第9話 真里姉と夜戦と新たなスキル
三人で時間を忘れ話した後、私は真希にお風呂を手伝ってもらい、真人にベッドに運んでもらった。
時間は午前0時。
普段ならとっくに眠りについている時間だけれど、楽しかった時間の熱が残っているせいか、一向に眠気が訪れる気配がない。
枕元には、MWOから目覚めた時に置いたブラインドサークレットがそのままの位置にあった。
「あれから4時間経っているから、MWOの世界だと24時間経過しているのか」
なんだろう、たった1日過ぎただけ、しかもそれはゲームの世界だと分かっているのに、このそわそわする感じは。
結局、眠れず起きているなら何かをしていても一緒だよね、と自分に言い聞かせ、私はブラインドサークレットを装着し再びMWOの世界にログインした。
目覚めて、まず感じたのは背中の硬い感触。
「そういえば、エステルさんが用意してくれた寝台に横になってログアウトしたんだっけ」
体を起こし外を見れば、真っ暗な夜空に月が煌々と照っている。
扉を開けて廊下に出ると、辺りはしんと静まり返っていた。
ちょうど丸一日過ぎたとすれば、この時間にエステルさんも子供達も起きているはずがないか。
私はできるだけ足音を立てないよう気をつけながら、教会から外に出た。
現実とは異なり、MWOの夜の街はとても暗い。
街灯がないのと、活動している住人の方が圧倒的に少ないんだろうね。
代わりに冒険者然とした人はちらほら見かけた。
レベル上げにでも行くのかな?
特にやることがなかった私も、それに倣うことにした。
行き先は”試しの森”一択。
他の場所はまだ知らないし、木があるから糸を張って守りやすいのも分かっているしね。
前回と同様10分程歩いて森に行くと、森の中は月の光も届かず真っ暗だった。
幸い、食材を買い込んだ時におまけしてもらった【光石】という、持っているだけで周囲数mを明るく照らしてくれるサイリウムのようなアイテムのおかげで、進むことはできそうだ。
慎重に森の中を歩き、しばらく。
いつの間にか、足音に私のものではない音が混ざっていた。
咄嗟に糸を張ったのと、それが飛び込んできたのはほぼ同時。
間一髪で攻撃を防ぐことはできたけれど、反撃に移る余裕はなく、その間に相手は闇の中に引き返してしまった。
一瞬だけ見えたその姿は大型の犬、本で見たシベリアンハスキーに近かった気がする。
張った糸を盾にするようにして木を背にする。
これで背ろから襲われることは防げるはず。
こちらはその間にできるだけ糸を張り防御を固めると、相手はゆっくり【光石】の照らす中に姿を見せた。
「ブラックウルフ……」
姿を認識したことで表示される相手の名前。
犬ではなく、まさかの狼だった。
しかも現れたのは一匹ではなく三匹!
複数同時に相手する経験はないけれど、ボアのように突っ込んでくれたら対処できるかも。
糸で絡めて動きを止めてしまえば、あとは一体ずつ倒していけばいい。
けれどそんな私の考えを見抜いたかのように、三匹は私の周りをグルグル回るだけで無闇に突っ込んでこない。
試しに2本目の糸を仕掛けてみたけれど、もう少しというところで躱されてしまった。
惜しい!
こうなると不利なのは私だ。
糸を操っている間はMPを消費する。
何か倒す手段を見つけないと、MPが切れてブラックウルフの餌になってしまう。
「せめて一匹倒せたらいいんだけれど……」
アイテムボックスには、使えるようなものはない。
スキルも、現状を打開してくれそうなものを都合よく覚えていたりはしないか。
「それなら」
私は、2本目の糸を一匹に集中し何度も仕掛けた。
躱されても構わず、愚直に、真っ直ぐ仕掛ける。
そのうち相手も慣れてきたのか、こちらの攻撃に対し最小限の動きで躱すようになってきた。
学習能力が高いね。
”だから”私は成功を確信して、攻撃を仕掛けた最中に余っていたステータスポイント2をDEXに振った。
結果、攻撃の途中で糸が飛ぶ速さはこれまでよりも少し速くなり、躱すタイミングを覚えてしまっていたブラックウルフを捕らえることに成功した。
即座に捕らえた糸を首に巻き付け窒息にもっていく。
「「ギャワワンッ!!」」
仲間の危機に二匹が助けようとするけれど、糸を外すことなんてできるはずもなく、やがてHPが尽きて姿を消した。
動揺したのか、二匹の反応が鈍い。
私はその隙にもう一匹を狙い、最初の一匹と同じ末路を辿らせた。
これで1対1。
さすがにこの時にはもう隙を見せてはいなかったけれど、守りに回していた糸も攻撃に加えることで、確実に追い詰め倒すことができた。
『レベルが8になりました。【操糸】スキルのレベルが9になりました』
不意を突かれたのもあって苦戦したけれど、その甲斐あってレベルとスキルレベルの両方が上がった。
今回はある意味ステータスポイントを振り忘れていたおかげで反撃できたけれど、やっぱり忘れずに振っておいた方がいいね。
ステータスとスキルレベルが上がったおかげで、その後は危なげなくブラックウルフを倒し続け、何回かは【捕縛】することもできた。
一度に襲ってくる数が増えなかったのにも助けられた感じだ。
さすがに五匹一斉とか来られたら対処が難しかっただろうしね。
その結果がこんな感じ。
(マリア:道化師 Lv7→10)
STR 1→1
VIT 2→3
AGI 3→4
DEX 32→46
INT 4→4
MID 6→8
(スキル:スキルポイント+35)
【操糸】Lv10
【捕縛】Lv3
【料理】Lv2
レベルが10になった時、ステータスポイントやスキルポイントがいつもなら+2されるのに、+5となったのは特別なのかな?
まあ気にせず振ったけれど。
「振っておいてなんだけれど、このDEXはいいのかな? そして本当にSTRが死んでいるな私」
レベルが10上がってSTRが一つもあがらないのは道化師というジョブの性質なのか、私だからなのか。
とはいえ、ここまできたらSTRにステータスポイントを振る選択肢はもうないね。
それにしてもスキルポイントが随分余っている。
みんなはどのくらい消費しているのだろう?
今度ルレットさんに聞いてみようかな。
そう思いウィンドウを閉じようとした時、一文見落としていたことに気がついた。
『【操糸】がLv10となったため、【傀儡】のジョブスキルが取得可能となりました』
説明を読んでみるとこんな感じのスキルだった。
【傀儡】
糸で物に意思を伝え、物に自立した動きをさせることができるようになる。
その強さはステータス、スキルレベル、操る物の品質に依存する。
取得に必要はスキルポイントは5。
ジョブスキルだから、覚えれば戦い方の幅が広がるかな?
スキルポイントは余っているし……取るか。
『【傀儡】を取得しました』
無事に新しいスキルを取得し、さて何で試そうかと思案していると、ちょうど良い物があったことを思い出す。
子供の頃からの、もう一つの夢が実現できるかも。
この時は軽い気持ちでそう思っていたんだ、うん。
まさがそれが、あんあことになるなんて……それこそ、その時の私は夢にも思っていなかった。
(マリア:道化師 Lv10)
STR 1
VIT 3
AGI 4
DEX 46
INT 4
MID 8
(スキル:スキルポイント+30)
【操糸】Lv10
【傀儡】Lv1
【捕縛】Lv3
【料理】Lv2
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