Act.9-127 フルレイド『大穴の果てへの参道』 一日目 scene.1

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


 レイドに向けた準備が全て整ったところで、ボクはアイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロを転移させた屋敷に転移した。

 この場所はかつてエイフィリプ達を調教した屋敷……とくれば、これから何をするか分かったんじゃないかな?


 この屋敷は諜報部隊フルール・ド・アンブラルの拠点の一つとなっている。メインの拠点はラピスラズリ邸の地下にあるんだけど、ここを利用する人もそこそこいるんだよねぇ。

 実は諜報部隊フルール・ド・アンブラルの資料を保管する倉庫の役割を果たしている場所だから情報を調べに来たり、逆に任務の報告書をファイリングした資料を片付けに来たり、任務についている人は任務中に最低でも一度はこの場所を訪れることになる。


 屋敷は施錠されていて脱出は不可能。例え、鍵を壊したとしても場所が分からないから帰国はできない。だから多少は放置しておいても大丈夫と踏んでいたんだけど、どうやら屋敷にファイルを置きに来ていたジェルメーヌが四人の見張りをしてくれていたらしい。……何だか申し訳なかったねぇ。


「突然転送されてきて驚きました。……ヴァンヤール森国? の元老だと名乗って解放しろ! とか、穢らわしい人間め! とか、言われたのでシメておきましたわ」


 確かに元老達は大人しくなっているねぇ。子供な見た目のボクが来ても怯えが消えないっていうのは多分相当だと思う。……子供だと舐めて掛かって調子を取り戻すことはあるけど、何も知らないのにローザ姿のボクを見て怯えるって経験は今まで無かったし。


「ローザ様がアネモネ様と同一人物であることは説明しておきました」


「ああ、だから舐めて掛かってこないんだねぇ」


「しかし、まさかエルフでも老人になるのは驚きでしたわ。人間基準ではかなりお年を召されているエイミーン様も若々しい見た目ですし」


「エルフ族は美形が多い上に外見の成長……老いが遅いからねぇ。エルフ族が美と知識の種族と言われるのは、老いがゆっくりなことと、長い時を生きることで知識が堆積することに由来するんだよ。……でも、生物である以上は歳も取る。この元老達は実際に数千年の時を生きてきた。だからこそ、数百歳でも若造と言われるエルフ族で元老なんてやれているんだろうけど……ただ老いると意固地になりやすく、応用力が低下するのは人間に留まらず、エルフ、ドワーフ、獣人族、海棲族、魔族にも言えることだからねぇ。長い時を生きてきて、人間の迫害を受け続けてきた。迫害される同族を数多く見てきた……だからボク達がやってきたことに強い反発心を抱いたのは分かるけど、半分以上は自分の利権を守るためだったよねぇ? 安心しなよ、多種族同盟に入ったのだから、今後は人間、エルフ、多種族――全ての種族が平等に暮らせるようになるし、もし、万が一にもヴァンヤール森国のエルフ達を差別をしよう、奴隷に落とそうなんて考える者が現れたなら条約を理由に多種族同盟がヴァンヤール森国の味方として参戦して徹底的に叩き潰す。……ただ、正直君達は邪魔なんだよねぇ。女王陛下にとっても、ヴァンヤール森国にとっても。あのままいけば、ヴァンヤール森国と多種族同盟による戦争は避けられないものになっていた。こういうこと、これまでもあったんじゃないかな? 女王陛下の独裁を防ぐ、その意味は分かるけど、君達の独裁になっていたら意味がないと思うんだよねぇ。……だから、元老達には今日限りで歴史から消えてもらおうと思う」


「まさか、儂らを殺すつもりなのか!? 多種族同盟にとって儂らが邪魔だから!!」


「邪魔ねぇ……ああ、確かに邪魔だよ。ボクら多種族同盟だけでなく、ヴァンヤール森国にとってもねぇ。そして、もう一つ――殺しはしないよ。ただ、アイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロ、四人には死んでもらうけどねぇ」


 怯える(殺さないのに殺すということの矛盾に気づかないくらい気が動転しているみたいだねぇ)アイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロを放置して、とりあえず四人の書き換え先のデータを作ることにした。

 この書き換えデータを使って『分身再生成の水薬リ・キャラメイク・ポーション』を飲ませ、四人の姿を変える……まあ、いつものパターンだねぇ。


 ベースとなるのはエルフ族のデータ……つまり、アイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロの四人のもの。ただし、性別は女性に変えて年齢も大幅に若返りさせているけどねぇ。

 そこに、究極調整体アルティメット・ドリーカドモンとカルファから抽出した魔法使いのデータを融合する。……魔法使いとエルフの見た目って似ているからねぇ。目がオッドアイという形質だけはエルフと違うけど。


 魔法使いの魔法は『スターチス・レコード』の魔法と同じく魔力を使用するものだけど、そのメカニズムは全く違う。その両方を使えるというのはかなりのアドバンテージになると思うんだけどねぇ。

 四人に『分身再生成の水薬リ・キャラメイク・ポーション』を無理矢理飲ませてデータを書き換える。四人が生まれ変わった自分の姿に困惑する中、ボクは無属性魔法「夢幻開闢ドリーム・ワールド」を発動して四人を夢の世界に誘った。


 明日からレイドだから長い時間をかけて丁寧に洗脳……じゃなかった、女の子に染めることはできない。……まあ、戻ってきてからやるって手もあるんだけど。

 そこで、「夢幻開闢ドリーム・ワールド」で夢の世界に閉じ込め、一ヶ月の時間を掛けてゆっくりと染めていくことにした。夢から醒めれば、自分が女性として生まれ変わったことを心の底から喜べる正確に生まれ変わっていることだろう。


 割と男尊女卑の思想を持っていて、女王のいないところで随分と馬鹿にしていたようだから、追体験する素材そのものに困ることは無かったのだけど、より効果を求める際にやっぱり必要かな? ということで、アルマの記憶を追加。……このエイフィリプの黒歴史ってかなり洗脳……じゃなかった、女に染め上げる際には使い勝手がいいものなんだよねぇ。

 鞭が強力であればあるほど、飴がより魅力的になる。このギャップが丁度冷ますことで一気に出汁が染み込むように、淑女として必要な精神を急速に育てていく力となるんだ。


 流石に一ヶ月も飲まず食わすという訳にはいかないので、点滴を使って強制的に栄養を流し込む。替えの点滴も用意しておいて、ジェルメーヌに頼んで諜報部隊フルール・ド・アンブラルの誰かに点滴を定期的に変える仕事をするように依頼した。


「上手く染まるといいですね」


「なんだか嬉しそうだねぇ」


「後輩ができるのは嬉しいですから。目が覚めたらいっぱい可愛がってあげたいと思いますわ」


 頬を僅かに染めてとても嬉しそうに可憐な微笑みを浮かべるジェルメーヌはかつてエイフィリプという男尊女卑の激しい貴族令息だったとは思えないくらい可愛い。

 ……しかし、ジェルメーヌになったばかりの頃は百合っ気が無かったけど、徐々に百合派に染まっていっているみたいだねぇ。……ギルベルタの影響、ではなさそうだし、自然に染まっていったのかな? まあ、悪いことでは全然ないどころか、寧ろいい変化だと思うけど。……ギルベルタほど極端にならなければ。


 アイウォス、エドヴォット、アオファル、クェートロへの処置が全て完了したところで、この場をジェルメーヌに任せ、ボクは『管理者権限・全移動』を使ってビオラの本社に移動した。



<一人称視点・リーリエ>


 ――レイド挑戦当日、ボクの姿はヴァンヤール森国の広場にあった。


 大規模戦闘レイドというこの世界では馴染みのない長期戦に挑むに際し、地域住民達の理解を得るのは重要だ。

 多種族同盟というヴァンヤール森国の外部から大勢の戦力が来訪するとなれば、大きなストレスを与えることになるだろうし、いくらジャイアントホール内だけで多種族同盟側の面々が動くとしても完全に互いに不干渉で……というのは難しいと思う。彼らが何をしに来たのか分からないままでは不安を煽るだけだ。そうならないように事前に説明を行い、ヴァンヤール森国の住民達の理解を得る必要がある。


 それに今後、ヴァンヤール森国は緑霊の森の傘下に入る形で多種族同盟――外界と関わっていくことになる。未来を見据えると、これから約一ヶ月間でヴァンヤール森国の外界、特に人間に対する偏見を緩和しておきたい。

 ジャイアントホール残留組には、食事などを通してヴァンヤール森国の住民達と交流することができるようにできる限り門戸を開いて欲しいとお願いしている。強制するつもりはないけど、もし、このレイドを切っ掛けに外界に、ヴァンヤール森国以外の世界に興味を持ってくれたならありがたい。


 リーリエの姿で壇上に上がった結果、魔族が攻めてきたと勘違いされて少々騒ぎになったけど、ボクが魔族とは別系統の吸血姫であることを説明して騒ぎを鎮静化させたところで早速本題に入ることにした。

 得体の知れないボクの言葉にはヴァンヤール森国の民を納得させるだけの説得力がない。そこで、リーティアナとアレクサンドラに同席してもらい、説得力を高めている。ちなみに、他のレイドパーティメンバーはジャイアントホールのレイドダンジョンの入り口付近で待機、ジャイアントホール残留組も用意した三つの拠点・・・・・で待機してもらっている。


「改めまして、多種族同盟加盟国ビオラ=マラキア商主黒とクレセントムーン聖皇国で君主を務めております、リーリエと申します。では、誤解も解けたところで早速今回の大規模作戦の説明をさせて頂きます。まず、ジャイアントホールに出現した大規模な魔物の群、その正体はジャイアントホールの最深部に出現したレイドゾーンから漏れ出た瘴気によって出現した魔物達です。レイドゾーンには特殊な封印が施されており、挑戦可能な最大人数は三十二人となります。内部にはジャイアントホールに出現する魔物とは比較にならないほど強力な魔物が犇めいており、現時点でのヴァンヤール森国の兵力では突破は確実に不可能。正直、我々多種族同盟が有する戦力でも攻略が可能だとは断言はできません。……前例がないものなので、どれほどの期間が掛かるかも分かりません。一応、一ヶ月程度を目安としていますが、場合によってはもう少し掛かる可能性も逆に短くなる可能性もあります。しばらく多種族同盟関係者がジャイアントホールに滞在しますが、ヴァンヤール森国の民に対して危害を加えることはありませんのでご安心ください。ただ、一ヶ月ほど多少騒がしくなると思うのでよろしくお願いします」

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