捕らわれた心 ~吸血鬼と禁断の恋を~

葉柚

第1話 吸血鬼を狩る者




―――愛してる、貴方だけを………。




―――愛してる、例え貴方が倒さなければいけない人だとしても………。




―――ずっと貴方だけを愛し続ける。













日も差し込まないような深い深い森の奥、真っ赤なコートをなびかせながら長い黒髪を一つに編んだ少女は、ザクッザクッと足音を立てて道なき道を歩いていた。



少女の歩いた後には少女の足のサイズに踏み固められた草が出来上がっていく。


誰もこの場所を通ってはいないことが伺える。



白い肌に黒色の柔らかい髪が舞う。



光があたると淡く緑色になる髪は、彼女をより引き立てていた。



意志の強そうな瞳で、まっすぐ前を見つめながらひたすら【それ】を捜し求めていた。



彼女の名は立花 飛鳥(たちばな あすか)。



若干16歳の優秀なハンターである。



ハンターとは吸血鬼を退治する人のことをいい、常に危険と隣り合わせでその任務を果たす存在のことだ。



中には任務途中で亡きものになる者も多数存在するのである。



飛鳥はそんな危険と隣あわせの組織の中に身を置いていた。


「しっかし今回の任務はやっかいだね………。」



依頼書の地図を眺めながら飛鳥は誰にいうわけでもなくポツリと呟いた。



今回の任務は最近巷を騒がせているという美貌の吸血鬼の退治。



最近夜になると街にやってきて美女の血ばかりを吸い取っていくものがいるのだ。



何人もの美女の被害者が出る中、このままでは街から美女がいなくなると心配したハンター協会のそろそろ登頂部の薄毛が気になってきた長が、ハンターをこの事件に投入してきたのである。



吸血鬼の居場所はすぐに突き止められた。



そしてそこに飛鳥が向かうことになったのだ。



「ふぅ。あそこかな?」



深い森を進んで行くと木々の合間に白い建物のようなものが見え隠れしている。



飛鳥は誘われるようにその場所に足を進めた。



それはまるで城の主が呼んでいるようであった。



少しばかり戸惑いながらも足を前に前にと進める。



鬱蒼としている木々がまるで飛鳥の訪れを待っていたかのように、ざわざわと葉を揺らしてざわめきだす。



「やっぱ、気味が悪いわね………。

こんな仕事、引き受けるんじゃなかったなぁ~。」


はっきり言って飛鳥は今回の仕事をうけたくはなかった。



受けたくはなかったのだが、上からの命令に背くわけにも行かなかった。



ましてやこのまま被害が拡大するのも嫌であったので、しぶしぶと引き受けたのだ。





そのときの彼女はこの仕事がこれからの人生を揺るがす、大きな運命の分かれ道だとはまだ気づいてなどいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る