第52話 アオイの新しい未練

「ボクの、未練について話そう」


 わたしたちは屋上に二人ならんで寝転んでいた。目に映るのは、暗い夜空を必死に照らす、たくさんの星。


「ボクは死んだ。でも、心のどこかでは考えていたのかもしれない。もしかしたら、自分が幸せに生きる道があったんじゃないか、って。その思いは、ボクを悼む母親の姿を見て、さらに大きくなった」


「ボクは一年間、多くの死者と話したが、ボクの疑問は晴れることはなかった。…………そんな時、キミに出会ったんだ」


「……………………」


「孤独に苛まれて、死ぬことを選んだ少女。もし、この子が死んで、未練を残して幽霊としてこの世に留まったなら。そしてその未練を断ち切ることに成功したら。その時は、ボクの疑問も晴れると思ったんだ」


「…………でも、アオイは」


「ああ…………。ボクはキミを死なせないことを選んだ。…………キミは、あの時のボク自身だったから。そしてボクは、キミを死なせる代わりに、キミが生きて幸せになる道を探すためにボクの力を与えて、魂浄請負人の仕事をともに行わせることを選んだ」


「わたしは本当に、アオイに救われたんだね。生き残ったことも、未練を抱いた人たちとの交流も、ぜんぶわたしの進む道を照らしてくれた」


「ああ。そして、ボクはキミに救われたんだよ。キミの努力も、葛藤も、成長も、キミという人間だからこそ間近で感じることができた。キミはボクに、人のいろいろな可能性を見せてくれた」


「そっか。じゃあわたしたち、ウィンウィン、ってことでいいのかな」


 わたしは首を少し傾けてアオイの方を向く。


「ああ、そうだね」


 アオイは目だけをこちらに向けて答える。


「ボクは今日、ずっとキミを見ていた。学校でのキミを、ずっとね」


「…………え?」


「ボクはもはや生きている人間には知覚されない。だから堂々と学校に行って近くでキミを見ていたのさ」


「え! じゃあ、ホームルームの時とか、先生との話とか、ぜんぶ聞いてたの? …………は、恥ずかしい!」


 全身が赤くなるのを感じる。変なことしてないよね? わたし。


「何も言わなかったのは申し訳ない。でも、今日一日キミを見続けたことでわかったんだ。キミはもう、キミの幸せを見つけた。アカネは、ボクとは違う道を行ける、ってね」


「アオイ…………」


「そうしてボクの未練である、『自分が死んだことが間違いかどうか、その答えを見つけること』は、見事にキミが断ち切ってくれた」


「そっか、そっか…………良かったね、アオイ」


「ああ、キミのおかげだ、アカネ」


「えへへ…………わたしは自分のために必死だっただけなんだけどね…………」


「……………………」


「……………………え、ちょっと待って、今なんて?」


「いや、だから、キミのおかげだ、って」


「いやいや、その前。『未練は断ち切られた』って言ったよね!?」


 わたしはガバッと起き上がってアオイの体をあちこち確認する。


「なんで!? 光がぜんぜん出てない! アオイは成仏するんじゃないの!?」


 アオイははあ、とため息をつく。


「だから、ボクの依頼はこれからなんだよ」


「…………へ?」


「ボクには新しい未練ができた。それを断ち切ってほしいというのがボクの依頼だ」

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