#5 ダンジョン攻略の前に

 イハルはテンションが上がってしまったのだろう、すぐに部屋を飛び出すとダンジョンに向かってしまった。

 本を読まないのか聞いたのだが、彼は自力攻略派らしい。勇者だな。

 ネットで調べてからプレイする派の俺は、とりあえず先達の攻略が書かれているという本を読むことにした。


 が、しかし、文字が読めない……


 近くのイスでだべっているギルマスに聞くと、「説明し忘れてたな」と言って笑った。


「リストから、『多言語習得リング』を買って装備しないと読めないんだ。街の人間にも言葉が通じん」


 それ、忘れてたな、で済むことじゃないですよね。今笑ってごまかしたな。

 後、他にも気になることがあるぞ。


「露店のおばちゃんと話ができましたけど」


「そりゃ、商店の人間は多言語習得リングを持ってるからな。当然ながら俺も受付の人間もつけている」


 そういって、左手の小指のリングを見せてくれる。

 なるほど、日本語が通用するわけではなく、相手が魔法で日本語を習得済みなだけだったのか。

 かなり勘違いするぞ、それ。


「じゃあ、イハルやばくないですかね」


「商店の人間はほとんどつけてるし、街の人間は協力的だから大丈夫だろ」


 期待している割には、結構なげっぱなしじゃないかな。


「イハルは説明聞くのが好きじゃなさそうだったしな、なんとかなるだろ」


 あぁいう人間は好きにやらせたほうがいいんだとは彼の言。

 じゃあ俺には慎重に説明をしてもらおう。


「リング購入するところに、カスタムってあるんですけど」


 カタログリストにはいくらかインターフェイスがついていて、そのうちの一つにカスタムという項目があった。


「アイテムは様々なカスタムが可能なんだ。多言語習得リングの基本DPは3万だが、カスタムすることでDPが変わる」


 範囲を狭く限定的にするほどに安く、範囲を広く汎用的にするほど高くなるらしい。

 この仕様はすべてのアイテムに共通しているとのこと。


「ドラゴンスレイヤーも、カスタム具合によっちゃ買えるかもな。3億が10万になるカスタムだから、使い物になるかはわからんが」


 威力を4分の1にすると値段が2分の1に。耐久力を半分にすることで値段が4分の3になるらしく、それを繰り返せばいくらでも安くなるとのこと。


「どれくらいカスタムするのが普通なんですか?」


「基本的にカスタムしない状態が一番DP効率が良いな。多言語習得リングもそのままで買うのが一番いいぞ」


 なるほど。それを聞いた俺はとりあえず多言語習得リングを3万で購入することにした。

 すると薄く発光していた本がより一層強く輝き、気が付けば手のひらの上にリングが乗っかっている。

 試しに指につけてみると、みるみるうちに本の文字が読めるようになった。

 これはすごい。


「さっそく買ったのか、素直だな」


「買っちゃいけませんでしたか」


「いや、賢明だと思うぞ。もし不要だと思ったなら分解すればいいしな」


 分解、またも重要な仕様が出てきた。


「分解するとDPって返ってくるんですか」


「あぁ、元の半分だがな」


 なるほど、よくあるゲームの仕様だ。

 だが、そうなるとここで疑問も出てくる。

 ポーションの特殊仕様だ。


「ポーションの場合は分解したらどうなるんです?」


「ポーションは購入時の額の半分が返ってくるが、1割の値上がりは残る。分解するだけ損だな」


 ポーションについては色々あってなと苦渋を忍ばせた声が返ってきた。

 もしかすると悪用された過去があるのかもしれない。


「お前、ポーションにだけは本当に気をつけろ。あれは値上がりすぎて額が数十万になってる冒険者も珍しくないんだ」


 使わずに死ぬのは論外だがなともつぶやく。どうしろと。

 ひとまず本が読めるようになった俺はギルマスを置いておき、ページをめくることにした。


 本の中身は、どこかで見たことあるような作りだった。

 おそらく元の世界のゲーム攻略書を参考に書いたのだろう。敵はイラスト付きで解説されており分かりやすい。

 1Fについてはこれを読むだけで問題なさそうに見える。

 しかし、パラパラと簡単に終わりまで目を通すと、肝心なものが書いてないことに気づいた。

「この本、マップが載ってないんですが……」


「あー、ダンジョンはな、毎日形が変わるからマップはないんだ」


 不思議のダンジョン形式か。そいつはやばいな。


「モンスターハウスの対処法を聞いておきたいのですが!」


「モンスターハウスの意味はわからんが、勘違いしてるのはわかるぞ」


 詳しく聞くと、ダンジョンは、日々少しづつ形が変わりはするが、入るたびに変わるものではないらしい。

 そして、モンハウはないらしかった。良かった、死亡率が全然違う。


「形が変わるときに、壁に押しつぶされたりはしないんですか?」


「大丈夫だ。俺も何度も見てるが、実際に壁が動くわけじゃない」


 これ辺は見てみないとわからないかもな。と言いながら、手元のファイルでパシパシ頭をはたかれた。


「あんまり頭でっかちになるのも問題だぞ。もう一人を真似しろとは言わんが、実地体験も大事だ」


 百聞は一見に如かずか……。

 確かに知りたいことは知れた気がする。

 そろそろ自分もダンジョンに向かおうかな、そう思ったあたりで


ぐ~

 

 とお腹がなった。

 そういえば昼飯を買いにコンビニに出たのに、今まで何も食べてなかった。


「そういや、昼時だな。せっかくだし食堂を教えておこう」


 腹の音を聞き、ギルマスは俺を食堂へ案内してくれた。

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