第45話 真里姉と第1回公式イベント(最期へと至る階梯)
始まりは雑魚ラッシュと同様、遠距離攻撃を得意とする人達による一斉攻撃。
ただしその攻撃の主体は弓矢で、魔法は使われていない。
指揮を取るのはグレアムさん。
その指揮は素晴らしく、本来”点の攻撃”であるはずなのに、矢を放つタイミングとスキルのタイミングをコントロールし、”面の攻撃”として成立させていた。
結果、降り注ぐ矢に圧される形で、拠点に取り付こうとしていたオーガ・クラウィス達はオーガ・パンドラを守りながら、じりじりと後退することを余儀無くされていた。
その距離が5m、10mと開いていき、15mになろうかという時、スキルの待機時間の影響か、矢の圧力が弱まった。
即座にオーガ・パンドラが回復を行い、オーガ・クラウィス達が前進を始めようとする、その矢先。
それより前に駆け出す複数の人影があった。
それはマレウスさんとカンナさんによって選ばれた近接戦闘を得意とする、危険な役割に志願してくれた人達だ。
当然のように、オーガ・クラウィス達が迎撃してくる。
斧の攻撃はもちろん、剣や槍でも受けるダメージは小さくないはずなのに、それでも正面から挑み、躱し続けていく。
それを可能としているのが、志願してくれた人達のAGIの高さと、マレウスさんから提供させたジャーキーによる料理バフのAGI+8、らしい。
私としてはAGI+8の恩恵がどれだけかイマイチ良く分かっていないけれど、彼等曰く「全然違う」らしい。
注意が彼等に向いている今、私は自分の務めを果たすべく、クーガーを駆って端にいるオーガの一団に接近した。
いつもよりDEXが落ちているけれど、そこまで気になる程じゃないね。
狙うのはオーガ・パンドラ、ではなく槍を持ったオーガ・クラウィス。
盗賊系ジョブの人に向かって槍が突き出された瞬間を狙い、私は【操糸】で”銀色に輝く糸”を伸ばしオーガ・クラウィスに巻き付けた。
今装備しているのは【大蜘蛛の糸】ではなく、【魔銀の糸】。
その装備特性である伸縮性により、まるで極細のワイヤーと化した糸が狙い通りオーガ・クラウィスの皮膚を切り裂き、肉の途中まで食い込んだ。
切断までは至らなかったけれど、これは予想通り。
そしてここからがこの戦いの要だ。
マレウスさんの読み通りにいくかどうか。
「ネロ!」
「ニャッ!」
私が伸ばした糸に、ネロが琴を弾くように光る猫パンチを叩きつけた。
光の正体は雷。
それは瞬く間に糸を伝いオーガ・クラウィスに伝播し、ビクンっとその巨体を震わせたかと思うと、ガクガクと痙攣し大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
よし、上手くいったみたい!
遠距離からの魔法攻撃でもなく、ある意味、内側からの魔法攻撃。
しかも雷による痺れが狙い通り生まれていた。
私は隣で注意を引き付けてくれていた盗賊系ジョブの人と頷き合うと、サイリウムのように光る【光石】を頭上に投げると、全力でその場を離脱した。
間髪入れず、魔道士系ジョブの人達による高火力の魔法が飛来、着弾する。
遠距離魔法攻撃を打ち消す役目がいなくなったことで、ピンポイントで爆撃されたような状態となった後、姿が残っているのはオーガ・パンドラだけだった。
すると後方からも【光石】が投げられる。
その数は、1つ。
予め【光石】が1つ投げられた場合は続行、2つ投げられた場合は退却と決められていた。
私はオーガ・パンドラを別の人に任せると、すぐに次の槍を持ったオーガ・クラウィスに狙いを定め、ネロと一緒に無力化していった。
反撃開始から、20分。
危険な役目に志願してくれた数人が、オーガ・クラウィスの攻撃を躱しきれず後方に下がる場面はあったものの、状況としては順調に推移し、私達は拠点を囲んでいたオーガ・クラウィス達を倒すこと出来た。
犠牲者が0だったことを踏まえれば、作戦は成功したといって良いと思う。
けれど、ここで誰も予想もしなかった事が起こる。
それはオーガ・パンドラだけが、HPが無くなったにも関わらず、消えずにその場に残り続けたことだった。
試しに触れてみても反応がなかったようで、その有り様はまるでオブジェクトのようだと聞いている。
困惑が広がる中、私もオーガ・パンドラに近付いてみたけれど、確かに何の反応もなかった。
なんだろう、次の展開で何か意味を持つのかな?
訝しむ私の前で、なぜか、ネロがオーガ・パンドラのお腹を頻りに引っ掻こうとしていた。
「ネロ?」
抱き上げようとして私の顔がより近付いた、その時。
聴こえないはずの”音”が聴こえた気がした。
「まさか……」
直接オーガ・パンドラのお腹に耳を当ててみると、周囲の雑音に混じり、弱々しくも一定のリズムを刻む”音”の存在があった。
忘れていた”何か”が、望ましくない形で見つかったと思った。
「マレウスさん、カンナさん! 急いで【解体】スキルを持っている人を集めて下さい!!」
2人が何事かと聞いてきたけれど、問答をしている時間も惜しいのでとにかく動いてもらった。
その間、私は他の人に決してオーガ・パンドラに触れないよう伝えて回った。
やがて2人が連れて来た【解体】スキルを持っている人に、オーガ・パンドラを解体してもらった結果……。
「こいつは……」
「こう繋げてくるなんて、エグいわね……」
マレウスさんとカンナさんが驚き、そしてこれまでの経緯から納得した、その正体。
オーガ・パンドラを【解体】して出てきたのは、人だった。
おそらく第2の街から消えた住人の方。
幸いまだ命は繋がっているようだけれど、かなり弱っている。
「カンナさん、回復魔法をかけてもらってもいいですか?」
「任せて。けどここはまだ危ないから、街に運んでからの方がいいわね」
「お願いします。教会にいるエステルさんってシスターに言えば、協力してくれると思うので」
これが助けたことになるのかは分からないけれど、救えるのならまず救ってから、悩むのも困るのも後回し。
「もしかして、オーガ・パンドラ全部に人が入ってんのか?」
「その可能性が高いですね。急いで【解体】していかないと、中の人がっ」
私の言葉が、けれど頭上に現れた存在の声によって遮られた。
「なんと、まさかこのように鮮やかな手並で対処されてしまうとは」
このタイミングで来るとか、悪い予感しかしない。
見たくもなかった、黒いシルクハットに真っ黒な包帯のような物で全身を包んだ、黒い仮面の相手。
メフィストフェレスが、またも小馬鹿にするようにこちらに拍手していた。
「仲間の損害を抑え、着実に敵対する戦力を無力化していったその手腕、敬服に値します。クラウィスを倒すことでパンドラの”箱”を開ける”鍵”を手に入れる……私の描いたシナリオとしては最善!! ですが、少々非効率的に捉えた方も少なくなかったようですね」
「どういう意味ですか?」
「戦いにおいて、回復役を真っ先に潰すことは常道。それが最も効率的で賢い選択なのは否めません。あちらの方々のように」
メフィストフェレスが指先を”パチンッ”と鳴らすと、空中にスクリーンが現れ、そこにはオーガ・クラウィスを無視し、オーガ・パンドラから倒す攻略組の姿があった。
そして倒されたオーガ・パンドラは私達のようにその場に残り続けることはなく、黒い粒子を生んで消えていった。
後には何も、残らない。
え? それって、中にいたはずの人も一緒に消えたっていうことじゃ……。
恐ろしい事実に戦慄する私の前で、惨劇は至る所で繰り広げられていった。
叶うなら、今から駆けつけて止めたかったけれど、間に合うはずもなくて。
歯噛みする私は、そこである異変に気が付いた。
彼等はオーガ・パンドラを狙った後、オーガ・クラウィス達は無視しているのだ。
「パンドラに与えられた”報酬”が他よりも遥かに多いことに、気が付かれたのでしょう。これが彼等にとっての最善。効率的に”報酬”を獲得する事を目的とするならば、実に理に適った戦い方です。しかし、私の描いたシナリオにおいてこれは”最悪”。ご覧下さい、黒い怨嗟の声が月を己が色に染め上げていきますよ」
私達が見上げる前で、いつの間にか輝く部分が見えないほどに細くなっていた三十日月が、完全に黒く塗り潰された。
辺りに立ち込めるのは、漆黒。
その中で、禍々しいまでに赤い双眸を楽しそうに歪め、黒い怪人は告げた。
「皆様、よくぞ”最後へと到る階梯”を演じてきって下さいました。これより終幕を迎えることとなりますが、皆様の行動により、終幕の名を変更しなければなりません。終幕の名は、”最期へと至る階梯” そしてその階梯の行先は、」
こちらの不安を煽るよう意図的に作られた間に、誰かがごくりと唾を飲み込んだ。
「断頭台でございます」
優雅に一礼したような雰囲気を感じた後、光を失った月が震えた。
これからが、終幕。
そしてイベント通りならば、その終幕の相手となるのはきっと、”厄災”。
そして”厄災”は姿よりも前に、名前だけが浮かび上がった。
その名は、”ネメシス”と読めた。
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