第27話 一人ぼっちの冒険
「社長は居るか!?」
アルバトロス商会の建物に飛び込み乱暴に扉を開け、開口一番にそう言った。
「アクセルさん!? そんなに慌ててどうしたんですか!?」
汗だくな上、息を切らし肩を上下させている俺を見て受付のジェニーが目を丸くする。
無理もない、馬車で半日、徒歩で二日掛かる道のりを走り続け、一日でここまで来たのだ。
流石に不死者の俺でもこれは堪える、っていうか不死者だろうとスタミナが無尽蔵ではないから疲れるのは当たり前だ。
「急ぎの用なんだ……すぐに取り次いでくれないか?」
呼吸を整えつつジェニーが差し出してくれたコップの水を飲み干す。
「分かったわ、少し待ってて」
今回ライムから出された試練は出鱈目なものだった……俺に世界戦争を止めろだと? 出来るわけがない。
試練の期間はあと五ヶ月、こちらはまだ多少の余裕がある。
しかしこの試練にどれだけの時間が費やされるか今から試算するのは不可能だ。
戦争に介入して死なずに通せる自信もない、俺に残された死亡回数制限はあと三回……だが最後の一回は死んだ時点で試練の終了、失敗を意味する。
だから俺はあと二回までしか死ぬ事が許させない。
そして平行して出されて試練、生命の種を見つけろだっけ? これはこれで所在が分からない……そして内容不明の最後の試練、これも気になるが取り合えず今は考えないでおこう。
「これはアクセルさん、お久振りというにはそんなに間が空いていませんね」
「挨拶はいい、お前に依頼したい仕事がある」
「……ではこちらへどうぞ」
俺の鬼気迫る表情から察してくれたのか、アルバトロスは今出て来たばかりの部屋に俺を案内した。
恐らくここは社長室だろう、長いソファーとテーブルを挟んで一人掛けのソファーが向かい合って並んでいた。
「どうぞお掛けください」
お言葉に甘え、長い方のソファーに腰掛ける。
疲労している俺には心地よい柔らかさ、思わず眠ってしまいそうになった。
「今日はどういったご用向きでしょう?」
「ある物を探してもらいたい、いや、所在を探ってくれるだけでいい」
「それでそのある物とは?」
「生命の種というものだ、悪いが見た目などの特徴は俺にも分からない……」
我ながら無理難題を頼んでいると思う、名前以外分からない物の探索など普通の情報屋なら即答で断るだろう。
「分かりました、そのご依頼受けましょう……しかし少々お時間をいただくことになりますが……」
自分で依頼しておいてなんだが、受けるのか……やはりここは普通の情報屋ではないようだ。
「それでいい、ただ四か月以内に情報を掴めなければそれ以上探す必要はないからな」
「分かりました、では契約成立です……依頼料は金貨二枚ですが前金を金貨一枚頂きます、そして依頼達成時にもう一枚頂きますがよろしいですね?」
「ああ、頼むぜ」
金貨をテーブルの上に滑らす。
「お任せを」
取り合えずこれで生命の種の方は考えなくてよくなった、問題は世界戦争の終息の方だがこちらは全くのノープランだ。
今日はもう街を出るには日が傾き過ぎている、俺はこの街で中でも比較的質素で安い宿を探し一泊することにした、今日はぐっすり眠って身体を休めたい。
うっかりアルバトロスに宿を頼もうものなら、またあの落ち着かない高級ホテルを紹介されかねないからな。
夜が明けた。
すぐに飛び起き旅支度を始める。
それにしてもどうしたものだろう、戦争を止めるにしても何をどうしたらいいか分からない。
戦争の発端は帝国が他国に宣戦布告をしたことだ、要するに原因は帝国にあることになる……ここまでは俺にだって分かる。
だからと言って今から帝国に乗り込む? いやそれは今や不可能だ。
既に開戦している以上、いつ武力衝突が起きるか分からない。
そのせいもあって以前は関所さえ抜ければ普通に行き来出来ていた帝国だったが、現在は他国の人間の入国を一切許していない。
同様に共和国側にも入ることも叶わない……完全に手詰まりだ。
ならばどうする? またアルバトロスに相談するか? いやダメだ。
既に生命の種の件を頼んでしまっている、しかも何でもかんでも人に頼っていては俺に対しての試練にならないし俺のプライドが許さない。
こちらは是が非でも俺だけの手で成し遂げなくてはならない。
これ以上考えていても埒が明かない、取り合えず止まってないで足を動かさなければ。
そんな訳でまずは国境を目指す事にする。
イングリットとカタリナが以前いた教団のあった村……あそこから更に北に向かうと、帝国、共和国、王国で綺麗に三等分した国境がある。
いや正確には三国の国境で周囲を囲まれた小さな中立地帯があるのだ。
そこはいつ如何なる理由があろうとも侵してはならないと
共和国、王国両方にアプローチ出来る場所だ、早々に落とそうとするに違いない。
その点から俺はその中立地帯に非常に興味があるのだ。
そこに行けば試練攻略の手掛かりが掴めるかも知れない。
中立地帯までは歩いて三日は掛かるが、また走って少しでも早く到着するようにしよう。
俺が街の北門から旅立とうとしたその時、馬車が通りかかった。
「あれ? アクセルの旦那、ここで何してるんです?」
馬車の御者から声を掛けられる、どこかで聞いた声だな……俺が馬車に視線を向けると見知った顔があった……アルバトロスの部下のボギーだ。
「よう、お前はこれから行商か?」
「へい、これからいつ戦争が起こるか分からないでしょう? だから北の中立地帯に食料と生活用品を届けに行くんでさぁ」
「何っ!?」
そういえば中立地帯にも人が住んでいたな、正確にはその中立地帯は国の体を成しているのだった。
広さはこのアルバトロス経済特区の五分の一程、いやもっと小さいかもしれない。
しかしこれは非常に運がいい、まさかこれから俺が行こうとしている場所にこの馬車は向かっているのだ。
「おいお前、俺もそこまで連れていけ」
「えっ!? それは困ります、社長の許可をとらねぇと……」
「これでどうだ?」
俺はボギーに巾着袋から取り出した銀貨を五枚取り出した。
「いや……それでもですねぇ……」
何とも歯切れが悪い。
「ええい、ならこれでどうだ?」
銀貨をもう三枚追加する。
「社長には内緒ですぜ?」
「ありがとうよ」
まったくしたたかな奴だ、さすがはあのアルバトロスの部下だけはあるな。
俺は荷馬車の後ろから荷台に乗り、荷物の間に挟まる様に座った。
これなら今日中に中立地帯に付けるだろう。
「旦那……旦那、起きてくだせぇ」
「うん? 何だ折角気持ちよく寝てたのに……」
「国境警備隊です、気を付けてくだせぇ」
「あっ……」
うっかりしていた、国境に行くんだ、当然警備のため王国の兵士が国境警備隊として派遣されている。
そこへ俺のような武器を持った冒険者が荷馬車に隠れるように乗っていたらどうだ、完全に怪しまれるだろう。
「おい、もっと早く起こしてくれれば対処のしようがあったのに」
「何度も起こしましたって……」
ボギーは俺の言い分に呆れている。
俺ってそんなに寝起きが悪かったっけ?
昨日の無理が祟って宿で寝たくらいで体力が回復しきらなかったのか。
「おいお前、ここへ何の用だ?」
「へい、中立国へ物資の搬入に来やした」
ボギーが国境警備兵と会話を交わしている、俺は木箱の中に隠れているが気が気ではない。
「荷物を改めさせてもらう」
兵士が荷馬車に乗り込んで来やがった、すぐ横で別の箱を開ける音がする。
どうすんだこれ?
いよいよ俺が隠れている木箱の箱に手が掛かったのを感じる……万事休す。
「おい!! あれ!! まさか帝国軍か!?」
外に居る別に兵士が叫ぶ……何? 帝国軍だと?
「やはり来やがったか!! おいお前!! 死にたくなければ引き返せ!!」
「へい!! 只今!!」
ボギーは手綱を操り馬車を反転させる。
兵士たちがそちらに気を取られているうちに俺は荷馬車から飛び降り、近くに茂みに実を隠す。
一体どういう状況だ? 俺はこっそり国境側を覗いた。
帝国軍側から馬に乗った帝国軍が大挙として押し寄せている。
いよいよ侵攻を開始したか、俺が思った通りだな。
しかも勇ましいことに軍団の先頭は女性が務めているではないか。
王冠を頭に頂き、豪華な装飾の鎧を着ている……どう見てみ一般の兵士が着れるものとは到底思えない。
「進めーーーー者ども!! 敵を恐れる者は帝国兵に在らず!! その勇敢なる精神を敵に見せつけてやれーーーー!!!」
とんでもない女傑だな……いや待てよ帝国は進軍時、常に王が先陣を切る習わしだったはず……まさかこの女、キャスリン女王か?
通り過ぎる瞬間、彼女の顔が目に入った……おいおい、そんな馬鹿な……。
俺の目に映ったキャスリン女王の顔はイングリットに瓜二つだったのだ。
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