第6話 楽しい晩餐

 食卓の上にはなんと日本食が並んでいた(ただし材料はファンタジー素材だけど)。ご飯にお味噌汁、焼き魚、生姜焼き、野菜の煮物、お婆ちゃん自慢のお漬物などなど、素朴だが心尽くしの手料理が美味しそうな湯気をあげている。

 ぬこにゃんはちゃっかり俺の膝の上に乗り、視線は魚にロックオンされている。また焼き魚をフゥフゥしてもらうつもりでいるらしい、この甘えん坊さんめ。

 皆が席についたのを確認するとお婆ちゃんは居住まいを正した。

「改めて、クリムとメルを助けて頂いてありがとうございました。どんなに感謝しても感謝しきれません、本当にありがとうね」

 そう言ってお婆ちゃんは丁寧に深く頭を下げた。

「いえいえ、無事で良かったです!! それに俺達も森で迷っていたので助かりましたから!」

 恐縮して俺は手をブンブン降る。

 俺の様子にニッコリ微笑むお婆ちゃん。

「神隠しにあったんですてねえ、大変だったでしょうに。ユーキさん達さえ良ければ、いくらでも家に居てもらって構わないからねえ」

 クリムさんとメルちゃんもウンウンと頷く。

「本当ですか!? 実を言うとこちらの事が全くわからない状態で困っていたんです。厚かましいお願いですが、目処がつくまで置いてもらえると助かります。なんでもお手伝いをさせて頂きますので、よろしくお願いします!」

「お願いにゃ!」

 俺が頭を下げると、真似してぬこにゃんもお辞儀する。

「はい、こちらこそよろしくねえ。さあさあ、冷めないうちに食べましょう。今日は腕によりをかけたからね、遠慮なくおかわりしてねえ」

 全員でいただきますと言って、箸を取る。田舎のお婆ちゃんの家に帰ってきたような気分になる。和気あいあいの楽しい団欒だんらんという感じだ。

「ユーキ~、お魚~!」

 ぬこにゃんが待ちきれないという感じで見上げてくる。

「はいはい、ちょっと待ってな~」と言って焼き魚をほぐしてフゥフゥと冷ましてやる。

「ほれ、あ~ん」

「あ~ん……美味しい~♪」

 ぬこにゃんは本当に幸せそうに食べるなw

「う、うらやましい……」

 え? と顔を上げるとクリムさんが真っ赤になって慌てて目を逸らす。

 小さなつぶやき声だったので聞き間違いかもしれない。


 夕飯をご馳走になりつつ、こちらの生活様式について色々聞いてみたところ、玄関で靴を脱ぐこと(お邪魔する時に気づいた)やお風呂に入ることなど日本の生活習慣とかなり近いことがわかった。なにより、言葉や文字が間違いなく日本語だった。

 あまりに都合がいいので、夢オチの線はまだ残っていると思う。夢の中で俺の妄想がほとばしっているのかもしれないんだ、きっと。

 残念なことに『ハンタークエスト』のお金は使えないみたいだ。こちらでは銅貨、銀貨、金貨、白金貨の四種類の硬貨が使われていて、銅貨一枚で百円ぐらいの価値らしい。

 交換レートは銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚。日本円で考えると銀貨が千円、金貨が一万円、白金貨が十万円くらいということだ。分かりやすくて助かるのだが……絶賛無一文だ! やだ! なにこの不安感!

 とりあえずお婆ちゃんのお手伝いをしつつ、『ハンターギルド』でハンター登録をして頃合いを見て依頼を受けてみるという方針で決まった。『ハンターギルド』というのはモンスターを狩るハンター達をまとめる組合組織みたいなものだ。ただ、ハンター登録するには初心者講習と試験を受けないといけないらしい。明日の午後にクリムさんがギルドへ案内してくれるそうだ。

「ユーキさんならすぐなれますよ! だってあんな大きな飛竜をあっという間に撃退するほどの実力をお持ちなんですから!」

 クリムさんが興奮気味にそう力説する。

「へぇ、大したもんだねぇ」とお婆ちゃんが感心したように俺を見上げてくる。

「本当にすごかったんだよ、お婆ちゃん! それにね、ユーキさんは薬草の採取もすごいんだよ! どんどん見つけてきちゃうんだから!」

 まるで自分のことのように嬉しそうに話すクリムさん。しっぽブンブン振ってる。

「ほうほう! 採取まで! こりゃ、ユーキさんにお婿に来てもらおうかねえ」

「……! な、な、なな、何言ってるの!? お婆ちゃん! そんなこと言ったらユーキさんが困っちゃうでしょ!?」

 顔を赤くして狼狽うろたえるクリムさんが微笑ましい。

「じゃあ、メルがお兄ちゃんにオムコに来てもらう~♪」

 メルちゃんが元気よく手を挙げる。

「な!? な、な、何言ってるのよ、メルったら!」

「らめだよっ! ユーキは俺の嫁にゃ♪ にゃふふ♡」

 ぬこにゃんが突然変なこと言い出した! どこでそんな言葉覚えたんだ!? あ、俺のせいか゚゚(・_・;)

 見下ろすと俺の胸にしなだれかかって、とろんとした顔をしている。その手にはかじりかけのマタタビの漬物が握られていた。ひょっとして酔っ払ってる?

「あら~、ユーキさんはモテモテねえ」

 お婆ちゃんがニコニコしながら言う。

 彼女いない歴イコール年齢の俺に突然モテ期が来たらしい! 夢ならめないでくれ!

「ユ~キ~♡ はい、あ~ん♡」

 ぬこにゃんがマタタビの漬物を俺の口に入れてくる。うん、完全に酔っ払いだ。

 ……なにこれ、猫キャバクラ? いや、もちろんキャバクラなんて行ったことないけどね!

 漬物をもぐもぐしながら、マタタビは禁止だなと心に決めつつ俺は楽しい晩餐ばんさんを堪能する。

 ちなみに、メルちゃんとぬこにゃんで今度はが勃発した。途中で何故かクリムさんも参戦してきたよ……お腹いっぱいです!

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