第54話 エピローグ・茜と輝く未来
「茜ちゃん、また明日ね!」
「うん! じゃあね撫子ちゃん!」
あれから時は進んで、わたしは高校3年生になった。
あの後、拝島先生の努力もあって、学校でのいじめは姿を消すことになった。わたしは撫子ちゃんだけじゃなくクラスのみんな、そして、清瀬さんたちとも話すようになって、充実した生活を送るようになった。
これもぜんぶ、アオイがわたしに残してくれたものだ。
そして今日、5月7日はアオイの命日だ。わたしは帰りがけにお花を買って、アオイにあいさつをしに来ている。
「えっと、アオイのお墓は…………。あれ? 誰かいる」
アオイのお墓の前には、女の人がいた。この人、もしかして…………。
「こんにちは。アオイさんのお母さんですか?」
その人は話しかけられて初めてわたしに気がついて、振り向く。きれいな目元には、アオイの面影を感じる。
「…………あなたは?」
「伏見茜っていいます。アオイの友達です!」
「友達…………その制服。でも、碧は4年前に…………」
「はい……。でも、わたしはアオイの友達なんです」
「そう…………。あなたもきっと知っているわよね。あの子に、私がどんな風に接したのか。あの子は、私のせいで死んだようなもの。私は自分のイライラをあの子で発散して、傷つけた。私は一生、許されない罪を犯した…………」
「確かに、アオイはあなたのせいでたくさん傷ついて、辛い思いをしました。だから、わたしはあなたのしたことを許せません」
「……………………」
「でも、アオイはきっと、あなたをとっくに許しています。親子だから…………。あなたがこうしてアオイを想って命日にお墓参りにくるように、アオイもあなたのことを空から想っているはずです」
「…………それ以外に、私があの子にしてあげられることはないから」
アオイのお母さんはわたしに背中を向ける。
「私はもう行くわ。あなたはゆっくり碧とお話していってちょうだい」
アオイのお母さんはそのまま立ち去る。この人も、いつか前を向いて歩ける日が来るのだろうか。
「アオイ、久しぶり」
わたしはお墓と向き合う。
「アオイはあれから、元気してる? 杏さんや、秋津くんたちには会えた?」
「…………わたしはとっても元気だよ。毎日、楽しく過ごしてる。…………そういえばわたしね、夢ができたの。それはね、学校の先生になること」
「なんでかって? わたしは魂浄請負人だからだよ」
「意味が分からない? わたしには幽霊が見えないから、死んでしまった人の未練を断ち切ることはできない。でも、未練を残して死んでしまう人を減らすことはできるって思って」
「まあ、学校の先生が一体どれだけの人を救えるかはわからないけど…………でも、わたしは辛い思いをしている人がいたら、その人に手を差し伸べることができる人になりたい、って思ったんだ。あの時のアオイみたいに、ね」
「だから…………だからいつか…………」
泣きそうになるのをこらえて、笑顔でアオイに語りかける。
「絶対また会って、あの日の話の続きをしようね!」
この先のわたしの人生、きっと良いことや楽しいことだけじゃなく、悪いことや悲しいこともいっぱいあるだろう。
でも、どんな時でもわたしは前を向いて生きていきたい。それがきっと唯一、わたしたち人間に残された、幸せをつかむ術だと思うから。
見上げた空は、一生懸命輝いていた。
生死のサカイ 柴王 @shibaossu753
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