第157話

 魔王さんは私の瞳をまっすぐに見ながら紳士的に語りかけてくる。

 彼が言っていることが全て真実であるということは、何故か知らないけど分かってしまう。

 だけど、私にこれ以上、どうしろというのか――。

 許さないという選択肢?

 そんなのは傲慢でしかない。

 最悪の事態と言っても、問題は、私とお母さんの問題であって、魔王さんには関係ない。


「魔王さんは、私を助けてくれました。それだけで十分です。それ以上、何を望むべきものでしょう。お母様と私との関係性と問題点は、それは親子の問題です」

「なるほどな……、汝もルアル王妃と同じようなことを言うのだな」

「それって……」


 私の言葉に魔王さんは頷くと。


「私は汝を助けた日。その夜、汝が寝ているときに汝の母親であるルアル王妃と語りあったのだ。これから国を、どう運用していくのか? とな……」


 全然、知らなかった。

 私が寝ている間に、そんな話し合いをしていたなんて……。


「汝の母親は、それは娘と話をして決めるといってきた」

「お母様が?」

「そうだ。だが、彼女は国を運営する手腕はもたない普通の女性だ。そして、汝に対して、とても強い執着を持っているように見えた」

「執着……まったく気がつかなかった……」

「そうであろうな。だが、周りから客観的に見れば分かりやすいものであった」

「……」

「だが、暁孝雄と汝の話を聞いて合点がいった。ルアル王妃は前世で自分の子供に先立たれたことで自らを攻め続けたのだろう。自分の大切な我が子を守れぬ無力さに、そして、何も出来なかった無念さに。だから――」

「そうだったのですか……」

「なんということはない。互いが互いを大切に思っていたからこそ、擦れ違いや誤解が生まれ、その結果が今に繋がっているに過ぎないのだ」

「……もっと、言葉を交わせばよかったんですね…・・・」

「うむ……」


 私の言葉に魔王さんは頷くと頭の上に手を載せてくる。


「それで汝は、これからどうするつもりだ?」

「私は……」


 どうしたらいいのかなんて決まっている。

 たくさんの言葉と想いを伝えられて、それで答えが導き出せないなんて、そんなのダメだ、


「私は、もう一度! お母さんと、きちんと話をしたいです!」

「そうか……、なら、逃避行をしている場合ではないな」


魔王さんの言葉に私はゆっくりと「……はい」と、言葉を紡ぎなら頷く。

そんな私の言葉を聞いた魔王さんは、ゆっくりと頷くと、私の手に金属の塊を渡してきた。


「これは、ここの鍵だ。汝が相続するのが筋であろう」

「……はい、ありがとうございます」

「よい、前にも言ったであろう? 我は魔王。支配者たる者の義務を果たしたに過ぎない」


 魔王さんの言葉に私は頷きながら立ち上がる。


「いくのか?」

「はい! お母さんを元に戻せるかどうか分かりません。でも、きちんと話をしてケジメをつけないと前に進めないと思いますから!」

「そうか……、これで汝もようやく一人前として旅立ちであるな……」

「――え?」


 魔王さんは、唐突に卒業という言葉を私に投げかけてきた。


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