#36 現代人と魔法
「そうすると、RPGが大好きなんですね」
「はい、有名なものは大体やってると思います」
俺おすすめのカフェで2人食事をしながら会話を続けた。
聞くところによると、彼女もやっぱりゲーマーだった。とても作為的なものを感じる。
「私、スライムが好きで、よく関連商品を買ってました」
あの造形がいいですよね、と部屋にあったスライムのぬいぐるみを懐かしんでいる。
ふむ、あの粘着性のどろどろ生物が好きか、トイレを思い出すな。
「ふ~ん。じゃあネズミもスライムと思えばいいんじゃない?」
「え!?」
「いや、好きでも絶対に倒してたでしょ」
これがゲームの不思議なところで、愛嬌のある魔物を必ずぶちのめす。
普通、恨まれるしかありえない。
場合によっては7代祟られてもおかしくないのだが、やつらはしばかれると仲間になるんだよなぁ。
「そうですけど、ゲームとは違いますし」
「あの魔物ってさ、死ぬとすぐに消えるんだよね。ゲームみたいじゃない?」
「そうなんですか、素材を剥ぎとったりとかは?」
結構えぐい言葉がでてきた。
確かにリアル寄りのゲームになると、死体から剥ぎとる作業がある。
「いやいやいや、そういうのはないよ。全部DPになって本に吸収される」
「でも、殺すなんて私、……できないです」
現代社会人として、とても正しい。すごく気持ちはわかる。
一瞬でなじんで殺戮に走ったやつは、サイコパスに違いない。
「わかる。俺もそうだった。帰るためと思って頑張ってこんぼう使ったんだけど、1日で挫折してね」
そうして、俺の1日目の苦難と失敗を細かに話した。
失敗したのが自分だけじゃないと思えると、人は少し頑張れる。
「地道さんも最初は失敗したんですね」
「そうそう。全然だったよ。それでも今は普通に稼げるようになった」
それから俺は、どうやって稼げるようになったかを話した。
とはいえ、密室ガス作戦までは明かさない。
この先、詰まって進めなくなったら教えてもいいが、今の段階ではまだ内緒にしたかった。
「マジックミサイル、有名な魔法ですね・・・」
「狙いをつける必要もないし、本当に便利だよ。発射時の衝撃もないから自分で撃った気もしないから気楽でさ。ただ、打ち抜いた後の死体は俺も未だに無理でね。魔法撃ったら毎回顔をそらしてる」
こんな風にとデモンストーレションをしてみせると、彼女は少し笑った。
「ふふっ、注射から目をそらす子供みたい」
あ~、確かに心境と状態は完全に一致している。
「それは否定しづらいな」
彼女はクスリとしながら自嘲する。
「私でも、目をそらせば撃てるのかな……」
「魔法は使ってみると面白いですよ。それに……」
「それに?」
「俺たち現代人からしてみると、魔法って憧れじゃない?」
彼女は、確かにと頷いた。
現代人にとって魔法には耐えがたい魅力がある。それが労せずに使えるとなるとなおさらだ。
「いくつか魔法を披露してみせましょう」
そういうと俺は念動リングを腰から下げているリング袋7から取り出し手に付けた。
そして、俺はペンを出し念動でつかむと宙に浮かし上下する。
「わぁ」
「ね、たわいもないことだけど、俺らにはこんなにも新鮮で楽しい」
くるくると回しながら、リモコンヘリのように操作し∞の字を描いてみせる。
これに対し、周囲の人間はまるで反応しない。
当然だろう。こちらの世界の人間にとっては、リモコンでチャンネルを変える程度のことである。
普通、リモコンでチャンネルを変えるたびに手を叩いて喜ぶ人はいない。
そんなことをしたら、どこの山奥の人間かと疑うことだろう。
でも、俺にとっては何時間やっていても楽しい、不思議でお手軽、おもちゃみたいな神秘だ。
「この念動リング、DP600で買えるんですよ」
「え、そんなに安いんですか!?私、魔法のアイテム見たけど、すごく高かったです」
「ギルマスからカスタマイズって聞きませんでしたか?」
どうにも今回、ギルマスは相当に説明不足だ。
俺はカスタマイズのやり方から、具体的にどんなカスタマイズを施し安くしているかを語った。
「と、こういう風に、いくつも組み合わせると、俺らでも簡単に手がだせる値段になるんです」
彼女はほぇ~という顔をしていた。
「私、なんだかゲームみたいで楽しくなってきました」
「奇遇ですね。俺も最近ゲームみたいだなと思い始めていたところなんです」
本当は、それって危ないことなんですけどね。と少し釘をさしてから、食事を終えた。
「じゃあ、実際にダンジョンにいってみましょうか」
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■魔法解説「マジシャンズ・ハンド」
系統 :物質
呪文構成 :認識1以上+操作1以上
距離 :5M+α(操作レベル)
目標 :距離内の認識対象1つ
エネルギー:50j+α(操作レベル)
持続時間 :5秒+α(操作レベル)
消費魔力 :10+α(対象の重さにより変動)
対象に対して念動を行う。
重たいものを扱うほど、消費魔力が増え、必要な操作レベルが増える。
持続時間も操作レベルに比例する。総じて操作レベルが全ての魔法。
初級魔術師が、操作技術を学ぶために使うため学習用魔術としても名高い。
とはいえ、上級魔術師が扱うと初級魔術師とは隔絶の違いを発揮する極めて奥の深い魔法でもある。この魔法の応用一つで、本が何冊も出ている。詳しく知りたい方は、そちらを検討されたし。
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