Act.8-83 ペドレリーア大陸探索隊~動 scene.2

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>


 船は順調に目的地に向かって南下中。

 そのまま目的地まで暇を潰そうと思ったんだけど、ほとんどのメンバーがラウンジに用意したティーセットで優雅なお茶会をしてひと時を過ごす中、何故かラインヴェルドが残っていた。


「そういや、お前ってアネモネで行くつもりなのか?」


「……決めてなかったねぇ。アネモネでも別にいいとは思うけど?」


「流石に今のローザじゃ厳しいもんな。俺達は事情を知っているけど、見た目はまだまだ子供だからなぁ」


「……まあ、年齢を時間加速で変化させることもできるっちゃできるけど、あんまり気乗りしないんだよねぇ。ソフィスさん達と一緒に歳をとっていきたいっていうか。……だから聖人の修行もしていないんだけど。……そっか、ローザが二人いればいいのか?」


「ん? 可能なのか?」


「ディランをドネーリーに変えてみた時みたいにデータを保存して、それをアカウント化することは……うん、できそうだねぇ。折角だからシェルロッタの時みたいに究極調整体アルティメット・ドリーカドモンとして再誕させてみたら……うんうん、これでいこう」


 そうと決まれば話は早い。ローザのまま『分身再生成の水薬リ・キャラメイク・ポーション』を飲み、究極調整体アルティメット・ドリーカドモンとしてローザを再誕させる。

 どうせなら色も変えよっかな? ラピスラズリなのにラピスラズリの要素が無かったから、瑠璃色の髪と金色の瞳を持つ乙女ゲーム登場時のローザ的なイメージで。

 ローザを原型として面影は残しつつも、容姿は過不足ない左右対称の完璧なプロポーションで、容貌はぞっとするほど浮世離れして見目麗しく整っており、仄かに漂う妖しい色香が魔性を感じさせるという絶世と表現する他ないものに……うん、これリーリエに匹敵するくらいの美しさになりそう。


 リーリエとカップリングさせたらきっと絵になるだろうなぁ。うん、後で描こう。絶対に描こう。


 そのままついでに装備も作成。


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青薔薇の天上礼装ブルーエンピレオ・ドレス

▶︎ローザ=ラピスラズリのドレスをベースに幻想級の青薔薇のドレスとユニークシリーズの薔薇の礼装を使って強化した独創級の青薔薇のドレス。


スキル:【亜空収納庫】、【ー】、【ー】、【破壊成長】


【管理者鑑定】

分類:『異世界ユーニファイド』アイテム

レアリティ:独創級

付喪神度:0/99,999,999,999【該当者:ローザ/神話級ゴッズ化条件、付喪神度の最大化+装備に認められる】

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 武器は最も手に馴染む幻想級装備の『漆黒魔剣ブラッドリリー』、『白光聖剣ベラドンナリリー』を使うとしよう。

 これで準備万端。


「よし、到着までもう暫く掛かりそうだからアクアとディラン、オルパタータダ陛下とバルトロメオ殿下も呼んできて派手に戦おうか?」


「珍しいなぁ、お前から提案するなんて。最高じゃねぇか!!」



 到着まで残り二十分とのこと。その間にボク、ラインヴェルド、アクア、ディラン、オルパタータダ、バルトロメオは転移して中央フォトロズにある中規模戦闘施設やってきた。

 時空魔法で閉鎖空間を作り出すことで、意図的に時間の流れのズレを発生させている。これで、外での二十分を内部では何時間に引き伸ばすことができる。


「それじゃあ今からリーリエで掛けられるだけ全員にバフをかける。アクア達はボクを本気で殺すつもりで仕掛けてくること。ボクは新しいローザで対抗するからねぇ」


「要するに聖人に至るための修行ってことだな? 全員でローザを殺す気でいけばいいんだろ? 最高の戦いをしようぜ!」


 リーリエにアカウントを切り替えてバフを盛りローザにアカウントを戻すと、すぐにアクアが斬撃を放ってきた。

 いきなり圓式か。飛ばしてくるねぇ。


念動力サイコキネシス


 剣を抜く前に斬撃を浴びせられることが分かっていたボクは、念動力サイコキネシスを使ってアクアを壁まで吹き飛ばす。

 ローザに転生した際に超能力についても問題なく使えるようになったみたいだねぇ。


発火能力パイロキネシス――烈火の太陽」


「はっ、魔法無しでデカイ火球を放つとか、そんなのアリかよ!」


 と言いつつ覇王の霸気を纏わせた剣で炎を両断して見せるラインヴェルド。


「《影軀逆転》」


「【天使之王】――天使化! 天使の加護エンジェル・プレッシング! 【劇毒之王】――劇毒八岐蛇デッドリー・ポイズン・ヒドラ!!」


終焉齎す断魔の紅炎劒プロミネンス・スパタ


結晶騎士軍クリスタル・クルセイダーズ!」


「神聖魔法・滅魔神ハイネスエクソシズム聖領域・ディヴァインフィールド


 壁に飛ばされたアクアも含めた五人が掛かりの総攻撃を浴びたボクは遂に「圧倒的な逆境の中で希望を失わない」という条件を満たして聖人に到達した。

 「起源再成オリジン・リヴァイヴ」と「複写再成バックアップ・リヴァイヴ」で蘇生を果たしたボクは舌舐めずりをした。


「さて、今度はボクがみんなを狩る番だよ」


 この後アクア達を滅茶苦茶ボコボコにした。



 残る時間で調息を行い、羽化登仙を果たして仙人にもなり、準備も整った。

 そしていよいよ目的地のペドレリーア大陸の北端にある港町に降り立つ。


 早速港町(地図によればダイアモンド帝国に恭順している属国、港湾国セントエルモという小国の港町だったらしい)で聞き込みをして地図を売っている店に行き、購入。ちなみに、使用されている通貨は『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』で使われていた貨幣だった……流石に海を越えてまで『スターチス・レコード』の貨幣は使えないか。


「さて、購入したペドレリーア大陸の地図はさっき手渡した地図と寸分違わず一緒だということが分かった。ということで、当初の予定通り班分けして行動を開始したいと思う。先に断っておくと、今回の目的は情報収集――特にこの大陸の現在の情勢を確認することを第一の目的とする。仮に何かが起きていても、無闇に動かないこと。必ずボクに連絡を入れて対応を確認するように」


「ん? 各国に協力を要請するんじゃねぇの?」


「まあ、そうなんだけどねぇ。……ボク達が全てを解決してしまったらよろしくないっていうこともある。ミレーユ・ブラン・ダイアモンド――帝国の深遠なる叡智姫と呼ばれる皇女様だけど、彼女達が奇跡を起こしていくというのが『ダイアモンドプリンセス〜這い寄る蛇の邪教〜』の魅力なんだから、できる限り彼女達の敵は彼女達の手でなんとかしてもらいたいんだ。ただ、条件はかなり悪くなっているからねぇ……『這い寄る混沌の蛇』がゲームの範囲を超えた行動を始めたなら、ボク達が動いてフォローに回るべきだと思う。とりあえず、ボクが判断を下す前に勝手に国の中枢に乗り込んだりしないように。分かったねぇ?」


「……つまらなさそうだなぁ。もっと面白いと思ったんだけど」


「その代わり、ラインヴェルド陛下達は革命の可能性があるプレゲトーン王国に派遣するからそれで勘弁してくれないかな?」


 今がどのタイミングか分からないけど、万が一プレゲトーン王国の革命のタイミングなら暴れられる可能性は十分にあるからねぇ。……本当は平和が一番なんだけど。


 検討の結果、ダイアモンド帝国にはボク、ミスルトウ、プリムヴェール、マグノーリエの四人が、オルレアン教国にはブルーベル、フィーロ、エリッサ、アリーチェの四人が、ライズムーン王国にはアクア、ディラン、ポラリス、ミゲルの四人が、プレゲトーン王国にはラインヴェルド、バルトロメオ、オルパタータダ、ダラス、カルコスの五人が、騎馬連合国にはプルウィア、ネーラ、ヴァルナーの三人を派遣することになった。


 ペドレリーア大陸の共通硬貨をディラン、ブルーベル、カルコス、ヴァルナーに手渡したところでそれぞれのチームが目的地に向かって動き出した。


「さて、ボク達も行こうか?」



<三人称全知視点>


 オルレアン教国にある学院都市セントピュセル。

 ペドレリーア大陸で最高の格式を誇る名門校とされるこの学院都市にあるセントピュセル学院において、稀代の天才と呼ばれた名教授が在籍していた時期がある。


 トーマス・ラングドン――宗教象徴学を得意分野とする宗教学者である。

 無神論者であることを公言して憚らない男でありながら、オルレアン教国で教鞭を取ることができるほど優秀であった彼は二十代から四十歳までセントピュセル学院で教鞭を取った。


 そんな人気教授であったトーマスは四十歳の時、セントピュセル学院の教授職を剥奪され、異端者として異端審問に掛けられることになる。

 切っ掛けは「神とは未熟な世界が成長するまでの間に必要な要素の一つであるが、神という概念と現象の具現化であって世界を安定へと導く要素に過ぎない」という大胆過ぎる仮説の提唱――流石のオルレアン教国も神を歯車のように扱うこの仮説を提唱したトーマスを見逃すことはできず、異端者の処刑に踏み切らざるを得なくなったのだ。


 トーマスはオルレアン教国で聖女と称えられるリズフィーナ・ジャンヌ・オルレアン公爵令嬢(神が統治するという考えのため、代理で政治を行うオルレアン家は公爵を名乗っている。ちなみに、オルレアン家は神の血を僅かに受け継いでいるとされており、それ故に統治者と祭司という特別な立ち位置にいるとされている)の師であり、共に『這い寄る混沌の蛇』と対峙してきた同志だった。


 リズフィーナにとっては大切な師であったが、オルレアン教国の『聖女』としてはトーマスを処刑せざるを得なかった。

 潔癖な性格で正義を重んじ、容赦なく他者を裁くことができる『聖女』であるかつての弟子をトーマスは処刑台で鼻で笑い、処刑台で処刑を執行しようとしていた執行人二人を素手で殺した上で、獰猛に笑った。


「そんなやり方をしていたら、いつか付け込まれることになるだろう。肝に銘じておけ、『聖女』様」


 トーマスは追っ手の近衛騎士達を近衛騎士から奪った武器で次々と撃破し、トーマスの教え子だった生徒のミレニアム・ヴェトラと共に逃走した。

 オルレアン最強と言われる戦闘センスを持つ教授――トーマス。史上最強の背教者とされる彼はオルレアン教国から捕らえることを完全に放棄され、教授職を失ったトーマスは弟子のミレニアムと共にダイアモンド帝国の帝都に移り住み、私立探偵の職に就いて依頼をこなしながら『這い寄る混沌の蛇』に関する情報を集めることになる。

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