百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜
Act.8-78 王女宮での新生活と行儀見習いの貴族令嬢達 scene.1
Act.8-78 王女宮での新生活と行儀見習いの貴族令嬢達 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ>
プリムラが着替えを終えた時間を見計らい、ボクはシェルロッタと共にプリムラの部屋に向かった。
ゲームではぽっちゃり……というかデブスに成長する筈のプリムラだけど、前王女宮筆頭侍女のペチュニアの努力もあり、可憐で美しいお姫様に成長している。
プリムラが太ってしまう切っ掛けとなる「自分が本当に愛されていないんじゃないか」っていう悩みによる過食もペチュニアによって解決されているみたいだし……うん、ボクが王女宮筆頭侍女としてプリムラから信頼されるようになる切っ掛けになりそうなものがほとんど残っていないんだけど?
「お初にお目に掛かります。本日より、王女宮筆頭侍女を勤めさせて頂くことになりました、ローザ=ラピスラズリと申します」
「確か、先日のお誕生日会でお会いしたわよね。ラピスラズリ公爵家とは関わりがほとんどなかったから、お誕生日会に呼ばれてプリムラびっくりしちゃった」
「……その節は大変申し訳ございませんでした。父が誕生日会に王族の皆様も招待したいと招待状を送ってしまったようでして、ご不快な気分になられたのでしたら、謹んで謝罪させて頂きます」
「謝らなくていいのよ! あの時の演奏、とても美しい音色だったわ。今度、演奏してくださらないかしら?」
「姫さまのお望みとあらば、謹んで演奏をさせて頂きます」
……あんまり会話が弾まず、とてもつまらなさそうなプリムラ。
本当に申し訳ないと思っているけど……距離感を掴むのが難しいんだよ。
「……ペチュニアお婆ちゃんの後任にどんな人が来てくれるのか、実は不安だったの。お父様は信頼できる親友がようやくプリムラの侍女になってくれるって楽しそうに言っていたんだけど……同い年の侍女が来てくれて私は嬉しいんだけど、でもよそよそしくて……ごめんなさい、私、何を言っているだろう」
「……大変申し訳ございません。私も、距離感を測りかねているのです。……国王陛下からは、私のことを親友などと大変身に余る表現を頂けるような存在として認識して頂けていることを嬉しく思っています。その恩に報いたいという気持ちはございますが、それ以上にこれほどお美しく可愛らしい姫さまに仕えられる機会を得られたこと、とても嬉しく思っております」
「……それはお世辞なのかしら? プリムラがお姫様だから可愛いって言ってくれるの?」
「いえ、プリムラ様は完全無欠最強無敵の超絶美少女でございますわ!!」
「……ローザお嬢様、急に叫ばれますとプリムラ様が驚かれてしまいます」
「申し訳ございません。……実際、姫さまは大変可愛らしくお美しい方でございますわ。これはお世辞でもなんでもない事実です。しかし、この美しさというのはただ外見が美しいというだけではございません。美しさというものは内面を伴ってこそのものだと思うのです。……陛下から姫さまのお話は様々お聞かせて頂いています。あの御方が意外にも娘に対してどう接するべきか分からない困ったお方だと知った時は流石に驚いてしまいましたが。……姫さまは聡明だとお聞きしております。その聡明さは時として様々なことを知ってしまい、困惑してしまったり傷ついてしまうこともあったのではありませんか? 側妃様から向けられる冷たい視線、実の子にどう接したらいいのか分からない陛下、側妃様から散々なことを言われた姫さまにどう言葉をかけたらいいか分からない王子殿下……この孤立無縁な王宮という場所で、姫さまは決して曲がることなく美しく成長なさりました。勿論、それはペチュニア様が居たからこそということもあるでしょうが、姫さま自身が強く心をお持ちになってこれまで成長してきたからでもあるのですわ。……ペチュニア様の代わりになれるとは思いませんし、代わりになろうとも私は思いません。ペチュニア様と姫さまの思い出は姫さまにとって大切なものだと思いますから。この王女宮で、また新しい思い出を沢山作っていけたらな、と私は思っていますわ」
その後、プリムラにシェルロッタのことを紹介した後、ボクとシェルロッタは一旦プリムラの部屋を退室した。
この後新しい侍女達との顔合わせの後、正式に王女宮筆頭侍女としての仕事をしていくことになる。
「やっぱり姫さま、お綺麗だったねぇ」
「楽しそうですね、ローザお嬢様」
「……やっぱり、プリムラ様は幸せになるべきだと思う。こうして対面して、これまで健気に頑張ってこれられたことを改めて知って、だからこそ本当に幸せになるべきだと思う。それは、シェルロッタ、君もだよ。必ず、ボクは君達のことを幸せにするからねぇ」
これはボクの贖罪。どこまでも身勝手で自己満足だとしても、もうボクにはこれしか方法が思いつかない。
王女宮筆頭侍女となりプリムラの隣にシェルロッタがいる――それこそが、母を知らないプリムラと、大切な姉を亡くしたシェルロッタにとっての本当の幸いなんだ。
王女宮筆頭侍女に真に相応しいのはボクじゃない――それを認めさせるために、ボクは王女宮筆頭侍女になったんだよ。
◆
王女宮には侍女達が一堂に会することができる談話室のような部屋も用意されている。
今回の初顔合わせはその部屋で行うことになっていた。
ちなみに、部屋持ちになれる侍女は筆頭侍女より上に限定されていて、侍女やメイドは王城敷地内の端にある使用人寮で暮らしている。
……どこぞの陛下が王城の全改装……リニューアルを御所望なされたので、この使用人寮もどこかで荷物の運び出しをお願いすることになるんじゃないかな? 老朽化も相当進んでいるみたいだし。
髪をひっつめ髪に結い上げ、「E.DEVISE」の眼鏡をかけた侍女スタイルでシェルロッタと共に談話室に向かうと、既に侍女達が集まっていた。
「大変遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
「いえ、私達もついさっき到着したばかりですわ。先日はお誕生日会にお呼びくださり、ありがとうございます。改めまして、スカーレット=ヴァーミリオンですわ」
スカーレットが席を立ってカーテシーすると、それに倣って他の令嬢達もカーテシーをする……一応、貴族の爵位的にはここでは一番上だけど、別にわざわざ礼をする必要はないよねぇ?
「皆様ありがとうございます。しかし、そこまでなさる必要はありませんわ。確かに貴族位というものは社交界では重視されます。一般的に貴族の子女も爵位で位置付けられますが、叙爵がされた当主以外は実際のところ、貴族の子女というだけです。私も皆様も同格であると私は考えております。……一応、王女宮筆頭侍女の地位を頂きましたので、今後しばらくは皆様の上司となりますが、私も皆様と同じように本日から侍女となった身です。至らぬ点も多々あると思いますが、よろしくお願いいたします」
「あの……ローザ様に限って至らないということはないと思いますが」
「ソフィス様、私はかなり特殊な類の令嬢だと自認していますが、対外的にはただの公爵令嬢なのです。それに、完璧というものはありませんわ。実際に王女宮筆頭侍女として仕事をすることはこれが初めてなのですから。……ところでソフィス様、皆様とは仲良くできそうですか?」
「はい! スカーレット様も皆様も優しくて良かったです。……実は、この容姿なので気味悪がられたり嫌われるかもと不安だったのですが」
「老人のように白い髪に血のように赤い瞳だっけ? そんなくだらない差別をする人は見る目がないんですわ。ソフィス様は美少女ですから胸を張ってください」
「ローザ様とソフィス様は仲がいいんだね」
「ジャンヌ=スフォルツァード様とフィネオ=ブラン様には負けてしまいますわ。お二人は幼馴染でとても仲が良いとお聞きしておりますわ。それにお二人はやはり絵になる美しさですから社交界にファンクラブのようなものもあるとか……ところで、そのファンクラブにはどのように入会すれば良いのでしょうか?」
「さあ、そういうものがあるのですか? ……なんだか恥ずかしいですわね」
「ローザお嬢様、暴走はそれくらいで」
「……せめてお二人のお姿を絵にさせてもらえないか聞いてからでもいいかな?」
「……はぁ、お嬢様も本当に相変わらずですね」
「ということで、ジャンヌ様とフィネオ様のお姿を絵にさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「私はいいけど……フィネオは大丈夫?」
「そうですね、わたくしも特に異論はありませんわ」
「ジャンヌ様、フィネオ様、ローザ様の画力は大変素晴らしいのできっとお二人の美しさを余すことなく表現してくださると思いますわ!」
「ソフィス様は本当にローザ様のことが大好きなんだね」
「はい、ローザ様は私の……大好きな人ですから」
頬を真っ赤に染めるソフィスは可愛いんだけど……それ、好きの意味違ってない?
「紹介が遅くなってすみません。こちらは私の専属侍女のシェルロッタ=エメリーナさんです。皆様は公爵令嬢が行儀見習いの際に駄々を捏ねて自分のメイドを連れて来たと思われるでしょうし、実際にそう誤解してくださった方がありがたいということもありますのでわざわざ訂正するつもりはありません。しかし、やはり皆様には彼女を行儀見習いに連れてきた本当の理由を説明させて頂きたいと思っています。ちなみに、彼女は私のメイドとしてではなく、侍女の一人として王女宮に仕えることになっておりますので、私の身の回りのお世話もしませんし、他の侍女と共に業務にあたることになります」
「それはつまり、ローザ様が強引に自分のメイドを連れて来たと、対外的にはそう思わせておきたいということなのですか?」
「まあ、実際そういったところもあるので安易に否定もできないのですけどね。このシェルロッタ様の派遣は国王陛下との協議の上で決定されています。では、その理由について皆様にとっては復習の内容になると思いますが、この国の貴族位について確認しながら説明させて頂きたいと思います」
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