前のエピソード――Act.8-54　誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第三部　scene.2

<三人称全知視点>

　トーナメント決勝戦――Delphiniumパーティは第一回戦と同じく全メンバーでの総力戦を仕掛けた。

　最終決戦はやはり全面衝突で決着をつけたいよねぇ、とローザが考えた結果だ。このDelphiniumパーティの行動パターンの情報は既にローザから欅達に伝えられており、リーリエ達も全員で小細工を弄さずDelphiniumパーティと正面衝突する進路で進んでいる。

　リーリエ側のメンバーはリーリエ、欅、エヴァンジェリン、ペルシウム（ローザ）だ。

　エヴァンジェリンはオルカを、ペルシウム（ローザ）はシャーベット、魂絆融体している欅は柑橘の魔女シトラスクイーンの相手をすることが事前の作戦会議で決まっており、残るDelphinium、ブリザード、バトラコはリーリエが相手することになっている。

　これが最もリーリエが勝率が高いと考える作戦だった。

『漆黒無双両太刀・黒刃大竜巻（ヴォーパル・ストーム）――圓式比翼』

『ダークマター！』

　エヴァンジェリンが圓式で漆黒の靄のようなものを纏わせた両刀をクロスさせ、そのまま八の字を描くように剣を斜め下方向に高速で振り抜くことで漆黒の竜巻のような斬撃をオルカへと放つのとほぼ同時にペルシウム（ローザ）がローザがレベル95で習得する闇魔法を発動し、暗黒物質を顕現して勢いよくシャーベットの足元から噴き上げた。

　この二人の攻撃でオルカとシャーベットはそれぞれエヴァンジェリンとペルシウム（ローザ）を標的に定めて攻撃を開始する。

『這イ寄ル木偶ノ坊――蔓鞭ノ乱打！』

　一方、欅は植物で自分の分身を大量に作り出し、一斉に柑橘の魔女シトラスクイーンに作り出した蔓を鞭のようにふるって攻撃を仕掛けた。

『――シトラス・シューティング』

　左手に橙色の光が収束した矢が顕現し、高速でボウガンが引かれ、放たれると同時に分裂する。

　伸びた蔓の鞭が命中する前に橙色の光が収束した矢が次々と欅の分身達を撃ち抜いていくが、本体の欅を含めて約半数は紙躱を駆使して回避し、武装闘気と覇王の霸気を纏わせた鞭で柑橘の魔女シトラスクイーンを連打する。

「【黄金錬成】！　過剰殺傷を付与する者（オーバーキリング・エンチャート）！　勇者に捧ぐ聖女の祈り（プレイ・フォー・ザ・セイント）！　超絶技巧曲ラ・カンパネラ、超絶技巧のヴィルトゥオーソ、スフォルツァンド、フォルティシシシモ、神速のエチュード、快活のヴィヴァーチェ！　極技・終焉波動剣（エターナル・ハイウェイヴ・ソード）！　メトロノームヘイスト！」

　【黄金錬成】の膨大なエネルギーを付与術師系四次元職の極大付加術師の奥義によって無効化し、その威力分攻撃力を上昇させたところから始まり、怒濤のバフコンボを仕掛けたリーリエは最後に吟遊詩人系四次元職の吟遊帝が習得する特技で使用済み特技の再使用規制時間タイマーを加速させ、「虚空ヨリ降リ注グ（アメノム）真ナル神意ノ劒（ラクモ）」をバトラコへと放った。

　最上位プレイヤーであるリーリエが本気強化した侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義とも言える最強の物理系範囲攻撃特技を直撃で浴びて耐え切ることはできず、バトラコは跡形もなく消滅した。

「殺戮者の一太刀（エクスターミネーション）」

　更にそのままバフがある状態でカノープスの魂魄の霸気――《姿眩瞬移》を使ってブリザードに肉薄する。

　直後、ブリザードが大きく翼を広げ、猛烈な吹雪を地上へと放った。

「このタイミングで『吹雪（スノーストーム・ブリザード）』ねぇ……第四防衛術式（プリティヴィー・ムドラー）」

　リーリエはエイミーン戦で獲得した《奏者》で「第四防衛術式（プリティヴィー・ムドラー）」を使い、欅、エヴァンジェリン、ペルシウム（ローザ）を守ると、自身は再使用規制無効化時計（リキャストブレイクロック）を叩き割って再使用規制時間（リキャストタイム）をゼロにして「過剰殺傷を付与する者（オーバーキリング・エンチャート）」で攻撃を無力化――更にリーリエは攻撃力を高めた。

　ちなみに、『吹雪（スノーストーム・ブリザード）』はデータ上では大した攻撃力のない小技なのだが、ブリザードが使うそれは湖を単体で完全に凍結させたり、状態異常が一部を除いてほとんど効かないレイドボスを全身凍結させて三時間行動を封じるほどの威力がある。「ブリザードの皮を被った何か」とプレイヤー界隈でブリザードは呼ばれていたが、その根幹にはこの技がある。

　ちなみに、他には口から凍結効果を持つ光条を放つ『凍結光条（アイスレイ）』などの技も有するが、こちらも侮り難い威力を秘めている。

「火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎矢（フレア・アロー）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎矢（フレア・アロー）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎矢（フレア・アロー）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、焔爆熱撃（フレア・バスター）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、炎槍（ファイア・ジャベリン）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、火球（ファイア・ボール）、大焔烈渦撃（ファイアー・ブレイク・インパクト）、深淵より顕現せ（ムスペルスヘイム）し大焦熱の極焔（ズ・インフェルノ）」

　リーリエは確実にブリザードを仕留めるべくコンボを重ねた。

　コンボを重ねることで魔法の威力は上昇していく。その力でただでさえ強力な「深淵より顕現せ（ムスペルスヘイム）し大焦熱の極焔（ズ・インフェルノ）」の威力を更に上げる作戦だ。

　リーリエのこの慎重に慎重を重ねたような作戦は結果として成功を収め、ブリザードは焼き尽くされて消滅する。

『漆黒無双両太刀・黒刃纏雷閃（ヴォーパル・ブラスト）――圓式』

『キゥィイー！！！』

　オルカが「拡張する跳躍（エンハンス・ジャンプ）」を続けて攻撃力と速度を上昇させ、バリア潰し攻撃特技「障壁噛碎（ハッキング・バイト）」でエヴァンジェリンに襲い掛かる。

　しかし、エヴァンジェリンは一切油断なく武装闘気と覇王の霸気を纏わせた『死を司る戦乙女の双剣（ヴァルキューレ・ダブル）』を振るい、遂にオルカを撃破した。

　速度を増していくオルカに何度も斬撃を浴びせたが、仕留められたのはオルカの速度が異常なほど高まって攻撃に転じたところだった。

　ギリギリの戦いをエヴァンジェリンが演じていた頃、ペルシウム（ローザ）とペルシウムの戦いも佳境を迎えていた。

　HPもレットゾーンに突入し、大幅にリキャストタイムの回復を阻害するジャミングの効果と六十秒間目の前が真っ白になる特殊盲目状態の発生効果のある吹雪を発生させる「妨害猛烈吹雪（ドライビング・ブリザード）」から直撃すると上位プレイヤーでも一撃で沈むほどの高威力を誇り、更に攻撃で死亡した場合、百八十秒の蘇生禁止効果が発生する全力を込めた右ストレートを放つ無属性即死級物理攻撃――「即死級雪猛拳撃（バニシングキラー・ブロウ）」を放ってきたシャーベットに対し、ペルシウム（ローザ）は二十発目の「マキシマム・セレスティアルレイ」を放った。

　リーリエはペルシウム（ローザ）に説明していなかったが、シャーベットゴーレムには日属性以外にもう一つ弱点がある。

　それは、光属性だ。『Eternal Fairytale On-line』のお菓子系の魔物の中には「直射日光をさせての保存をお願いしております」という特殊な技を持ち、光属性攻撃を浴びた際に光属性に対する耐性が大きく下がる場合がある。シャーベットゴーレムも元々光属性が弱点な上に、この「直射日光をさせての保存をお願いしております」という隠し特技を持ち、ステータスが下がっていく類の魔物だった。

　「氾濫し雪崩れる氷菓子（アヴァランチ・シャーベット）」であれば勝ち目がなかったかもしれないが、最後の攻撃は威力が高い代わりに攻撃範囲も狭く、なおかつ接近技ということで近づかれる前に最後の「マキシマム・セレスティアルレイ」を放ち、撃破することに成功した。

◆

『シトラス・マジカルエラップション。――シトラス・ミーティア』

　橙色の巨大な魔法陣が一瞬にして欅の足元に顕現し、間髪入れずに橙色の光が噴き上がった。

　欅は強化された敏捷で危なげなく橙色の光の範囲から脱出すると、上空から降り注ぐ巨大な蜜柑を躱し、「星砕ノ木刀」によって作り上げた木の繊維を凝縮し、真剣とも張り合え、身体を突けば貫通させるほどの超強力な木刀に武装闘気と覇王の覇気を纏わせて柑橘の魔女シトラスクイーンに斬撃を浴びせた。

　既に蔓の鞭による六十回以上の攻撃を浴びていた柑橘の魔女シトラスクイーンは欅の最後の攻撃に耐えられず、無数のポリゴンと化して消滅する。この時点で、DelphiniumのパーティのメンバーはDelphiniumただ一人となった。

『髑髏の一閃（ジョリー・ロジャー）』

　Delphiniumが『海賊女帝の湾曲刀（メアリリード・カットラス）』を振るうと、斬撃が漆黒の髑髏の靄となってリーリエへと襲い掛かる。

　イベント職の海賊女帝が習得する低確率で即死を発生させる斬撃をリーリエは「吸血姫の翼」を駆使して躱し、そのままDelphiniumに肉薄する。

『海賊式決闘（パイレーツ・デュエル）！　海賊剣士の速撃（パイレーツ・スピードスラスト）』

　イベント職の海賊女帝が習得する攻撃力と敏捷と幸運値を上昇させる代わりに防御力を低下させる特技を発動した後に、イベント職の海賊女帝が習得する最も速い斬撃を五連続で浴びせる特技を発動したDelphiniumに対し、リーリエは圓式基礎剣術の二刀流で応戦――五連撃をすべて防ぎ切ると同時に斬撃を繰り出した際に筋肉の収縮を連続でおこなうことによって、その際に発する衝撃波を武器を通して相手に叩きこむ「常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀」でDelphiniumの剣技を切り崩し、至近距離から「万象無ニ還ス靈劔（アメノオハバリ）」を放った。

　一条、二条、三条、四条――無数に伸びた線状の斬撃がDelphiniumを貫くと同時に消滅させる。

　Delphiniumが戦場から消え、この瞬間、ドリームチームトーナメントの優勝パーティがローザパーティに決定した。