Act.8-2 ローザ・ラピスラズリ十歳の誕生日 scene.1 中

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト>


 ラインヴェルド達王族御一行様の到着はかなり遅くなるらしい……まあ、勿体ぶって登場するよねぇ、王族だし。いや、本当は騒ぎになるしあらぬ疑いを掛けられるから参加を断念してもらいたいんだけどねぇ。


 この王族御一行様というのは、婚約者や正妃、側妃などが含まれない純粋な王族御一行様ということで、スザンナやスカーレットは含まれない。当然、未だ婚約を結ぶことすらしていないルークディーンも王族とは別にヴァルムト宮中伯家として参加する模様。


 ちなみに、この宮中伯という立場は辺境伯と並んで普通の伯爵家とは一線を画す力を持っている。

 王家の分家筋の五摂家が分類される大公、ヴァルムト宮中伯家を含め二つある宮中伯、ブラックソニア辺境伯家とフンケルン大公家(辺境伯兼任)のみが有する辺境伯は特殊だから気をつけないといけないねぇ。


 意外なことだけど、アクアマリン伯爵家は普通の伯爵家。元々は、普通の貴族だったんだけど、今代のアーネストが優秀過ぎてヘッドハンティングされて宰相になり、そこからクソ共を束ねて辣腕を振るっているから、この国で誰よりも恐ろしい人な気がするけど……そういえば、より上の爵位を叙爵されるなんて話も上がったそうだけど、立ち消えになったんだっけ? まあ、宰相と辺境伯は両立できないし、宮中伯はそれこそ長年国家と王家に忠実な臣として仕えてきたという実績がなければ成立しないからねぇ。

 ……表向きは万が一国が後継者争いで分裂した時に、その仲を取り持つための宮中伯だし。まあ、実際は血塗れ公爵が動いて反旗を翻した者達を粛清し尽くすんだけど。


「……どう考えても、この国のジョーカーは宮中伯じゃなくて血塗れ公爵だよねぇ」


「本気になればこの国を半壊させられるローザに言われてもあんまり実感が湧かないけどね」


 ヴァルムト宮中伯家御一行様が会場入りした後で、そうボソッと呟いたんだけど、カノープスはポーカーフェイスのまま謙遜の言葉を口にした。……我が父ながら真意が容易に掴めない人だし、油断ならないからこの言葉もそのまま鵜呑みにしないほうが良さそうだねぇ。

 しかし、今のこの国でのボクの扱いってどうなっているのかな? ラインヴェルド達は多種族同盟の代表として国家の盟主よりも上位に位置する存在と見ているように思えるし、フォルトナ王国ではドゥンケルヴァルト公爵の地位を賜っている。でも、ブライトネス王国ではラピスラズリ公爵家の公爵令嬢、それ以上でもそれ以下でもないってことか。格別美人という訳でもないし、付加価値ないしねぇ。



 一番面倒そうな天上の薔薇聖女神教団御一行様がアクアとディランに続いて二番目に会場入りし、マルゲッタ商会の会頭夫妻、ビオラ商会のアンクワールとペチカの親子、ジリル商会の会長夫妻と孫のジィードと商会関係者が続いた。

 マルゲッタ商会のルアグナーァ=マルゲッタ、オーギュスティーヌ=マルゲッタとは簡単に挨拶をしただけで特に変な勘ぐりをされることもなく終わった。……この人達、ジリル夫妻よりも勘が鈍い気がするよねぇ……まあ、ローザ =アネモネに気づける方がおかしいんだけど。


 ビオラ商会代表のアンクワールとペチカにも他の参加者にしている挨拶と寸分違わないものを行ったんだけど、二人からの「猫被り過ぎでしょ!」という視線ツッコミが痛かった。……まあ、一次会の堅苦しさは申し訳ないけど、我慢してもらうしかないんだけどねぇ。その分、二人には二次会で埋め合わせをするつもりだからねぇ……なんでボクの誕生日会でボクが埋め合わせをしないといけないのか甚だ疑問だけど。


 ジリル夫妻はボクに何か言いたそうだったけど、場の空気を読んで当たり障りのない挨拶をして中に入っていった。

 まあ、言いたいことは死亡したカルロス=ジリルに関してだよねぇ? あれほど姉を慕っていたカルロスが事件に関与していない訳がない。あの馬車の転落しも偽装だったんじゃないかって考えてもおかしくはない。

 その事情をボクが知っている可能性も一度は考える筈。まあ、二人に説明しても問題はないし、後日時間を作ってカルロスの件は説明しておいた方がいいかもしれないねぇ。


 ちなみに、ジリル商会御一行様に関わりそうな位置の仕事はジーノ辺りが気を使ってくれたのかシェルロッタが受け持つこととなった。

 そのおかげかシェルロッタがジィードと共にいる光景も何度か目にした。歳の離れた姉と弟というよりは、父と子のようなイメージがダブって見えるよねぇ。まあ、実際そうなんだけどさ。


 そこから貴族達が次々と会場入りしたんだけど、その中で特筆しておくべきなのはヴァーミリオン侯爵家御一行様、ブラックストーン子爵家御一行様、ライブラリア子爵家御一行様、スフォルツァード侯爵家御一行様とブラン伯爵家御一行様、第一騎士団騎士団長のジルイグスと息子ゼルド、第二騎士団騎士団長ディーエル、第三騎士団長のモーランジュ、天馬騎士団騎士団長イスタルティ、陸上騎兵団騎兵長ペルミタージュ、王国宮廷近衛騎士団騎士団長のシモン、スザンナとミーフィリア、レミュアの仲良し二人組と弟子一人のグループ、この辺りかな?

 そして、たった今ヴァルムト宮中伯家御一行が会場入りし、アクアマリン伯爵家の馬車が正門に止まったというところ……まだ貴族のリストの三分の一くらいは来ていないし、もう暫く掛かりそうだねぇ。


「本日は私の誕生日会にようこそお越しくださいました。アーネスト様、ミランダ様、ニルヴァス様、ソフィス様」


 本日何回目か分からないカーテシーで礼を取る。……なんか作業に成り果てている気がするけど、気のせいかな?


「お招きありがとう。……しかし、本日の主役であるローザ嬢が何故出迎えを?」


「誕生日会にわざわざお越しくださる皆様に少しでも気持ちよく会場入りして頂きたいと思いますから、私がお出迎えするべきだと思いまして。皆様が会場入りした後は私も参加者の皆様に改めてご挨拶させて頂きますわ」


「……本当に大変ですわね、ローザ様。お気持ちは大変嬉しく思いますが、あまりご無理は為さらないでくださいね」


 ミランダが天使に見えるよ! あっ、比喩の方ねぇ……ボクの周りにいる大人ってどいつもコイツも鬼畜だから優しさが滲みるよ。


「ニルヴァス様、ソフィス様、二次会のご招待の取り消しは大変申し訳ございませんでした。この埋め合わせは後日、お茶会で致しますので」


「ローザ様がお気になさることではありませんわ! ただ、お茶会にお招き頂けるのは嬉しいです!」


「しかし、ローザ様のような方が出した招待状を取り消すとは珍しいですね」


「ニルヴァス様、大変申し訳ございません。……今回の招待状を送ったのはお父様とラインヴェルドとかいうクソ野郎でして」


 うん、大丈夫。ラインヴェルドは「大丈夫大丈夫、みんな俺のことは『陛下』と呼んでいるんだ。その名がラインヴェルドだと認識している者は少ないし、大丈夫だろ?」って言ってたし……まあ、ラインヴェルドなんて個性的な名前の奴なんてお前以外にいねぇし、「ニュアンスがなんだか似ていますね~」って声掛けられて「よく言われます」と返して同行していたバルトロメオをヒヤヒヤさせてって話聞いているからな? ……ってか、お前もなんで同行しているんだ、バルトロメオって感じだけど。


「はぁ……またクソ陛下か。何故この国にはこう問題児しかいないのだ! ……まあ、今回はいい。王太后様のお越しになられるとなれば、クソ陛下もクソ王弟もクソ殿下もなんとか手綱を……誰か一人、クソ野郎を忘れているような」


 この場でナチュラルに陛下や王弟、殿下にクソってつけられる時点で凄い胆力だねぇ、アーネスト。貴公子の如き美貌が一瞬にして苦労人のそれに早変わり。


「ところで、一つお願いしたいことが。……実は、アクアとディランさんが暴走気味でねぇ。ビアンカ王太后様でも二人をどうにかするのは難しいでしょう? そこで、アーネスト様にあの二人のことをお願いしたいんだけど」


「……はぁ、折角今日は休みだったというのにあの二人の面倒を……分かった。ローザ嬢の頼みだし、私以外に引き受け手もいないだろうからな。それとなく注意はしておこう」


 ……ご迷惑をお掛けします。まあ、ボクが散々言って聞かせてもダメだったし、あくまで気休めなんだけどさ。

 アクアとディランの問題児っぷりは五年前から全く変わっていないどころか、寧ろ悪化している気がする。……よくあれでディランとか猫かぶって来れたよねぇ。



 ほぼ全ての参加者達が会場入りした頃、王族御一行様が到着した。

 ビアンカ、ラインヴェルド、バルトロメオ、ヴェモンハルト、ルクシア、ヘンリー、ヴァン、プリムラの主要王族全員に統括侍女のノクト、離宮筆頭侍女のニーフェ、王子宮廷筆頭侍女のレイン、王女宮筆頭侍女のペチュニアという他に類を見ない欲張りセット……まあ、そりゃラピスラズリ公爵家が王家とより強固な関係を作ろうと目論んでいると思われても仕方ないだろうねぇ。


 ちなみに、ラインヴェルドの事前説明によれば、今回はビアンカ、ヘンリー、ヴァン、プリムラの四人や同僚となるニーフェとの顔合わせ、ボクと交代で王女宮筆頭侍女を辞任するペチュニアとの顔合わせなどの意図があるらしい。

 ペチュニアとは後で引き継ぎを行える場を用意するそうだけど、ボクの人となりの確認を事前にしておきたいという思惑もあったんだろうねぇ。


 意外にもブライトネス王国の影の実力者と言えるビアンカやビアンカに長きに渡って仕えてきた全侍女の中で事実上のナンバーツーの地位にあるニーフェとの面識はこれまでに無かった。

 まあ、二人ともボクの事情は知っているんだろうけど。

 ……ミランダの古くからの友人であるビアンカはバルトロメオもタジタジになるほど恐ろしいみたいだし、レインも含め三人はボクの同僚や上司になる……気を引き締めていかないとねぇ。

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