百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.9-126 フルレイドの仲間を求めて scene.2
Act.9-126 フルレイドの仲間を求めて scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ラルに連絡を入れてから久しぶりに極夜の黒狼のアジトに向かったのだけど、いつもはロケットダッシュで突撃して甘えてくるアーロンの姿が今日に限ってはなかった。
「あれ? 今日はアーロン君、いないのかな?」
今回のレイドの件、ラル達の高いチーム力を是非活かしてもらいたいと思っていたんだけど、唯一ネックになるのがアーロンの存在だった。
彼はまだ十歳……ボク達の世界で言うと小学四年生や五年生に当たる。成長はしているけど、まだまだ子供らしいところが大きいからねぇ。流石に一人はお世話役としてアジトに残らなければならないという話になる。……一ヶ月の遠征は難しいかもしれないけど、そこをどうにか……と相談をするつもりだったんだけどねぇ。
「久しぶりね、圓さん。……実は数日前にアーロンが姿を消してしまったのよ。こんな置き手紙を残して」
少し暗い表情のラルが手渡してくれた手紙には「少し修行してきます。必ず戻ってくるので探さないでください」と子供らしい文字で書かれていた。
……もうすぐ魔法学園に入学することになるし、乙女ゲームの設定(緑と青を足したターコイズブルーの奇抜な髪の毛と軽薄そうな笑顔が印象的な攻略対象)を思い出すといつまでも子供のままじゃないとは思うけど、まさか出奔して修行に……なんてことになっているとは思いもよらなかったよ。
まあ、あの乙女ゲームのアーロンは極夜の黒狼という組織で揉まれる中で成長した姿だった。暗殺者として強くならなければ組織から捨てられるかもしれない、そうした恐怖が彼を大人へと成長させてしまった……いや、いつまでも子供の中ではいられなかったと言い換えるべきかもしれない。
だけど、彼の運命は変わった。極夜の黒狼の暴走は止まり、ラルが手綱を取り戻した。その後はビオラの警備組織として、まあ、グレーラインではあるけど真っ当な仕事をしている。アーロンも暗殺者になる必要はなくなり、ラル達家族の愛情を一心に浴びて伸び伸びと成長することができた筈だ。既に乙女ゲームの攻略対象アーロンと、この世界のアーロンは完全に別人と言えるかもしれない。それだけ、境遇が人に与える影響は大きいということだろう。
しかし、今回の件はちょっと気になるねぇ。修行のために出奔……っていうのはどうもこの世界のアーロンのイメージに合わないんだよ。園遊会の前に顔を合わせたのが多分最後だけど、その時も子供らしい天真爛漫な笑顔でロケットダッシュで突撃して甘えてきた。
……男子三日会わざれば刮目して見よ、とは言うけどさぁ、流石にちょっと予想外というか、そんな簡単に人間って変わるっけ?
「……実はアーロンももうすぐ学園に入学するし、色々と知っておいた方がいいと思ってこの世界の秘密をアーロンに話したのよ。……丁度一週間前だったわ。その時はとても驚いていたけど、『やっぱり、ローザお姉ちゃんって凄いなぁ』って嬉しそうな顔をしていて……姿を消す気配なんて全く無かったわ」
アーロンにはいずれ全てを打ち明けるつもりだった。ボクがそもそもの元凶だって知ったら、乙女ゲームに登場する自分が背景を持っていたのか、それを知ったらボクのことをあまり良く思わなくなるかも知れないと正直不安だったんだけど、どうやらそういったことは無かったみたいだねぇ。
でも、恐らくラルがアーロンにこの世界の真実とかボクの前世とか、色々と秘密を打ち明けたことは間違いなく家出の切っ掛けになったと思う。変わらなければならない、そう思ったのかもしれない……個人的にはアーロンには変わって欲しくないんだけどねぇ。陽だまりのような彼には陽だまりのような性格のままでいて欲しい……これは単なるボクのエゴか。
まあ、考えたところで実行に移すのは難しい。となると、誰かが共犯者になっていると思う。……あっ、今目を逸らしたカルメナ、貴様が犯人だな。
カルメナもアインスも考えがあっての行動だろうし、過干渉をするつもりはない。帰ってくると置き手紙をして姿を消したんだから、きっと帰ってくる。ボク達がすべきことは彼が帰ってくると信じて待つことだけじゃないかな?
「そういえば、今日はどんな用事だったんだい?」
電話ではとりあえず時間を作って欲しいとしか言っていないのでラル達にレイドの件について説明した。……主要メンバー全員揃っていて本当に良かった(アーロン以外)。
「なるほど、レイドね。圓さんにとっても未知なるクエスト、そこに協力を打診されるのはとても光栄なことだわ。……一ヶ月ね、このアジトのことはモレッティさんに相談すれば人を派遣して維持管理をしてもらえると思うし、いざとなれば過去に遡って戻ってくることもできる。アーロンのことは心配だけど、全く探すあてもないし、本人が初めて修行したいって言って出て行ったんだから過保護に追いかけて邪魔をするのも違うと思うわ。私達全員、謹んでレイドの依頼、受けさせて頂きます」
……まあ、探すあてならもう一度目を逸らした人が知っていると思うけどねぇ。
少し不安なことはあるものの、ラル、ペストーラ、スピネル、チャールズ、ボルトス、カルメナのレイドへの参加は決まり、レイド挑戦の件自体は当初予定していた通りになった。
後は明日、実際にレイドに挑むだけだ。
◆
<一人称視点・アーロン=ジュビルッツ>
フォルトナ王国のサレム第二王子に雇われ、アインス第三王子やブライトネス王国の王子達を殺害するためにブライトネス王国に潜入した暗殺者、それが乙女ゲーム『スターチス・レコード』に登場する僕なのだそうだ。
そしてそれは、来るかもしれない未来だった。極夜の黒狼もかつては人攫いなどの犯罪に手を染めていた……その未来が来なかったのはローザお姉ちゃんが頑張ったから。フォルトナ王国の王子達が笑っていられるのも、僕が普通の子供と同じように幸せに暮らすことができているのもローザお姉ちゃんのおかげだった。
その話を母さんから聞いた時、僕はやっぱりローザお姉ちゃんは凄いなぁ、って思った。
確かに「知っていた」ということは大きいかもしれない。でも、知っていても目を背けることだってできた筈だ。
僕達には自分達の境遇が天から与えられたもの、動かせないものだと理解して――諦めて生きているというところが確かにある。それと同時に、未来は無数に存在し、努力次第で変えられると信じて未来に向かって生き続けている。
もし、それが全て決まっているとしたら、努力次第で変えられるとしても、その未来を知らなければ変えられない。……シナリオ、とローザお姉ちゃんが呼んでいるものはその人に与えられた運命そのもの……変えることはできるけど、大半はその運命に縛られて生きるしかない。
そのシナリオを強いたのはローザお姉ちゃん。……例え、お姉ちゃんにそんなつもりは無かったとしても、きっとローザお姉ちゃんを恨む人は沢山いると思う。
それでも、自分が怒りを向けられることを承知でずっと頑張ってきた。その頑張りがこの世界を少しずつ変えていった。それは、とてもとても、凄いことなんだと思う。
子供の頃、僕は漠然とお姉ちゃんのことが好きだった。大好きな大好きなお姉ちゃん。憧れ、家族に向けるような親愛の感情、その気持ちがいつしか恋心に変わっていった。……それを自覚したのはつい最近。僕はいつからお姉ちゃんのことを「好き」になったのかは分からない。でも、いつかお姉ちゃんと結ばれたいと思うようになった。……それが無謀な願いであることも薄々承知はしているんだけど。
母さんから話を聞いて、僕はいつまでもお姉ちゃんに甘える不甲斐ない弟のままでいる訳にはいかないと強く思った。僕は変わらないといけない。
お姉ちゃんを守る……例え、それが難しいとしても、せめて背中を預けてもらえるくらいには強くなりたいと。
お姉ちゃんに相応しい人間になりたい。そう考えた僕はカルメナさんに相談した。
強くなりたい……そのための方法を一緒に考えて欲しいとお願いすると、お酒を飲んで気分が良くなっていたカルメナさんは「お姐さんに任せておきなさい!」と引き受けてくれた。
置き手紙を残し、僕はフォルトナ王国行きの馬車に乗った。フォルトナ王国の辺境の地――そこで僕はラピスラズリ公爵家の次期当主様に修行をつけてもらえることになっている。
◆
馬車に揺られながら、僕はふと、学園に入学してからのことを考えた。
魔法学園……その場所で、ローザお姉ちゃんは主人公と、マリエッタと確実に敵対することになる。
世界は確実に変化している。フォルトナ王国の闇は祓われ、プリムラ姫殿下は立派な姫へと成長し、ソフィス伯爵令嬢は引きこもりを克服した。
ローザお姉ちゃんの頑張りが結実した成果……それを否定するつもりはない。僕もまたローザお姉ちゃんの頑張りのおかげで幸せに暮らすことができた一人だからだ。
でも、全てが変わった世界がマリエッタに及ぼす影響を子供ながらに考えてみると、良いものだけではないのではないかと思えてくる。
もし、彼女を安心させる要素が残っていたらどうだろうか? 乙女ゲームと変わらないものが、魔法学園にあったとしたら? それは、マリエッタの心に小さな安心をもたらすのではないか?
……その安心につけ込み、マリエッタから情報を得てローザお姉ちゃんに流す。ネスト次期公爵様はローザお姉ちゃんに相談せず、秘密裏にそう計画しているみたいだけど、僕は一人よりも二人、そういった役割の人間がいた方がいいと思う。純粋なプリムラ姫殿下にも、お姉ちゃんのことが大好き過ぎるソフィス伯爵令嬢にも、フォルトナの三人の王子達にもできない仕事だ。……あっ、僕のお姉ちゃんへの愛はソフィスさんにも劣るものではないと思うけどね。
修行と並行して乙女ゲームの僕にすこしでも近づけるように努力をしてみるつもりだ。だけど、乙女ゲームの僕に完全に同化してしまうつもりはない。
お姉ちゃんが好きだと言ってくれるのは、きっと、乙女ゲームに出てくる僕じゃなくて、この世界の僕だと思うから。……自意識過剰じゃないといいな?
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