Act.8-38 誕生日会の二次会と、ドリームチームトーナメントと……。第二部 scene.1 下

<三人称全知視点>


『……ん? 新手二人か。予定通りだな』


 猛烈な速度で槍投げの要領で投擲された武装闘気を纏ったコンツェシュを『死を司る戦乙女の双剣ヴァルキューレ・ダブル』で打ち返すと、エヴァンジェリンは森の奥からやってくる二人に視線を向けた。

 一人は串刺し用のコンツェシュを作り上げるアンタレス、もう一人は解剖用のメスに武装闘気を纏わせたシュトルメルトだ。


「予定通りってどういうことかな?」


『ローザ様は完全勝利をお望みだ。ローザ様がネスト様大将を仕留める前に他のメンバーを全滅させなければならないからな。既に二人は撃破しているし、残る二人を倒せば……進捗状況は私にも分からないが、これで完全制覇に一歩近づく』


「そう簡単に勝たせるつもりはないよ。――斬られる前に美しく捌いてしまえばいいだけの話だ」


 冷気を纏わせたメスを構えたシュトルメルトはエヴァンジェリンに肉薄したが、大気を擦過する輝きを目にしたシュトルメルトは既のところで踏み止まって斬撃を回避した。


『漆黒無双両太刀・黒刃雷閃大竜巻ヴォーパル・ブラスト・ストーム!』


 しかし、エヴァンジェリンの攻撃はこれで終わらない。瞬時に圓式から自分の剣技に切り替えると刃に黒い雷を奔らせ、漆黒の靄のようなものを纏わせた両刀をクロスさせ、そのまま八の字を描くように剣を斜め下方向に高速で振り抜き、黒い雷を纏った漆黒の竜巻のような斬撃を放った。

 シュトルメルトは武装闘気を纏い、更に武気衝撃の派生で全身に武装闘気のオーラを纏わせる武装昇気を発動して防御に転じるも、その防御諸共切り刻まれる。


 その瞬間、背後に回っていたアンタレスがコンツェシュを思いっきり突き刺しに掛かったが、振り返り様に放たれた不可視の太刀が突き刺す前にアンタレスの胴を切り裂いた。



「……まさか、姉さんとこうして戦う日が来るとはね」


 ネストは複雑な感情を表情に滲ませていた。

 大切な姉に武器を向ける……例えこれが死の存在しない試合だと分かっていても、心のどこかで躊躇している自分がいる。


「その気持ちは嬉しいけど、躊躇して何もできない義弟を痛ぶる趣味はないからねぇ。……お姉ちゃんにこれまでの成果を見せる意気込みで勝ち負けなんかは考えないで戦えばいいんじゃないかな?」


「全く、姉さんには敵わないな」


 ネストは精神を統一して集中すると、『黒刃天目刀-濡羽-』を構えた。

 対するリーリエは従魔合神を解除すると、ローザの姿に戻って『漆黒魔剣ブラッドリリー』を構える。


「欅さん、梛さん、樒さん、椛さん、槭さん、楪さん、櫻さん、悪いけどこの戦いはボクに任せてねぇ」


『『『『『『『承知いたしました。ローザお姉様、ご武運を』』』』』』』


 魂絆融体を解除した欅達が見守る中、始まった決戦で先に動いたのはネストだった。


「エアリアル・ウィンドテンペスト」


 レベル99で習得する固有最上級風魔法を発動し、巨大な竜巻を放つネスト。


「闇纏魔剣・次元両断」


 対するローザは闇を纏わせた剣で斬撃を飛ばし、空間ごとぶった斬ることで巨大な竜巻を見事に両断して見せた。


「……流石にこれじゃあ姉さんを倒せないよね」


 この魔法はかつて幼いネストにローザが披露して見せたものだ。当然、対策は当にできているだろう。

 ゲーム時代はネストにとって切り札と言っても過言ではない魔法だったが、今のネストにとっては挨拶代わりのジャブに使われるような魔法だ。


「それじゃあ、これならどう? 烈旋空針暴颶嵐域エアニードル・テンペストリージョン


 発生した巨大な暴風の領域で風を数百ナノメートルサイズという微小な刃状に形態変化させ、領域に存在する全ての切り刻む魔法を今のローザの立ち位置を起点に発動した。

 裏の見気によってネストの思考が全く読めない状況でありながらも次のネストの行動を予測していたローザは「天魔纏身」を発動して天使と悪魔の力を宿すと、純白と漆黒の翼を羽搏かせて飛翔して暴風の領域を脱出し――。


術式霧散マギグラム・ディスパージョン


 暴風の領域を構築する魔法式そのものを無意味なエネルギーの羅列へと分解し、無力化して見せたローザは武器先から闇の魔力の奔流を解き放って往復させる「イービルストーム・ウェイン」を放った。


暴風雷嵐雲ストームクラウド・ライトニングロア


 ネストは暴風を伴った雷を発生させる黒い竜巻の雲を発生させる風属性と雷属性を複合したオリジナル魔法を放ちながら「イービルストーム・ウェイン」を躱し、更に『黒刃天目刀-濡羽-』に闇を纏わせた。

 雷の属性はネストの生来のものではなく、『E・M・A・Sエマーズ』によって獲得したものだ。

 この二つの属性を手に入れたことで、ネストの技のレパートリーは大きく幅が広がっている。


 ちなみに、闇属性の魔力は討伐した魔物を生贄として後天的に獲得したものだ。

 人間の中にはごく僅かしか生まれ持って生まれず、大半の保有者は魔族であるこの闇属性も実は暗黒魔法と同じく儀式によって後天的に取得することができる。闇魔法取得の儀式にも生贄が必要だが、人間である必要はない。

 禁忌の魔法としてその方法は暗黒魔法の秘技共々最重要機密となっているが、魔物を討伐する冒険者であれば実は誰でも簡単なハードルで取得できるものなのである。


「闇纏暗殺剣・黒十文字」


 闇を纏わせて十字斬りを繰り出したネストに対し、ローザは「闇纏魔剣・黒一文字」を繰り出して粉砕すると、上空に「ブラックホール・フェイク」を放って雷撃が放たれる前に「暴風雷嵐雲ストームクラウド・ライトニングロア」の暗雲の竜巻を全て呑み込んで消し飛ばし、超狭範囲に大量の暗黒物質を顕現して勢いよく地面から噴き上げる「ダークマター・フラグメント」を放った。


 神速闘気を纏ったネストは素早く範囲外に抜け出すと、「暴風雷嵐雲ストームクラウド・ライトニングロア」と「烈旋空針暴颶嵐域エアニードル・テンペストリージョン」、「エアリアル・ウィンドテンペスト」を同時に発動した。

 そこでネストの魔力は底をついた……が、既にローザは魔法の範囲内だ。何故か・・・無効化された様子もない。


 一抹の不安も最愛の姉に勝利する――つまり、姉の隣に並び立てる強さ証明した喜びを前に霧散した。普段のネストならばその違和感に気づくことができただろうが、勝利の美酒に酔いしれていたネストは、全く違和感を抱かなかった。


「……なかなか強くなったねぇ。まさか、ボクを一度殺すなんて……ネストは本当に強くなったよ。でも、ちょっとこれはお粗末なんじゃないかな? 慎重に慎重を重ねて、相手を倒したことをちゃんと確認しないとねぇ」


 そこには無傷のローザが立っていた。装備は勿論、美しき白肌には小さな傷一つない。


「……そうだよね、僕の姉さんがこんな簡単に負ける訳がないよね。……僕は自分の力を過信し過ぎていたみたいだ。……魔力、無くなっちゃったな」


 最大火力で魔法を展開し過ぎたネストは攻略対象ということで比較的高い魔力保有量を持ちながらも、魔力が既に底をついていた。


「……姉さん、なんで避けなかったの? 実は避けることも無力化することもできたんじゃないの?」


 魔法の展開はネストのでき得る最速で、逃げ道を防ぐように展開したが、ローザであれば予測して回避行動を取ることも、無効化することもできただろう。

 だが、その兆候が全く見られなかった――だからこそ、ネストはローザに勝利したと勘違いしてしまった。


 しかし、ここで疑問が残る。もし、ローザがネストの攻撃で倒されたと勘違いさせることを狙ったのなら、何故折角作り出した隙を不意にするような真似をしたのか。


「まあ、確かに避けることも魔法そのものを分解することもできたけどねぇ。でも、今回はちょっとお披露目したい魔法があったから。起源再成オリジン・リヴァイヴ複写再成バックアップ・リヴァイヴ――ボクが新たに開発した時間属性回復魔法の奥義。ボクはその複写再成バックアップ・リヴァイヴを使って文字通り自分を蘇生させたんだよ」


 「起源再成オリジン・リヴァイヴ」は過去の魂を起源とする蘇生魔法で、過去に存在する魂を起点として、魂を瞬時に再生する効果がある。

 即効性のある魔法であるが、絶えず魔法を発動しておく必要があるというのが欠点だ。

 魂が完全に消滅している場合は修復することができないが、一部分でも残っていれば再生することができる。


 「複写再成バックアップ・リヴァイヴ」は二十四時間まで肉体の履歴情報を遡り、外的な要因により損傷を受ける前のデータを上書きすることで傷を修復する蘇生魔法だ。

 肉体を修復するのみなので、死者を蘇らせることはできない。


 どちらも永続発動型で常に膨大な魔力を消費するが、万が一殺された場合に瞬時に蘇生して復活することができる。

 この死後に発動するタイプの蘇生魔法は『Eternal Fairytale On-line』には「不死鳥甦光癒ザ・フェニックス」しか存在しない。神聖魔法での再現が可能かもしれないが、今のところは極めて希少な魔法だ。


「……凄いね、姉さんは。毎回毎回、想像を優に超えてくる……僕じゃ到底及ばないよ」


「ボクには転生する前の記憶と、引き継いだ膨大な力があるからねぇ。元々の土台が違うんだから、そこに追いつこうっていうのは本当に凄いことだと思うよ。ネストは十分に強くなったし、きっとこれからもっと強くなると思う。――まあ、今回は試合だし、本気で行かせてもらうけどねぇ」


 ローザは『漆黒魔剣ブラッドリリー』を構え、地を蹴って加速した。

 ネストは武装闘気を纏わせると『黒刃天目刀-濡羽-』でローザの初撃を受け止める。


 圓式ですらない斬撃でもネストの腕に衝撃が走るほどの猛烈な一撃だった。


雷吼剣ライトニング・ロア


「桃郷一刀流壱之太刀・桃式山崩し」


 『E・M・A・Sエマーズ』によって発動した雷撃を剣に纏わせたネストと太刀を覆い尽くすように浄化の性質が付与された霊力を伸ばして巨大な大剣へと変化させたローザの剣が衝突する。

 桃色の巨大化した剣を受け止めたネストだったが、その瞬間にはローザの武器を持たない左手がすぐ間近へと迫っていた。


 反射的に指に稲妻を纏わせ、ローザの心臓を抉り取ろうと手を伸ばすネストだったが、それよりも先にローザの「静寂流十九芸 体術三ノ型 外衝勁」が放たれ、ネストは遥か後方へと吹き飛ばされた。


「桃郷一刀流奥義・浄土桃斬。渡辺流奥義・颶風鬼砕。千羽鬼殺流奥義・北辰」


 浄化の性質が付与された桃色の霊力と鋭い風の刃をイメージした霊力を武器に宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させて周囲全てを斬り捨てた。

 善悪や真理をよく見通し、国土を守護し、災難を排除し、正邪を見極め、敵を退け、病を排除し、また人の寿命を延ばす福徳ある面と、それが邪であれば寿命を絶ち斬る面の二つの顔を持つ菩薩の名を関する通り、斬りたいものを斬り、斬りたくないものは斬らないという斬るものを選別する北極星の別名の名を冠する千羽鬼殺流の奥義の効果でネストだけを狙い撃ちした斬撃は一瞬にしてネストを切り裂き、無数のポリゴンへと変えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る