百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-422 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 六章〜『天人五衰』と医学を志す少女〜 scene.2
Act.9-422 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜ビオラ・スクルージ商会戦争〜 六章〜『天人五衰』と医学を志す少女〜 scene.2
<一人称視点・エイリーン=グラリオーサ>
「恐ろしい話でしたわ。……でも、それは圓様の世界のお話ですわよね。わたくし達に関係がない話で本当に良かったですわ。……関係ない話ですわよね?」
数秒の間に嫌な予感を感じたミレーユの顔がボクが首を横に振るのを見ると一気に青褪めた。
「この話は勿論、リズフィーナ様がした質問の答えだけど、あんまり二人に関係のなさそうな話をあれほど時間を取ってまでしたのには当然ながら理由がある。……ボクの前世で因縁があった瀬島奈留美、彼女の配下の一人がそう遠くない未来、シャマシュ教国の百合薗圓達と共にこの世界に召喚される。瀬島奈留美は世界を渡る魔術を持っている。当然ながら、配下がこの世界に辿り着いた時点でこの世界に渡る術を手に入れていると考えた方が自然だ。そして、瀬島奈留美と不楽本座――四之宮愛凪が密かにコンタクトを取ったという情報を得ていた。想定される最悪の状況は、四之宮愛凪が『天人五衰』の仲間達と共に瀬島奈留美の手を借りてこの世界に来るというものだけど、その可能性を否定してしまうのはあまりにも楽観的だとボクは思う」
「そういえば、圓様は未来から転生して来たのよね?」
「まあ、召喚されたシャマシュ教国が鎖国していたから得られる情報は限られていたんだけどねぇ。……そして、ボクはあのスタート地点をできるだけ変えないように規定の時期までシャマシュ教国には手を出さないつもりでいる。つまり……」
「仮に『天人五衰』がこの世界に来ても手を打たないということですの!?」
「まあ、打つにしたって瀬島奈留美は巧妙に動く筈だから、その瀬島奈留美と行動を共にする『天人五衰』を見つけるのは困難だけどねぇ。だからもういっそ、『這い寄る混沌の蛇』と合流してもらって、そこで纏めてぶっ潰す方が最短なんじゃないかと考えているよ。どちらにしろ、連中との敵対は避けられない。虚像の地球で戦うか、ユーニファイドで戦うかという程度の些細な違いだよ」
まあ、唯一ユーニファイドで戦う場合に懸念事項があるとすれば、『這い寄る混沌の蛇』と『天人五衰』が組むことによって生じる想定できない化学反応だけど、これは考えても致し方ないこと。どちらにしろ、ボク達に状況を変える手段が乏しいから仕方ないよねぇ。
ミレーユは「変なことに巻き込まないで欲しいですわ」って顔をしているけど……その頃にはペドレリーア大陸の『這い寄る混沌の蛇』は壊滅しているだろうし、直接対決をする機会はないと思うんだけどなぁ。まあ、それ言っちゃうと緊張感が少し無くなるし、秘密にしておこうそうしよう。
◆
<三人称全知視点>
「花の楽園」でのお茶会から数日後、生徒会の執務を終えたミレーユは成り行きでリズフィーナと共に女子寮に戻ることになった。
ちなみに、ミラーナとライネの姿はない。
生徒会のメンバーではないミラーナは授業が終わると女子寮に戻っている。
ライネはミラーナの侍女にフーシャがついているためミレーユと行動をしても問題ないのだが、一昨日から毎日夕刻に一時間程度行われることになったルクシアの茸学講義をミレーユが万全の状態で受けられるように、小腹を満たしつつ糖分を適度に補給できるティータイムの準備を整えるべく先に女子寮に戻っていた。
フィールドワークと並行し、セントピュセル学院に転移して行われているルクシアの茸学講義はなかなかに興味深い内容で、更にミレーユが飽きないようにと工夫が凝らされているため、あまり勉強が得意ではないミレーユもかなり気に入っている。
そのおかげか少しずつ茸に関する知識も増え、自称茸博士から茸通に昇格しつつあった……まあ、始めたばかりのためまだまだ知識は浅いのだが。
ちなみに、ルクシアは一つ一つの茸の説明の前にそもそも茸とは何かという点から講義を始めたため、ミレーユは茸類――つまり、菌類と細菌類、ウィルスが一体どのように違うのかを説明できるようになっている。……茸の知識を増やす前に本筋には関係のない知識を学んでしまったミレーユだった。
余談であるが、菌類は菌糸で養分を吸収して生活して胞子で仲間を増やす、細菌類は生物の死骸などから養分を吸収して生活し、分裂によって仲間を増やす、ウィルスは内部に
「あら、ミレーユさん。楽しそうね」
「えぇ、実はルクシア殿下から茸に関する講義を受けておりますの。なかなか興味深いお話が多いですわ。例えば、味噌と呼ばれる発酵食品を作る際に使われる麹カビ……アスペルギルス属の菌類は生物的には茸と近いそうですの。知れば知るほど、茸がより一層、神秘的なものに思えてきますわ」
自分の親友が変な方向に走った挙句、変な信仰を始めてしまうのではないかと少しだけ心配になるリズフィーナ。
ちなみに、ミレーユの脳内ではデフォルメされたアスペルギルス・オリゼーが仲間達と共に「醸すぞー」と言っている光景が浮かんでいるのでかなり末期である。……茸から離れていっているのは気のせいだろうか?
楽しい講義を前にるんるん気分のミレーユ。そんなミレーユの楽しい気分に冷水を浴びせかけるようなピンチが迫っていた。
「あら……? あれは?」
茸……というか、菌類に関する話をしてリズフィーナから若干引かれていたミレーユは、廊下の一角でそれを見つけた。
新入生と思しき少女が、複数人の上級生に囲まれていたのだ。
上級生の一人が少女の肩を押す。少女は抵抗することすらなく、そのままへたり込んで俯いてしまった。
そんな彼女に口々に罵りの言葉を吐く周囲の者達。
そんな光景を見たミレーユの心は一気に夢現の茸の世界から引き戻され、現実に叩きつけられた。
危機意識の高いミレーユはささっと、いじめている生徒に視線を動かす。リズフィーナの前に無法を犯す輩が帝国の貴族ではないことを確認して一先ず安堵。しかし、それでもこの状況を放置すれば、リズフィーナのミレーユへの信用は一気に失墜することになるだろう。
ここで僅かでも怯み、弱味を見せてはミレーユの優位な状況に転じさせることはできない。基本波に逆らわないイエスマンの水母姫なミレーユだが、圓の姿を脳裏にイメージして毅然とした態度で虐めを行っていた者達に歩み寄った。
「こらこら、いけませんわね。弱き者を虐めるような真似をしては……」
「なんだと? 余計な口を……あっ……」
虐めを行っていた少年の一人の口から発せられた攻撃的な言葉は、途中で止まった。
相手が決して逆らってはいけない存在であるとすぐに察したからだ。
「みっ、ミレーユ姫殿下、それに、リズフィーナ様!」
「いけませんわよ。新入生を虐めるだなんて、この学校の生徒に相応しくありませんわ」
「で、ですが、こいつは我が国の平民で……この高貴なるセントピュセル学院に通えること自体が間違いといいますか……」
ミレーユの周りにもフィリィスなど平民出身の生徒がいる。その言葉は彼女達のことまで否定するものだったが、その生徒は全くそのことに気づいていないようだった。
……まあ、今回、無駄な言い訳をする生徒にアクションを起こしたのはリズフィーナだったのだが。
静かに、僅かに覇王の霸気の黒い稲妻をパチパチと生じさせながらリズフィーナは生徒達に迫った。その顔には纏う鋭いオーラとは対照的な、とても穏やかで優しい笑みが浮かんでいた。
「ミレーユ生徒会長は、そういうことはお嫌いよ? 勿論、私もだけど。どこの国の者であよろうともこのように大勢で弱い者いじめをすることを許さないわ。ね、ミレーユさん?」
「え……ええ、そうですわ」
有無を言わさない笑顔のリズフィーナの圧力に一瞬「ひぃぃ」とビビった
「国の別など関係のないこと。そのような非道を見過ごすことなどできませんわ」
ミレーユの睨みなどリズフィーナの笑顔に比べて欠片も怖くは無かったが、苛めっ子達は、哀れなほど震え上がった。……虐める側と虐められる側が逆転しているのかと錯覚するほどである。
大者らしからぬ普段の態度からついつい忘れそうになるが、ミレーユはセントピュセルの権力の頂点にして、大国の姫君である。しかも、その後ろには聖女リズフィーナが控えている。
このセントピュセル学院に通うのであれば、絶対に睨まれてはいけない人間の筆頭なのである。……まあ、それよりもエイリーン、エルシー姉妹に睨まれた方がもっと厄介なことになるのだが。
「まぁでも、過ちは正せば良いだけですわ。貴方達、二度と彼女に無礼を働いてはいけませんわ。貴族であるならば貴族らしく、誇り高く生きるべきですわ。弱者を虐げるなどという見苦しいことをしてはならない……その力をもって、寧ろ弱き者を助けるべきですわ。……そうですわね。貴方達、この子と同国人なのでしたら、この子を守りなさい」
「……へっ?」
「この子が、今後虐められていることが分かったら、貴方達に関係があろうとなかろうと許しませんわ。陰でやろうとしても無駄なこと、わたくしの情報網を甘く見ないことですわ」
調子に乗ってレーユはふと悪戯心を起こして、リズフィーナの真似をしてにっこり微笑んで見せた。……流石に圓の真似はできないミレーユである。
しかし、効果は覿面。苛めっ子達は「ひぇぇ」と悲鳴を上げて逃げ去ってしまった。
(……笑顔も時には脅しに使えるのですわね。まあ、でも一番怖いのは圓様ですわ。あの方に目を向けられると何だか全てを見透かされたようで怖くなるんですわよね。……流石にあれは真似できないものかしら?)
などと思いつつ、ミレーユは尻餅をついている少女を助け起こした。
「あなた、大丈夫ですの?」
「あ……あっ、あの、ありがとうございます。わ、私なんかのことをどうして……」
慌てふためく少女に、ミレーユは嫣然(のつもり)と笑みを浮かべた。
「別に、わたくしは当たり前のことをしたまでのことですわ」
実際はリズフィーナの圧に負けただけなのだが、そんな素振りは微塵も見せないミレーユに少女は何度もお礼を言って去っていく。
まさか、この少女がスクルージ商会とビオラ商会合同会社の戦いの鍵となるとは、そして、ほとんど無関係だったミレーユを戦いの中心へと追い詰めていくなどとは、この時のミレーユは微塵も考えていなかった。
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