第36話 真里姉と第1回公式イベント(奇襲)
現れたモンスターの数は、ざっと見ただけで私達冒険者の数倍。
けれど前列が視界を遮り後ろの状況が見えないため、今なお門から出現し続けているとしたら、どこまで増えているか検討もつかない。
モンスターの種類は私が知っているボアやブラックウルフもいれば、見た事もない昆虫型のモンスターも混じっていた。
ルレットさんが言うには、第2エリアのモンスターらしい。
周囲からは「雑魚ラッシュか」と揶揄する言葉が飛び交い、その数を前に特に緊張する様子も見えなかった。
私が警戒し過ぎなのかな?
そう思った矢先、モンスター達の先陣に向け、冒険者達から遠距離攻撃が開始された。
戦争映画で見る弾幕のように放たれる魔法と矢の雨に、モンスターの先陣が瞬く間にその数を減らしていき、後続との間に距離を生じる。
そこへ、弧を描くように展開していた中央付近に動きがあり、近接攻撃を得意とする冒険者達が飛び出し、モンスターの群れへと突撃して行った。
接近するや手にした武具でたちまちモンスターを斬り伏せ、叩き潰し、突き倒し、奥へ奥へと押し進んでいく様子は圧巻で、私は思わず感嘆の言葉を漏らしてしまった。
「みんな強いんですね」
「今最前線で突っ込んでいるのは、攻略組の連中が主体だからな。しかも相手は雑魚。あれくらいは当然だ」
マレウスさんは落ち着いてそう言うけれど、それでも数の多さは怖いと思うんだけれどね。
私の懸念をよそに、突撃した勢いは止まらない。
周囲からもその後に続く人達が続出し、まるで押し寄せるモンスターの壁に楔を打ち込んでいるかのようだった。
その楔は強力で、穿った部分だけでなくその周囲へも殲滅の手を広げていく。
「これは端の方にいるワタシ達までモンスターが来ることは無さそうね」
「みんなポイントが欲しいんですよぉ。けどぉ、少し浮かれ過ぎな気もしますねぇ。まだ始まったばかりなんですからぁ」
ルレットさんの言う通り、まだイベントが開始されてから10分も経っていない。
それなのに、もう冒険者の半数以上が元居た場所から離れてしまっている。
「デスペナを気にしないで良いというのも効いているわね……嫌な予感がするわ。ワタシ達もいつでも出れるようにしておきましょう」
私はカンナさんに頷くと、ネロを喚んだ。
マレウスさんは見るからに頑丈そうな大盾を構え、カンナさんはいつでも魔法を使えるよう準備し、ルレットさんは念入りにストレッチをしていた。
ちなみにクーガーは、まだ温存することになっている。
やがて冒険者の3分の2がモンスターと戦うために動いた、その時。
進撃した冒険者達を囲むように、平原の左右に新たな髑髏の門が!?
その門は最初の門より横幅が大きく、扉が開くと、これまでより一回り以上大きな体のモンスター達が悠然と姿を現してきた。
「ちっ、ここでネームドによる挟み撃ちか。出るのは予想してたが、出し方がいやらしいぜ」
マリウスさんが舌打ちするくらい、それは絶妙なタイミングだった。
攻略組は奥へ行っているため直ぐには戻ってこれない上に、その後に続いた冒険者達は縦長に伸びてしまっていて側面が手薄になっている。
そして手薄になっている部分には、移動速度の遅い後衛職が多かった。
ネームドの攻撃を受けたら一溜りもない。
私も一溜りもない。
「後衛の援護に行くぞ。今放置して後衛が瓦解したら、その先にいる連中が保たなくなる。マリアは予定変更、クーガー喚んでネームドの進行を止めろ。一時的でいい」
「マレウスさん、私のジョブも一応前衛よりは後衛だと思いますよ?」
ゼーラさんには、他の役割を臨機応変に演じることが役割とは言われたけれど、主にステータス的な面で。
STRに次いで私のVITは低空飛行だ。
「マリアはもう”マリア”っていうジョブみたいなもんだろ。前衛並みに近距離、中距離戦闘力がある後衛がいてたまるかよ」
「それは言えてるわね」
「否定できませんねぇ」
なんですか”マリア”っていうジョブって!
というかカンナさんもルレットさんまで!?
「いいからさっさと喚べ。そんでこの前みたいに俺とカンナを乗せてくれ。お前が一時的に止めたら、後は俺とカンナがその場に留まって壁になる。その後はクーガーを走らせできるだけ敵の注意を引きつけろ」
「ルレットさんは?」
「ルレットは……お前、まだ保つか?」
「マリアさんと一緒ならぁ、もしかしたらぁ?」
「すげえ不安だが遊ばせるわけにもいかねえな。ジャーキーバフがあれば、ルレットなら徒歩でもなんとかついてこれんだろ。俺とカンナが降りたら、ルレットは放流したままにしていい。やり過ぎそうになったらネロでもけしかけて我に返らせてやってくれ」
「放流って……」
「お願いしますねぇ、マリアさん」
ルレットさんはいつもの通りおっとりとしている。
マレウスさんの言葉がとても心配なんだけれど。
これ、大丈夫なのかな……?
色んな意味で不安の残る、私達の出撃となった。
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