快活なトークを繰り広げていた。
イリーナさんも大喜びしながら、2人で大盛り上がりする。
ジーナさんイケメン。
俺ら堕ち人はというと、とりあえず3人で普通に話していた。
貴重な情報交換の場だ。有効活用したい。
「それで、今は9Fを?」
「あぁ、10Fがやばいらしくてさー、今は装備を整えてる。地道さんはバイトはじめたって聞いたけど」
「2番口のところで働いてるよ。こっちのバイトって歩合制でさ、ちゃんと働くと相当に稼ぎがいい」
日給25000R前後というと、イハルは素直に驚いていた。
「ほえー、あんまりダンジョン潜ってないって聞いてたけど、俺より稼いでんじゃん。こっちは50000DP稼ぐの、まだまだ先だぜ」
「俺の場合、これから上がないけどね。生きる分にはこれで十分さ」
そう無難に過ごす大人風に締めた。
たとえ25000R稼いでいたとしても、DP稼ぎで圧倒的に優っていなかったら、こんな風に余裕は持てなかったことだろう。
「地道さん、DPはどれくらい稼いでいるんですか?」
ここでクロモリさんが話に入ってくる。ダンジョンに一緒にいくことを諦めていないらしい。
「10000くらいかな。少ない日は8000まで落ち込むこともあるけど」
俺は嘘をついた。やってることをばらす気は全くない。
「え、DPも全然稼いでるじゃん。誰だよ終わったなんていったやつ」
隣でジーナさんも耳がピクリとした。
思ってたより俺がちゃん稼いでいたからだろう。
「1Fでそんなに稼げるんですか?私3Fでもそんなに…」
クロモリさんは早くも3Fに突入していた。
ペースはえぇ。ついていかなくてよかったと改めて思う。
「それって、ボーナス込み?ボーナスなしだったら、俺とそんなに変わらないんだけど」
「ボーナスなしで。ちゃんと効率重視でいくと、それくらい稼げるよ」
これが証明と、俺は保険で持っている(もう一度買いなおした)超加速リングを見せた。
「これ保険でつけてるんだけど、40万する」
そういうと2人は目を丸くした。
ジーナさんも捨て置けなかったのか、視線をこっちに移しリングを確認する。
「ファストスピードリング。普通に買うと1000万以上するな」
「非常用なので1瞬、1回だけ使える限定品。様子をみて転移リングもそろえる予定なんだけど、とりあえず今はこれだけ買った」
超加速は、転移リングとセットで安全な脱出装置として機能する。
先日の最前線冒険者で逃げ切れた数人もこの組み合わせで助かっていた。
冒険者全滅の件があったので購入したと伝えると、周囲の人間はさっきとうって変わって少し見直した目になっていた。
ちなみに、転移リングはすでに買っていて、常に俺の足の指についている。
「それ1つで、私より装備いいですよ」
イリーナさんが会話に参加してきた。
さっきまで、関わる気ゼロだった気がするのだが、今はちゃんと話してくれる気配がする。みんな現金だ。
それとも俺の評価が底辺すぎたのか?
「下にいっても、パーティで分散するから思ったより稼げないんだよなぁ」
「早くレアが狩れるようになりたいです」
イハルとイリーナが嘆く
レアとは11F以降から出現する希少な特殊モンスターのことだ。
1匹でその階のモンスターの最低でも数百倍のDPを持っている。
下層に進む冒険者の大半はレアが目的で狩りを行っているようなものだ。
「結局、下に進めても、レアが倒せなきゃ。そんなに効率って上がらないんだろ?」
クロモリさんに聞かせるつもりで、確認を入れる。
メンバーで分散するのもそうだが、コストもかさむようになると聞いている。
50000稼いで、35000が経費とかザラらしい。
「あぁ、酒場で飲む分考えると、地道さんより悪いかもなぁ」
ダンジョンから帰ると、冒険者は毎回酒場でどんちゃんするからな。レアがなけりゃ、まともに手元に残らない冒険者は多いはずだ。
「君、思ったよりちゃんとやっていたんだな。2Fに行けばもっと稼げるんじゃないか?」
「2Fはダメです。ハチのせいで安定しない。ハチとハチの巣を効率よく対処する方法が見つかるまでは今のままいく予定です」
DPを稼いでいることが伝わったせいだろうか。いささか前よりも話を聞いてもらえる気配を感じ取れた。
「効率か。やはり堕ち人が話す内容は近いものが多いな。サトーも同じようなことを言っていたよ」
サトーとは、俺らより1年以上前にきた堕ち人らしい。
ここ数年の中ではもっとも活躍している堕ち人で、この界隈では有名人らしかった。
ジーナも、何度かパーティを組んだことがあるそうだ。
「ジーナさん、そのサトーさんってどんな方なんですか?」
「私も2、3度しか組んでいないが……」
ジーナはぽつぽつとサトーについて語りはじめた。
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