第43話 真里姉と第1回公式イベント(現状と打開策)


「よお大丈夫か……ってなんだお前、そんな疲れた顔して」


 マレウスさんがやって来たのは、ジャーキーを配り終えて間もなくのことだった。


 カンナさんはルレットさんの様子を看に行き、グレアムさんは団員さんにジャーキーを渡しに行くと言っていた。


 ……ちゃんと渡すつもりだよね?


 後で確かめようと心に誓っていると、マレウスさんが状況を説明してくれた。


「取り敢えず、俺とカンナでフォローした連中と、元から警戒して残っていた連中、それからお前が連れて来た連中で守りを固めてる。特にお前が連れてきた連中、土系統の魔法が使える奴が結構いて助かったぜ」


「土系統の魔法って何ができるんですか?」


「MWOじゃ、特別なオブジェクトや特定の地域を除いて、地形や環境とか、そういったもんにプレイヤーが作用できるんだ。つっても一時的だけどな。それを活かして突貫だが土系統の魔法で堀を作り、そん時生まれた分の土も使って壁を作った。強度を出すために工夫が必要だったが、おかげで今のところ被害は最小限度に抑えられてる」


 そっか、あの時の私の行動は、こんな形で繋がることもあるんだね。


 ふっと、嬉しさが込み上げてきた。


「何しろレイドが組めねえからな。こうして拠点を造って意思を共有できるのはでけえ。今の状況でバラバラに戦っても、下手したら味方のはずのプレイヤーから攻撃を食らう可能性がある。フレンドリーファイアだな」


「フレンドリーファイアって、何ですか?」


「お前そんな事も知らねえのか……って、そういえばゲーム初心者だったな。斜め上にズレた行動してくるからすっかり忘れてたぜ」


「えっ、私貶されてます?」

 

「いや、むしろ褒め……てるかは置いといて」


「はぐらかされた!?」


「置いといて! フレンドリーファイアってのは、日本語で言えば同士討ち。MWOだとパーティー外からのプレイヤーの攻撃は普通に食らうのが仕様だ。ルレットの”アレ”は例外だが」


「そんな設定があったんですね」


「むしろそれを知らないで良くあの状況を切り抜けたな」


「それは褒めてますか?」


「褒めて……やるのも吝かではない」


「もうマレウスちゃんたら、またそうやってツンツンしちゃうんだから。ワタシ達女にとってはね、素直にデレてくれた方が時にはぐっとくるのよ? お気に入りのマルシアちゃんも、そう言ってたわ」


 カンナさんが戻ってきたと思ったら、またマレウスさんのナイーブなところを。


 あれかな、やっぱり女の人は恋話が好きだから弄ってしまうのかな?


 でも私はカンナさんのナイーブなところは弄らないよ。

 

 今は止めてくれるルレットさんもいないし。


「マジかよっ! ってバカ、そんなんじゃねえって俺は何度も!!」


「はいはい、とにかく今はこれからの対策よ」


 自分で弄っておいてマレウスさんの反応はぶった斬るカンナさん、相変わらず容赦がない。


 これで険悪にならないのだから不思議だ。


「ひとまず、この流れを作ったワタシ達に方針は任されたわ。グレアムさん達が積極的に賛同してくれたのも助かったわね。おかげで大きな反対も出なかったし」


「でも多少は反対されたんですよね?」


「あのねマリアちゃん。多くの人が集まり何かを決める時、反対する人は一定数出てくるのよ。特に理由がなくても、主導権を握られるのが気に食わないとかね。だから……



 『なら代案出せゴルァッ!』



 って、ほんのちょっぴり声を荒げちゃったら大人しくなったわ」


 てへっ、っていう擬音が聴こえてきそうな仕草で舌を出すカンナさん。


 あっ、今のとってもドスの利いた声が地声なんですね。


 何度も言うけれど、見た目完全に女の人の口からそんな声が出たら、色んな意味で反対できる人はいないと思う。


「話しを戻すわね。これまでの戦いから、大体の傾向は掴めたの。モンスターの名前はオーガ・クラウィス。武具は剣、斧、槍の3種で、常に一塊で行動するわ」


「一塊ですか……」


 離脱することを優先したとはいえ、クーガーの突進を以ってしても、たぶん1体も倒せていなかったと思う。


 それを3体同時に相手するとか、私にはどうすれば良いのか検討もつかない。


「剣は物理攻撃も魔法攻撃にもある程度の耐性がある、いわば壁役ね。斧の攻撃は防御力を無視してくるし、槍はこちらの遠距離魔法攻撃を打ち消してくるわ」


 こちらの攻撃に耐性があって、攻撃が防御力無視で、遠距離魔法攻撃を打ち消してくるんだ、そうですか……。


 言葉を反芻する私の眼は、きっと遠い彼方を向いていたと思う。


「遠距離攻撃の手段を持っていないことがせめてもの救いね。けどさらに問題なのが、体というかお腹の一際大きい、杖を持ったオーガ。名前をオーガ・パンドラの存在よ」


「オーガ・パンドラ……」


 パンドラって、あの有名な箱がモチーフなのかな。

 

 あまり良いイメージがないんだけれど。


「オーガ・パンドラはオーガ・クラウィスに常に守られる位置にいて、オーガ・クラウィスに回復を行うわ。そしてオーガ・クラウィスも、一定のダメージを受けるとオーガ・パンドラの守りを優先し、前に出て来なくなるの。このパンドラとクラウィスの連携のせいで、有効なダメージを与えるのがより難しくなってるわ。遠距離攻撃でパンドラを狙うにもクラウィスが邪魔だし、クラウィスを先に倒そうとしても、戻られてパンドラに回復されるから」


「聞けば聞くほど、打開策が見えてこないような気がするんですが」


「そこは考えがあるわ。ね? マレウスちゃん」


 ウィンクを飛ばす先で、さっきの事が尾を引いているのか、マレウスさんが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「ったく……打開策なら、ある」


「あっ、そうなんですか? それなら良…」


「ちなみにその鍵はマリア、お前だ」


 全然良くなかった!


 そしてマレウスさんの言う打開策を聞かされた私は、その責任の大きさにまた意識を失いそうになった。


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