第102話


 魔王さんの言葉に、私はドキッとしながらも表情を変えることはしない。

 ここで下手なことを言えば、また面倒なことになりそうな気がしてならないから。


「さて――」


 小さく呟きながら魔王さんは、先ほどと同じようにクリエイト・ゴーレムの魔術を使い2メートルほどのゴーレムを作りだした。 


「やってみよ」

「はい!」


 まずは、魔術を発動させるための想像をする。

 火というのは、可燃物を燃やす結果であり、そこに必要なのは燃焼に必要な物質と、その物質を燃やすための燃料。

 つまり、ガソリンを燃やす行為、その物が燃焼に必要な物質。

 そして酸素こそが物質を燃やすための燃料。

 そこさえ抑えておけば――。


 右手を頭上に掲げる。

 そして、イメージどおり巨大な炎の球を作りだす。

 頭上を見上げると、直径3メートルほどの紅色の炎が生み出されていた。

 あとは、これをゴーレムに当てるイメージを描き放つだけ!


 頭の中で、ゴーレムが焼き尽くされていき粉々になるイメージを……。

 そこで、頭の中でお父さまに腕を刺されたイメージが思い浮かぶ。

 

「――あ、あれ……?」


 次々と、虐待されていた記憶がフィードバックしてきて……。

 頭が痛い……。

 割れるほど……、頭が……。


「いやっ……。いやっ……。いやあああああああああ」


 恐怖が、痛みが、悲しみが一気に心の中に広がっていき――。


「シャルロット!」


 魔王さんが慌てた様子で、私の腕を掴むと同時に引き寄せて抱きしめる。

 そして私の体に結界の魔術を展開すると、同時に上空の紅の炎の塊が、私目掛けて着弾し、炎は魔王さんごと焼き尽くしていく。


「魔王さん!」

「だ、大丈夫だ。それよりも、これは……くっ――」


 炎が消えると同時に、魔王さんは片膝をついてしまう。


「まさか、これほどの威力があるとは――。だが、これでは……」


 煙が散っていくと同時に、ガラスが割れる音が――結界が砕けた音が聞こえてくる。

 それと同時に、嗅いだことの無いような嫌な匂いが漂ってくる。

 ようやく魔王さんの姿が、きちんと見えるようになった途端、私は「ヒッ!」と小さく呟きながら一歩下がってしまった。


「魔王さん、その姿は……」

「気にすることはない。咄嗟とは言え、我のマントを焼くとは中々であったぞ?」

「――で、でも……」


 魔王さんの姿は、体中、炎の魔術を受けた影響で焼け爛れていて。

 それは、全部、私が魔術を失敗したからで……。


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