#38 虐殺少女

「やった!やりましたみてください、地道さん!」


 クロモリさんはネズミを撃ち殺してはおおはしゃぎしていた。

 

 昨日に引き続き、今朝もクロモリさんとダンジョンにきている。

 昨日も結局、初めはおっかなびっくりだったものの、マジックミサイルを使い始めるとすぐに馴染み、今日のようにゲーム感覚で撃ち殺していた。

 彼女のマジックミサイルリングは、すでに40個を超えている。

 撃ち切ると弾をリロードする要領でガシガシ購入するのだ。

 2人ともゴーグルをつけているし、今の見た目はVRゲームに遊びにきたカップルに見えることだろう。

 

 バシュ

 ピギィィ

 

 また、一匹ネズミが死に、グロ映像が公開される。当然俺は顔をそらした。

 しかし彼女は平然とガン見である。どうしてこうなった。

 昨日はあんなに可愛がっていたのに、今ではまるで容赦ない。

 あまりの変わりように、正直どん引きである。

 

 彼女はどんどんネズミを倒したいらしく、ガシガシ進む。

 まともに索敵をしているかも怪しいレベルだ。ちょっと危なかっしい。

 

 敵はまだですか!と進み過ぎそうな彼女にストップをかけ、俺は少し先に見える岩ヤドカリの脅威を説明する。

 今までは説明せずに、ひっそりと対応していたのだが、そろそろ彼女にもやってもらおう。

 俺はカースワードキルを使い、遠間からコロリと仕留めた。

 

【36DPを獲得しました】

 

「今まで俺が対応してきたけど、岩ヤドカリはこうやって、カースワードキルという魔法を使えば簡単に倒せるんだ。そろそろやってみようか」

 

「カースワードキルですね。カスタマイズはいつものやつですか?」


 そういうと、彼女はカースワードキルリングもさっさと買い、即座に馴染んでしまった。

 まるでガンシューのサブウェポンみたいにガンガン使って、敵を呪い殺していく。

 ゲーマーだからなのか、やたらと適性が高い。

 俺はコストがもったいなくて岩蟹には使わないのだが、彼女はおかまいなしだ。

 どうやら近くによること自体が嫌らしい。


「これも素晴らしい魔法ですね。私でもすぐに使えました!」


 彼女はそういって満面の笑みを浮かべると、カースワードキルもガシガシ購入する。

 すでに両手はリングでいっぱいだ。


 このリング、指一つに1個という制限がある。

 2つ付けると、どちらか指定できないのだ。

 なので一度に付けれるのはせいぜいが10。

 俺は隠し玉として足の指にいくつかつけているからもっと多いが、彼女は手の指だけだろう。

 それがほとんど攻撃魔法で埋まっていた。完全なアタッカースタイルだ。

 

「この5秒ってもどかしいですね。撃った気がしないです」


 しかも、とうとうこんなことまで言い始めた。

 俺はそれがいいと思っているのだが、彼女は殺意が上がりはじめている。

 いや、ゲーム感覚になってきているのか。

 

「値段倍になっちゃいましたけど、私5秒チャージなくしちゃいました」


 そういって、バシュとネズミを狙撃する。

 

「あはっ、やっぱりこっちのほうが全然楽しいですよ」

 

 そういって、彼女は今持っているリングを一斉に売却する。

 全て5秒チャージなしに置き換えるのだろう。


(5秒チャージなくすと、DP効率が悪くなんだけどなぁ)


とは思ったが言わないことにした。

 せっかく彼女が馴染みはじめているのだ、野暮なことは言うまい。


 前よりもっと楽しくなってしまったのだろう、発射頻度はもっと上がった。

 今は常に早歩きだ。

 そしてしばらくして、バシュバシュとひとしきり撃ち切ると、彼女はいくらか肩で息をした。

 少しはしゃぎすぎたみたいだ。

 

「このへんで一度食事にしようか」


 俺は引き返すために無難な提案をした。



  *



 2人でギルドの食堂で食事をしながら今後のことについて、話し合った。

 彼女はもっと潜りたいらしい。

 一方、俺はこれで地道チュートリアルも終了かなーと思っていた。

 そろそろ一人で頑張っても良い頃だろう。

 今回、俺は2人でダンジョンに潜るに当たって、パーティ処理を行わなかった。

 そして、彼女につきあって密室ガス作戦もストップしているので、現在の収入はスズメの涙ほどだ。

 そろそろ自分の稼ぎにも戻りたい。

 

「私、まだまだスコア稼ぎたいです」


 スコアいっちゃたよこの子。完全にガンシュー気分だわ。


「ごめん、俺はちょっと疲れちゃったよ」


 なにせ昼に戻ってくるまで、かれこれ5時間ぶっとおしだったのだ。

 勘弁願いたい。

 この子あれだね、リアル体験型ゲームにドはまりするタイプだね。


「そうですか、じゃあ今日はもう?」


「俺は夜にバイトもあるしね。あまり疲れは引きずりたくないから、この辺でお開きかな」


「……」


 彼女は非常に名残惜しそうだった。

 まだやりたいと目は訴えている。

 一人で行けばいいと思うのだが、まだ踏ん切りが付かないのだろう。う~ん。

 

「……あと1時間だけなら付き合えるかな。本当に、そこまでだけど」


「いいんですか!」


 散歩を喜ぶ犬みたいな反応が返ってきた。

 しっぽがあったら振りまくっていることだろう。

 俺は自分の発言に少し後悔したが、喜んでもらえたので諦めた。

 まぁ仕方がない。これで死んでしまったり怪我しても目覚めが悪いだろう。

 数少ない同郷だし、初心者プレイヤーには優しくしておいて損はないはずだ。

 

 そう思い再び2人でダンジョンにもぐったのだが……結局俺が解放されたのは、3時間後のバイトの時間ぎりぎり直前だった。

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