第37話 心の空にかかる虹

 お父さんとお母さんは、泣いて泣いて泣き腫らした。わたしは、正しい選択をできたんだろうか?


「最後に、最後だけでいいから、茜、僕たちは、茜を親として抱きしめてもいいかな?」


 まだ涙の跡が顔に残るお父さんがわたしの目を見る。お母さんは、不安そうに私を見つめる。


「それは、だめ」


 わたしは答える。だって…………。


「最後じゃなくて、いつかわたしが向こうに行っても、きっと抱きしめてくれるって、約束して? だって、わたしの親は、後にも先にも二人しかいないんだから」

「茜…………」


 二人から伝わる体温は、とても温かくて、とても、懐かしかった。10年ぶりの本物の愛が、わたしに注がれた。


「! ……どうやら、そろそろあなたとお別れしなきゃいけないみたい、茜」


 お父さんとお母さんの体から光が満ち始める。


「…………そっか、良かった…………あ、ちょっと待って!」


 わたしはあわててポケットから紙を取り出して二人に渡す。


「これは?」

「肩たたき券! 10年前、二人にわたしがプレゼントしたでしょ? …………結局、一度も使ってくれないままだったから…………その、もしよかったら…………」


 わたしは少し照れくさくなって、二人から目を逸らす。


「茜、お願いできるかな」

「私もお願いするわ、茜」


「…………うん!」


 わたしは二人の肩を順番に叩いた。そこにわたしは、当たり前だったはずの、とっても尊い、日常を感じた。

 長いのか短いのかわからない時間の感覚を感じながら、わたしは懐かしい幸せを噛みしめていた。


 そうしているうちに二人は、いつの間にか消えてしまっていた。


「…………」


 わたしはトスン、と膝から崩れ落ちる。


「う……ヒック…………」


 自然に、涙が溢れだしてくる。悲しさ、寂しさ、悔しさ。さっきまで我慢していたいろんな感情が、堰を切って流れてくる。


 わたしに近づく、足音が聞こえる。顔を上げるとそこには…………。


「アオイ…………」

「アカネ、よく頑張った」


「アオイ…………うわああああああああああん!」


 わたしはアオイに抱きついて、時が経つのも忘れて、すべての収まりきらない感情が流れつくすまで、延々と涙を流した。


 そうして涙を出し切ったあとのわたしの心は澄んだ空のようで、そこには、虹がかかっているように思えた。

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