#14 2Fと新エネミー

 この世界では、魔神のダンジョンについてかなり考察が進んでいる。

 魔神ダンジョン攻略書曰く、『魔物は瘴気が集まってできている』

 魔物の強さは、魔物を作る瘴気が濃いほど強く、薄いほど弱くなる。

 この性質は魔物に面白い特徴を与える。

 それは『魔物は自分を作った瘴気より薄い場所にいくと力が抜ける』

 そして逆に、『自分を作る瘴気より、濃い場所にいくと霧散してしまう』そうだ。

 

 だから、基本下の階の魔物は、上へ行くのを嫌がる。

 そして、上の階の魔物は下へは降りていかない。

 

 この辺は、水深に似ている。

 海の圧力に耐えられる深海魚が、浅い場所で生きられるわけじゃない。

 その逆もしかりだ。

 基本的に魚同様に、魔物も自身に適した瘴気のところにしか居たがらない。

 

 つまり上階につながる通路は、唯一のセーフティゾーンになる。

 2階の魔物に追いかけられても1階へ向かって逃げると魔物は途中で諦めるし、1階の魔物についても同様だ。

 俺は今、2Fで上階につながる通路を中心に周囲の魔物を狩っていた。

 完全なチキンプレイである。

 昨晩、イハルから話を聞いた限りでは2Fもあまり危険ではなさそうだが、自分の命をかけているのだ、慎重すぎるくらいでいい。


 とりあえず、様子を見ながらの戦いなのだが、現状は1Fで見る敵ばかりで問題はなかった。

 もちろんネズミは素早くなっているし、他の魔物も同様に強化されているが1Fと同じ対処方法で済んでいる。

 周囲を狩りつくし、少し奥にいこうかというところで、俺はソレを見つけた。

 

(石のゴーレムか……)

 

 背丈が俺の膝くらいまでしかないので、石ミニゴーレムと言ったほうが正解かもしれない。

 それは、壁際でじっとしていた。

 索敵リングの反応がなければ、単なる岩と見間違えた可能性が大だ。

 おそらく近づくまで、襲い掛かってくることはないのだろう。俺は静かにそいつから離れると、元の場所に引き返した。

 

(あぶねーあぶねー)

 

 こん棒で戦うには危うい敵だ。マジックミサイルも通用するかどうか。

 先達からの攻略本には、胴体を力いっぱい殴れば壊れると書いてあったが、こん棒で岩を叩くと手が痛そうだ。

 岩蟹なら見た目に反して柔らかいので何とかなるのだが、アレは見た目通り岩の塊だろう。

 石の腕で殴り掛かってくるらしいし、相手にしたくない。

 俺は大人しくセーフティゾーンまで戻ってくると別の敵を探すことにした。


(……なにか音がする)

 

 耳を澄ますと、ブーンというどこかで聞いたような音が聞こえた。

 

(……これは例の蜂だな)

 

 2階から増えるもう1種の敵、死告蜂。

 こぶし2つ分もあるヤバイやつ。

 どうやら、曲がり角の先にいるみたいだ。

 こっちの敵もなるべくなら避けたいが、今後のことを考えるとマジックミサイルが通用するか調べてみる必要がある。

 俺は索敵リングで1体しかいないことを確認すると、静かに近寄り角からそっと姿を見る。

 

(でっか……)

 

 死告蜂は、5mくらい先で俺に背を向けて飛んでいた。

 こぶし2つ分は体の長さの話で、羽まで含めるともっと大きい。

 羽の比率は通常のハチより全然長く、体の倍以上あるんじゃないだろうか。

 そして特徴的なその針。小型のパイルバンカーを思わせる黒々としたソレは狂暴な長さをしていた。

 虫が嫌いな俺としては、すごい怖い。


(あの針で頭を刺されると死ぬんじゃないかな)


 全長は先ほどの石ゴーレムより小さいが、驚異度は遥かに高い。

 動きだって今までのどの敵よりも素早いはずだ。

 俺は外したときの算段を考えながら、静かにマジックミサイルを唱えた。

 

 バシュ 

【10DPを獲得しました】

 

 俺は、予想よりも簡単に倒せてあっけにとられた。そして、同時にDPの少なさに愕然とする。

 

(聞いてはいたけど、DP少なっ)


 死告蜂はあくまで、「死告蜂の巣」のオプションだ。

 本体を倒さないと無限沸きするザコなのでDPがもらえるだけでもありがたくはある。

 でもやっぱり、こちらとしては普通のモンスターにしか見えないので、残念な気持ちでいっぱいだった。


 ブーンブーンブーン


 倒した直後に、複数の羽音が響く。もしかすると巣が近いのかもしれない。

 俺はすぐに踵を返すと、逃げに徹する。

 周囲の敵も狩りつくしてしまったし、ここらが潮時だろう。

 俺は2階入り口まで戻ると、そのまま1階に上がり2Fの探索を終了することにした。



―――――――――――――――――――――――


■モンスター解説「死告蜂」

 体長20cmの長さを持つ大型の蜂。その狂暴性と食欲から、巣の周辺の生態系が死んでしまうため、死告の名がつけられた。現在は教会の努力と、各地の冒険者の活躍によりほぼ絶滅したと言われているが、代わりにダンジョンに高い頻度で現れている。

 死告蜂は、獲物を見つけると真っ先に針で攻撃する。体長の2割を占めるその黒い針は、薄い鉄ならば容易に貫通する破壊力を秘めている。見た目以上に凶悪な威力が出る理由は、魔力を行使しているため。もし、攻撃に合わせてキャンセリングの魔法を使用することができたならば、劇的に威力を落とすことができる。

 大きさに反して、移動速度は速くない。成人男性が全力で走れば逃げることができる。ただし、獲物と敵に対する執着が異常に高く、敵対していた場合は長い時間追跡される可能性がある。かなわないならば、気づかれる前に逃げてしまったほうが良いだろう。

 ダンジョンに出現する場合、必ず『死告蜂の巣』とセットで現れる。巣の兵隊として現れる死告蜂は、何匹倒そうとも巣から無限に沸いて出てくるため巣の破壊を優先する必要がある。

 巣の対処方法は、別記されている『死告蜂の巣』の項目参照の事。

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