第98話

 お母さまに、淡い青色のフリルがついた白いワンピースを着せてもらって、長めのブーツを履いたところで部屋の扉がノックされた。


「もう用意はできたようだな。今日からは攻撃魔術を教えるから、髪の毛はきちんと結っておくのだぞ?」


 部屋に入ってきた魔王さんは三つ網にしていた私の髪の毛を見て、それだけ言うと部屋から出ていった。

 5歳を過ぎたころから魔王さんは、私を抱っこして騎士や兵士が修練で使っている場所まで連れていくことを止めていた。

 なんでも、私と血の繋がってない自分が幼い子供を連れまわしていると色々と部下に言われるからと言っていた。

 私は、楽だから別にいいのだけど、助けてもらって魔術まで教えてもらっている身としては、頼りきりになるのも良くないと思って頷くだけにした。


「お母さま、髪の毛を結い上げてもらえますか?」

「いいけど……本当にいいの?」

「はい、攻撃魔術は初めてだから、魔王さんが嘘をついたことはないから――」

「そう……」


 6歳の頃に魔術を習い始めてから魔王さんが来ると、お母さまは元気が無くなる。

 そして、過剰なまでに私を甘やかしてくる。

 二人の間に何か取り決めがあったとしか思えないけど、どうしても聞きだすことが出来ない。

 だって聞くと、とても悲しそうな顔をするから――。


 お母さまに髪の毛を結ってもらった私は、髪留めを触っていつもと違うバレッタに首を傾げる。


「お母さま、これは……」

「それはね、私のお母さまからもらったモノなの」

「おばあさまから?」

「そう、大森林国アルフの王妃なのだけどね……」


 お母さまが、そういうと少し遠い目をして外を見た。


「お母さま、行って来ます」


 なんて、言葉を返していいか分からない私は、部屋から出て廊下を歩いていく。

 後ろからは、私を護衛する騎士の人がついてくる。

 そういえば、アレスさんは8年くらい見かけないけど、どれだけ長い出張に行っているのだろうか?





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