#16 密室ガス作戦1
1階の敵は4種いる。
そのうち避けてきた2種、影蛇と岩タニシはひどく面倒な敵だ。
片方は岩の隙間にひそみ、近くにくるまで動かない。
もう片方は硬い外殻で守り、近寄るとトゲを周囲に飛ばしてくる。
マジックミサイルとこん棒、どちらでも対処が困難な敵だ。
救いは近寄らなければやり過ごせることだが、今回採用したクラウドキルはそんなやつらに抜群に効果を発揮した。
敵が複数いるあたりを土壁で囲んで密閉し、クラウドキルという名の殺モンスターガスをまくと、簡単に殺すことができたのだ。
瘴気で構成された魔物にのみ作用するという毒が、自分自身に副作用を及ぼさないか心配でもあったが、そちらも杞憂に終わった。
俺は、テスト結果に満足すると次の実験に移った。
適当に作った雑な空間では毒ガスの漏れがひどすぎるので、今度はきちんとした密室を作る。
ダンジョンの通路を土壁の魔法で丁寧に埋め、小さな密室を作ると、俺は空気漏れがないか確認しながら、クラウドキルをばらまき充満させた。
【41DP獲得しました】
【37DP獲得しました】
じきに空間内の敵、影蛇2匹が絶命した。ここまでは予想通り。
隙間から毒ガスの漏れもないようで、非常に順調だ。
俺は空間内の全ての敵がいなくなったのを確認すると秒数を数えながら、じっと待つ。
1……2……3……4……
静かに索敵リングを走らせながら待ち続ける。
すると、120を超えたあたりで反応があった。
【35DP獲得しました】
"新たに発生した敵"がこの空間内で死んだのだ。
これこそ俺が待ち望んでいた反応、毒ガス密室によるリポップキル。
1度のクラウドキルで継続して稼げることの証明だ。
(いける!)
俺は早速、"効果時間48分"にカスタマイズしたクラウドキルリング(25000DP)を購入し、続けてこの部屋で実験を続けた。
……、……、……48分後。
実験の結果、18体の敵を毒殺でき、655DP稼ぐことができた。
発動コストに200DPかかっているが、それなりに黒字だ。
その前に土壁の魔法のコストもかかってはいるが、それは部屋を使いまわせば済む。
問題点は別にあった。
どうやら密室の外に敵が発生すると、部屋の中に敵が発生しなくなるみたいなのだ。
どうにも敵は、ダンジョン内の敵密度が薄いところに湧いて出ているふしがある。
そのため、継続して毒殺するためには、部屋の外の敵をこまめに潰さなくてはならなかった。
タニシや蛇が部屋の外に発生した時にはどうしようかと思ったが、今回はその空間も密室にすることで対処した。
結果、意図せず毒ガス密室が4つ出来上がってしまったのだが、使いまわせば結果オーライだろう。
続けて、大部屋の実験だ。
俺は少し歩き、さきほどの倍ほどの空間を密閉すると、クラウドキルを複数回発動させて、ガスを充満させた。
さきほどの4部屋で思ったのだが、細かく部屋に入りなおすには土壁を壊す必要がありとても面倒だ。
大きな部屋でまとめて管理できれば手間暇の数が減り、効率が大幅に伸びる。
そう期待してのことだったのだが……
10数分たったときのことだ。
大部屋の外を巡回しながら、敵を倒していたところで突然、少し先にある空間がぐにゃりと歪んだのだ。無色の波紋が起きたと思ったらやがては渦のようにうねり、しばらくして収まると、そこには先ほどとは違う空間が出来上がっていた。
(なるほど、これがダンジョンの形が変わるということか)
目先5メートル前後の空間がすっかり様変わりし、俺が作った大部屋の壁の一角が完全に無くなっていた。
形が変わるときに部屋の中のガスも持って行ったのだろう。
詰めたガスも薄くなっているように見えた。
これでは、ガス4回分の元が取れなくなる。
俺はあわてて土壁を塞ぎ、中のガスの補充を行う。が、そのあと再び20分ぐらいしたときのことだった。
再びぐにゃりと歪み、大部屋の壁が失われてしまった。
(……これはまずいかもしれない)
つぅっと背中に汗が流れた。嫌な予感をひしひしと感じる。
もう一度念のために大部屋の壁を補填してみる。
ただし今度はクラウドキルを使うのはやめた。
はたして、20分ほどたった時のことだった。
予感は的中した、またしても空間は歪み、大部屋の壁は失われてしまった。
……ここまで繰り返されると、もはや明確だ。
どうにもこのダンジョン、密室は許していないらしい。
密室ができなければ、密室ガス作戦は成立しない。
(せっかく上手くいくと思ったんだけどなぁ……)
世の中そう上手くはいかないらしい。
少し気落ちしながら、念のために最初の4部屋の密室を確認しにいく。
案の定連結した4部屋のうち中央の2部屋の壁が失われ、2部屋しか残っていなかった。
予想はしていたが、目の当たりにすると肩が落ちた。
(はじめの48分が偶然上手くいったから調子にのってしまったなぁ)
(今日はもう帰るか……)
そう思ったが、装備を確認すると、クラウドキルの本日分の回数が後1回だけ残っていた。
(もったいないので最後に1回だけやろう)
残った密室を使いまわし、クラウドキルを発動させガスを充満させる。
(念のために壁が失われる時間を測るのもいいかもしれない)
そう思い、ざっくりと時間を数えながら、部屋を巡回する。
しかし、今回は無事48分が過ぎても壁が失われることはなかった。
というか、残った2部屋は、それからしばらく経過してもずっと壁が消されなかった。
(……おや?)
この時、俺の中に一つの仮説が浮かんだ。
■購入アイテム
・クラウドキルリング
DP消費タイプ
クラウドキルLv1限定
ダンジョンモンスター対象毒
期間限定【2週間】
操作機能オフ
雲形状の維持力変更【100%減】
持続時間16倍増【3分→48分】
弾数制限【1日10発】
弾数制限2【総使用回数100発】
連続使用不可【5分間隔】
溜め時間追加【60秒】
=25000DP(1回200DP消費)
■魔法解説「クラウドキル」
系統 :風
呪文構成 :生成2以上+操作2以上
距離 :25M+α(操作レベル)
大きさ :半径3メートル+α(生成+操作レベル)
移動速度 :50cm/sec
目標 :距離内の認識位置。距離外に出るとコントロールを失う
持続時間 :3分+α(生成+操作レベル)
構成タイプ:毒、酸、呪いのどれか一つ。もしくは複数
上記3つ以外の無害な気体で構成することもできる。
消費魔力 :200
概要:
ひとかたまりの雲塊を作り出す。この雲の中にいる生物は、構成タイプによって異なる被害を負う。構成タイプへの完全耐性をもつ場合は被害を免れる。
生成レベルが高ければ、特定タイプへのみ有効な毒、酸、呪いで構成することもできる。
持続時間中、術者が定めた地点へ常に緩やかに移動させることができる。
生成+操作レベルが低いと持続時間が短くなり、霧散が早まる。
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