第24話 消えた絵画 Ⅲ

 上着の内ポケットを探るも、其処にある筈の鍵は見当たらない。


 ズボンの中にも、何処にも無い。


 昨夜はどうしていた?

 どうやって此の扉を開いた?



 記憶が定まらない…昨夜此処へは夕食を運びに入ったきり。鍵をどうしたのか覚えがない、その時既に無かった様な気もする。


 地下室の施錠は長年身に染み付いた作業化した行為故、自身も然程注視していなかった。


 加えてここ数日は“もう一人のリチャード”が気になり殆ど寝ずの番。更に昨日のギルバートの件…



 度重なる心労で憔悴していた事もあり、失念していた。


 とにかく確認しなければならない…


 意を決し扉を開くと、早朝にも関わらずリチャードは感心にも机に向かって読書の最中であった。



 彼が人間の方であるならば、だが…



 扉の開く音に反応して此方を向いた息子は何時もの懐こい笑顔で


 「父さんおはよう、今朝は随分早いね?

 あ、僕ちゃんと勉強していたよ?偉いでしょ?」




 褒めて欲しそうにする何時もの様子に安心して、頭を撫でて遣ろうと近付くと、踏み出した足先にコツンと何かが当たり視線を落とした。



 其処にあったのは、見慣れた地下室の鍵…



 「…!!」



 慌てて屈み拾い上げると息子が


 「父さんどうしたの?」と、



「あ、いや…リチャード、この鍵は、此処に昨夜からあったか?」



「鍵?僕は知らないよ…」




息子の声が低く途切れたのを聞けばふと顔を上げて彼を見た…


其処には薄笑い浮かべ此方を見下ろす白銀の人狼が居た。




「彼奴は知らないよ…あぁ、今はね、親父殿と話したくて強制的に眠らせたんだ。


ちゃんと帰ってこれるといいんだけどね…」


 

 「息子に何をした…」



 「酷い言い草だなぁ…何度も言うけれどオレだって貴方の息子だよ」



 少しも表情動かさずに嘯く態度で言えばパチンと指を鳴らして


 「あぁ、オレね、考えたんですよ。今日からオレの事は“ルーヴ”と呼んで、


 貴方達オレと彼奴を区別したそうだからね…考えて差し上げた」



 恩着せがましく言ってこちらに嘲る様な目を向ける

その瞳を見据えながら立ち上がると手にした鍵を彼の目前に晒して問い詰める様に聞いた


 「これはお前が盗ったのか」


 「盗っただなんて、人聞きの悪い。拝借しただけだよ、ほら、もう貴方の手の中にあるでしょう?」



 「一体いつの間に…いや、今はそんな事はどうだっていい。

 外に出たのか」


 

 「そんな事もどうだって良いでしょう?今はこうしてここにいるんだからさぁ、


 オレね、最後通告をする為にわざわざ彼奴を眠らせたんだ。

 用件だけ言いますね。



 オレをここから出して下さい。お返事は5日後の深夜までに。


 もしそれまでに出して貰えなかった時は、可哀想だけれどリチャードには永遠に眠っていて貰いますね。


 その後は力尽くでここを出ます。


 穏便に済ませたいなら何が最良か、親父殿なら分かりますよね?さぁ、お話は終わりです。


 オレはこれから暫くはリチャードに身体を預けますね。



 良いですか?5日後の深夜までですよ、オレが待ってあげるのは…」



 ルーヴに…息子に脅しをかけられておめおめと主人の元へ帰るなどとんでもない事だと思いながらも、最愛のリチャードを人質にとられている以上云うなりになるより他無いのかと、選択肢の無さに肩を落とし、約束の日までついに言い出せずに過ぎてしまった。



 そんな折眠り続けていたギルバートが目を覚ました。


 帰って来た旦那様には、迎えに上がった時に事のあらましをザックリと説明し、連れ立って応接間に向かった。


そこでギルバートの話を聞くと


彼曰く、あの日気を失う寸前に何者かを目撃したと云う事だった。


 ルーヴに違いない…



 もう隠し仰せはしないだろうと確信し、全てを話す決意をした…


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