第87話 真里姉と……慟哭
扉の中へ足を踏み入れると、メフィストフェレスが言うように、そこには何もない空間が広がっていた。
「私達の後に、冒険者達が続くという話だったけれど……」
警戒しながら空間の
彼等は最初、現状を確認するように辺りに目を向けていたけれど、私達を視認するなり駆け出してきた。
「空牙、右!」
「グオゥッ」
私の言葉に反応した空牙が体を右に傾けると、飛んで来た魔法を
何の魔法だったかなんて、考える余裕はない。
浴びせられる魔法の数々、飛んでくる無数の矢、そして。
「おらおらっ!」
「くっ」
こちらが遠距離攻撃を
【
「こっちも忘れてんなよっ!」
私が防いだのとは反対側から、別の冒険者が剣を振り上げ襲いかかってくる。
「ニャァッ!」
私一人では完全に避けきれなかった攻撃を、ネロが接近し雷撃を放つことで
それでも
こんな
それだけ私達が
相手は100人を超える冒険者達で、しかも全員私よりずっと強いはず。
それがこれだけ
余裕の無い中、ちらりとメフィストフェレスを見ると、仮面の下の
本当に人の神経を
私達は今、冒険者達が等間隔で並び作った輪の中に
そんな中を、逃げ場など無くとにかく走り続けている。
動きを止めたが最後、遠距離攻撃の良い
結果的に、
「さすがは
良く言うよ、私達がギリギリで凌げるよう調整している
これだけの人数がいて、一度に攻めてこない理由。
それはメフィストフェレスが何らかの手を使って、冒険者達を制御しているからだろう。
感情の見えない冒険者はそれが
一方、制御されていなそうなのがしつこく攻撃してくるこの人達で。
彼等にはちゃんと感情が見える。
ただその感情は、おそらく
そう思った瞬間、私は理解した。
彼等が、何なのかを。
「PK……」
Mebiusの中で殺しを楽しむ人達。
イベントでトップになってしまった私を倒して、有名になりたいのかな?
それに何の意味があるのか、知りたくもないけれど。
でもそれなら、他の冒険者は何なのだろうか。
と、私の疑問を
「この演目の
「俺達が脇役だと? 酷え言い方しやがるじゃねえか」
「むしろ主役だろ。逃げてばっかりのあいつを、手加減して殺さずに盛り上げてやっているんだからな」
手加減して殺さず、か。
ありがた
「そして周囲を囲む彼等は
「
思わず
「最高の
メフィストフェレスが指を鳴らすと、それまで感情の見えなかった冒険者達の顔が次々と
その顔に浮かぶ表情は怒り、憎しみ、怨み……。
どうしたらそこまで感情を暗く、黒く染めることが出来るのか、私には全く分からない。
ただ一つはっきりしているのは、状況がより
けれどそのせいで完全に足が止まってしまい、そこを相手が見逃しくてくれるはずもなく。
「があああっ!!」
突進してきた体格の良い戦士系の冒険者が振るう大剣が、消えかける直前の風哮にぶつかり、その凄まじい
「
空牙が私を抱きかかえるようにしてくれたおかげで、床にぶつかった際のダメージは小さい。
けれど、のそりと立ち上がった空牙の体は不自然に傾いていた。
きっと私を
ここまでか……。
私が空牙を戻そうとした、その時。
これまでとは比較にならない程の速度で矢が放たれた。
気付いた時には
目を
直後ネロの体が
「あぁっ、あああっ! ネロ、ネロッ!!」
私は泣きながらネロの体を集めるけれど、
その間にも、次々と
しかし今度は空牙が、私の前で両手を広げ受け止め始めた。
「だめだよ空牙! お願い、お願いだから戻って!!」
私が何度空牙を戻そうとしても、それを空牙は
「なんでっ……」
おかしいよ、どうして私の言うことを聞いてくれないの!?
私はこれ以上、家族を
私が戻るよう何度操作しても、空牙は決してその場から動くことなく、相手の攻撃の前に、悪意の前に立ちはだかった。
「……グォ…………」
やがて空牙は
倒れた
空牙の緑色の
「そんな、どうして……こんな、こんなことって……」
悲しみと苦しみと怒りが渦を巻き、頭が割れるように痛い。
目の前の現実があまりにも酷くて、痛くて、心が張り裂けそうで。
「うぅっ、うわあああぁっ!!!」
私は
ネロも空牙も失った私にとって、さらに襲いかかる攻撃はもう、ただ見ていることしか出来ず。
せめて一緒に……そう思い目を瞑った私を、けれどもう一人の家族がそれを許してはくれなかった。
空牙でさえ耐えられなかった攻撃に耐え、彼は絞り出すような声で、話し始めた。
「オレは望んでいた。この身に
「君、は……」
「お前の優しさは、深い。しかしそれだけでは、お前はオレの中に宿るモノに決して認められない。認められるためには、魂が引き裂かれるほどの慟哭が必要だった。そして今、お前の慟哭は届き、宿るモノはお前を認め全てをオレに
言葉を区切る彼が、私の方を向いた。
その
彼の
「オレの名を呼べ、マリア」
彼の願いが。
だから、私は……。
「…………私を……私達を助けて、ギルス!」
瞬間、彼の全身から黒いオーラのような物が吹き出した。
「任せろ」
短くそう言ったギルスは、私の足元にあったネロと空牙の魔石を手にし、冒険者達へ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます